あとがき


 年を経し糸の乱れの苦しさに衣の縦(舘)は綻びにけり

 後三年の役に源義家が陸奥の豪族安倍貞任・宗任兄弟を討ったとき、義家と宗任の掛け合いでできたという有名な歌である。どうせ後世の誰かがもっともらしく作った話であろうが、その詮議はさておき、本号の記事のほぼ半分が、離着任の挨拶で埋められたという画期的な出来事を見ると、いよいよ”縦が綻び始めたか”との感一入(ひとしお)である。これからの数年間は、さらに多くの”挨拶”で表紙が埋まり、肝腎の記事に当てる分がなくなるおそれがある。しかし、これは古い糸の替りに新しい糸が補われていることも示しているわけで、安倍氏のように単に滅び去るのではない。ただし、補充される縦糸の数が少ない今、横糸を太くして布地を強化する必要がある。多彩な横糸を織り混ぜれば、今まで以上に美しい紋様を織り出す可能性も生まれてこよう。

(T・Y)

Tatsuo Yasui

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