着任挨拶

林 繁一



 帰り新参という言葉が持つおそろしい内容を、ここ2年余りの間に二度も味わうことになった。これは意識しないままに甘えてしまうことを意味している。慣れているからと言って、不在中に設けられた一方通行の道を逆に入りそうになるという程度ならまだしも、仕事の上で大きな間違いを犯してしまうことのないよう心している。そうはいっても春の東北自動車道を北上した際には、8年前の期待に似た感情が蘇ったものである。4年前には同じ道を南下したのだが、その後の4年間に、この研究所に起こった変化、とりわけ若い人達が増えたこと、その声が大きくなったこと−それは自身の表れと解しても良いと思うが−には目をみはる思いである。
 研究所の外側でも大きな変化があった。特に水産業のおかれている困難から、産業界にも、政策立案者にも、行政担当者にも、研究に対する期待が大きくなった。ただしその期待が限られた行財政の中で、どのようになるかということが気に掛かるのであるが。
 せばめられた遠洋漁場の生産量を維持する、もしくは労働の場を確保するために、日本周辺海域の利用形態を改善するという昭和52年以来の政策転換の必要は、米ソを始めとする各国の200海里政策の定着とともに一層大きくなった。この方針は基本的に正しいけれども、1平方キロメートル当たりの年間漁獲量が、200海里水域の平均で約2トン、沿岸域のみをとると5〜6トンに達しているという、現在の技術と漁業制度の下ではすでに極めて高度に利用されている周辺海域の生産の飛躍的な増大には余程の努力が必要となると言わねばならない。
 もちろんそれは研究者にとって、やりがいも魅力もある課題であり、新しい技術・考え方を展開する機会でもある。一方この研究所には40年近くにわたって、東北を中心に関係する地方庁の水産試験研究機関、教育機関、団体等と共に営々と積み重ねられた蓄積と言う大きな財産がある。高度技術の導入・作出と、蓄積された知識の活用によって、現在の難関を突破するために、我々は正念場に立っているのである。折しも研究基本計画の作成を控えており、研究所の内外で論議を重ねることにもなっている。研究の見直しと推進とを共に要求されている現在、その達成に向けて、大方のご協力をお願いして、着任の挨拶としたい。
所長

Shigekazu Hayashi

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