日米豪「暖水塊」セミナーに参加して

水野 恵介



 昭和60年5月20日から24日まで日米豪合同で暖水塊に関する“Japan−U.S.A.−Australia Seminar on WarmCore Rings”が東大海洋研で開催された。この会議の目的は黒潮続流,ガルフストリーム,東オーストラリア海流などの西岸境界流から発生する暖水塊に関してその物理・化学・生物過程を討議し合い,各々の共通点・相違点を明らかにし,将来共同の研究計画を作成する方向を目指すことにある。組織運営上の中心的役割を果たすOrganizing Commiteeは各国代表で構成され,日本側から根本,杉本(東大海洋研),米国側からWiebe,Joyce(WHOI),オーストラリアからはTranter,McDougall(CSIRO)の諸氏があたった。
 研究発表は20日から22日の間に行なわれ,米国のグループは暖水塊に関する学際的研究の実施直後ということもあって,興味深い研究成果が相次いで発表された。暖水塊を連続的に追跡し,その力学的な維持・減衰の機構,冬季の等温層の成因,暖水塊の周囲を取り巻く流条(ストリーマー)の持つ意味など,詳細な観測結果と理論モデルとの比較が有機的に結びつき,よく焦点の定まった研究が多かったように思われた。生物過程については,暖水塊中の鉛直循環や周囲の水との交換が暖水塊内外の生物相に与える影響が綿密に調べられ,この調査のために特別な測器や解析方法が積極的に開発されていた。一方,オーストラリアのグループは衛星を使って大規模なブイの追跡を長期的に行ない,渦の維持・変化の機構を解釈しようと試みており,また水産方面においても暖水塊がマグロなど回遊に影響をおよぼすことを指摘する水産の立場からの発表もあった。23日には箱根方面へ遠足が企画され気分一新して24日に総合討論に入り,1.暖水塊が海底において懸濁物質に及ぼす影響 2.ストリーマーの構造と力学 3.暖水塊のフロントの構造 4.冬季の等温層の形成などの諸点が将来,学際的に解決すべき課題であることが指摘された。更に,今後互いに情報交換や航海計画などで協力しあうこと,この会議は1988年10月にWoods Holeで開催することが確認され幕を閉じた。
 私にとってこのような会議は初めての経験であったが,論文でしか知らない外国の人々にじかに接してある種の興奮を覚え,比較的小規模な会議であったため割合気楽に話し合える雰囲気で大変楽しかった。研究については日本側は各人は非常によくやっているのだが異なった分野間の協力体制がやや弱いと思われた。これは組織上の問題もさることながら,米豪の研究者が他分野のことにも興味旺盛で,また深い知識を持っていることに感心した。恐らく,科学に対する基本的姿勢がよく備わっているように思われ,これは私にとっては見習うべきことだと感じた。
(海洋第1研究室)

目次へ戻る

東北水研日本語ホームページへ戻る