ヒラメ稚魚の体色変化について

佐々木 實


 近年飼育技術の向上によりヒラメでも人工種苗放流が盛んに行われるようになった。この種苗生産の過程で高い頻度で出現する有眼側体色異常魚(白化ヒラメ)は,“正常魚に比較して放流初期の減耗が著しく大きいことが判明し,その種苗性に疑問がもたれ,白化個体の出現原因の究明とその防止対策が急務となっている”(昭和55〜59年度 放流技術開発事業総括報告書)。
 現在白化ヒラメの出現機構については,ふ化後の初期餌科,飼育環境,栄養さらに遺伝的な問題などとして捉えられ,各研究機関において原因解明とその対策について研究が進められているところである。
 筆者は日栽協宮古事業場で種苗生産されたいわゆる白化個体の混じり合ったヒラメ稚魚を,成長と遺伝子型との関係を調べる目的で長期間飼育している過程で,有眼側の白化部(白斑)が徐々に回復していることを観察したので,この点について二,三紹介する。この体色の回復は無給餌期間の越冬期に進み,さらに給餌期に入り成長するに従って顕著に認められた(図1)
 実験過程ではヒラメに標識を付けて飼育していたので,個体ごとの白斑部の状態を写真撮影によって記録した。給餌前と給餌後に撮った写真の白斑状態を面積計で魚体の表面積と白斑面積を計り,個体ごとの白斑発率(有眼側の全表面積に対する白斑面積の割合)を求めた。白化個体率は全尾数に対する白数個体の割合で示し,有眼側に白斑のある個体は,白斑の大きさに拘らず全て白斑個体とみなした。
 実験用ヒラメは宮古事業場で産卵,育成されたもので,宮古から1984年10月4日に東北水研増殖部屋外の巡流式水槽に収容したもので,数日後からオキアミとサンマのミンチを交互にあたえた。収容時の平均体長13.9センチメートル,体重26.0グラムで,白化個体率は59%で,以後の飼育期間の水温及び体長については図1に示した。
 約1ケ月後の11月9日に調べた白化個体率は58%であったことから,今回宮古事業場で生産されたヒラメの白化個体率は約60%弱と推定できる。
 1984年12月以降は水温の低下とともに餌付状態が悪くなったので,翌年4月10日まで無給餌のまま通水のみで飼育した。巡流式水槽には黒色の遮光幕で覆い,この間一度も開けなかった。
 1985年4月3日越冬したヒラメの尾数確認のため遮光幕をはずし,他の順流水槽に移しかえた。この時点で越冬ヒラメの白斑が少なく,白化個体の割合も少なく思われたが,4月30日に調べた白化個体率の調査では54%と越冬前のそれと大差はなかった。しかしこの時点では有眼側の全体が真っ白になっている白化個体は一尾も見られなかった(図2)
 4月30日から6月28日にわたって個体識別を行った約320尾のヒラメについて白斑率を求め回復の状態をしらべた。
 1985年4月30日,5月30日,6月28日の3回撮影した記録写真から白斑率を求めた。白斑率は飼育するにつれて,12.5%,3.4%,0.3%と減少し,特に6月28日の58日日での自斑率は殆ど零で,ヒラメ白化がほば完全に回復したことを示していた(写真参照)。この時点での白化個体率は0.78%と小さくなっていた。 これらのことは殆どの白化個体で同じような傾向で白化からの体色回復が見られたことを示している。
 今回の飼育実験は“白化ヒラメの体色回復”を目的としたものではなく,実験材料の育成の過程で得られた知見であるが,自然水温下で摂餌行動の低下した時点では無給餌と遮光の状態にし,摂餌行動の活発な時期には充分餌を与えるようにし,自然条件に合わせた飼育法の過程で“体色の回復”がえられたものである。
 現在ヒラメ稚魚について白化原因を明らかにし,色素正常魚の作出をねらい,次いで健康な種苗の大量確保を期待して研究開発が進められている。稚魚期の水温,給餌、光量等自然条件で巧みに産出されている“黒化個体”を,今回実験材料の確保のための飼育とはいえ,大量に得ることができた。
 今後も飼育の過程で,この再現性と正常魚の大量確保の可能性をさらに検討してみたいと考えている。
(増殖部魚介類研究室)

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