マイワシ:東北海域のものと同一の太平洋系群とされている道東に来遊する群を対象とした北海道釧路沖のまき網漁業の漁況は,7月には荒天が多かったこともあり低調で,前年同期を約10万トンも下回った水揚げであったが,8月以降は好漁が続き10月末までの道東主要港における総水揚げ量は,前年の94%(96.2万トン,前年は102.8万トン)程度にまで持ち直して,史上最高を記録した前年に次ぐ好漁に終ったとのことである。一方,東北海域においては,1〜5月上旬までは常磐以南の海域での好漁が持続した。5月中旬には北部海域(八戸近海)でも漁場の形成がみられ,前年より1週間も早く,しかも8〜9℃とやや低めの水温での漁場形成であった。5月下旬には例年どおり銚子近海ではマサバが漁獲されはじめ,ターゲットの変更によりまき網漁獲は低下した。また,北部域ではマイワシ漁場の形成がみられなくなり,中間の宮古〜金華山沖に形成された。この漁場は次第に沖合へ移る傾向を見せたのが特色である。東北・常磐海域の6月のまき網漁場は,前年に比して長期間持続して形成される傾向が目立った。八戸の北,下北半島沿いに形成されたマイワシ漁場は,10月以降好漁が持続して,12月中句に一度消滅したかに見えたものがその後も存続し,年明けまで操業がみられたのが特徴である。八戸〜銚子港までの主要漁港におけるマイワシまき網の水揚げ量は,149万トンと前年(161万トン)の93%に達した。前年に及ばなかったのは,1〜2月と7〜11月の常磐〜鹿島灘海域での前年を下回る漁況が原因といえよう。
マサバ:1〜2月には前年を上回る漁獲が各海域でみられ,特に銚子港への水揚げはかなりの量に達したのだが,その後犬吠埼近海を除いて漁切れとなってしまった。6月に入って,犬吠埼沖合では前年の4倍近い漁獲が突然みられ,例年にない現象を示したが7・8月には例年通りに目ぼしい漁況は見られなくなった。9月下旬になって,三陸北部に漁場形成がみられてサバ漁の本格的シーズンに入った。しかしながら,八戸沖には漁場の形成がほとんどなく,いずれも黒埼以南が主であった。さらに,本年は咋年にも増して漁場の沖合化傾向が著しく,金華山のかなり沖合域での漁場形成が話題となった。八戸港はサバの大量水濠げに湧くことなく終漁した。八戸〜銚子港までの主要港におけるまき網のマサバ水揚げ董は36万トンと前年(45万トン)の79%にとどまった。12月に入って南部毎域では大型群の若干の好漁がみられたが長続きはしなかった模様である。
スルメイカ:6月上旬に東北各地の定置網へのスルメイカの入網で漁期は始まった。特に岩手県沿岸の定置網には量的にはマイナーだがコンスタントな入網がみられた。三陸沿岸域におけるスルメイカ釣りも6月中〜下旬頃より開始された模様である。7月に入り,東北海域各地で釣り漁業が本格化したが,漁況は薄漁模様で経過した。何処の海域においても7,8,9月とも漁況は一向に上向かず,前年同期に比して低調な漁況で終始した。さらに10月に入ると荒天等の影響から出漁船が減少し漁切れ状態を示すに至った。前年は11月以降も年末まで,特に北部域では結構な漁が持続したが,本年はその傾向もなく,11月には次つぎと釣り漁は終漁状態となり,極端な不漁で終了した。岩手県沿岸の定置網へのスルメイカの入網は10月になっても好調であったが,この傾向はついに近海域の釣り漁況には反映せず,また,その水揚げも量的には微微たるものであった。八戸港における近海イカ釣り漁の年間水揚げは414トンで,前年(2,309トン)の18%にとどまった。
アカイカ:7月中旬後半から,スルメイカの不漁対策としての沖合域におけるアカイカ釣り漁が,岩手,福島両県沖で開始され,前年より早めに漁期に入った。8月以降急速に漁況は上向き,11月上旬末までにはいずれの漁港でも2倍以上の水揚げがなされた模様である。また,沖合域の流し網漁業では,漁場が本土寄りに形成されたこともあり,漁況はかなり良好に経過した。主要水揚げ港の八戸のアカイカ流し網水揚げ量は,約5万トンで前年(3.8万トン)の1.3倍であった。本年6月と9月に実施した関係水研・水試によるイカ漁場一斉調査の結果でも,スルメイカの分布はほとんどみられなかったが,アカイカの分布が目立った。
サンマについては,8月に千島沖で開始された棒受網漁は,11月末頃までに全船が操業を切り揚げたが,本年の総漁獲量は約25.8万トンとなり,この数値が前年の22.4万トンの11%増にとどまったということのみを述べておくにとどめる。
資源の状態が最も隆盛な状態に在ると考えられるマイワシの水揚げ量が,道東,東北のいずれの海域においても,史上最高といわれた前年の93〜94%に終ったということは,何を示唆しているのであろうか?