3.近海浮魚類の漁況経過

山口 ひろ常



 昭和59年の東北海区における主要浮魚類の漁況を簡単に述べると,マイワシの前年に引き続く好漁,マサバ・スルメイカの低位安定状態及びアカイカの低調傾向の進行とサンマの平年並みの漁獲ということになろう。1年間を通してみると,マイワシ・スルメイカは北部海域で,マサバは南部海域で良好な漁模様を示したといえる。以下に主要魚種ごとに漁況の概要を述べてみたいと思う。


 マイワシ:本海域と同一の太平洋系群を対象とする北海道釧路沖のまき網漁業では,漁期後半に時化が多く休漁が目立ったにもかかわらず,7〜10月の累積漁獲量は約110万トンに達し,史上最高といわれた前年の記録(100万7千トン)をあっさり更新したとのことである。一方,本海域では1〜5月中旬までの漁場は犬吠埼〜九十九里浜沖と銚子港近辺に形成され,前年を上回る好漁が続いた。前年より20日程度遅く,5月下旬には八戸鮫角沖にも漁場が形成され,中羽イワシの好漁をみたが,6月中旬〜7月の間は例年通り魚群の東遊はみられず,岩手県久慈沖以南にのみ漁場の形成がなされた。6月中旬以降は綾里埼〜宮古沖に広く漁場が形成され,7〜9月中旬まで前年並みの好漁が続いた。9月14日にマサバ目的のまき網漁業が八戸近海で開始されると,マイワシを対象とした操業は低調となった。八戸沖では9〜10月と断続的な漁獲はみられたが主漁場とはならず,好漁場は南偏して三陸中南部に集中した。11月上旬と12月上旬には鮫角沖にも散発的に漁場の形成はあったが,主漁場は黒埼以南に形成された。常磐以南では9月中旬〜10月中旬の間やや不調であったが以後は引き続き好漁が持続した。本年9月下旬〜10月には黒埼沖50海里や鮫角・八木沖30海里等と従来の陸棚上とは異なりかなりの沖合域にも漁場が形成される傾向がみられ,魚群の広範な移動傾向があったことを示した。


 マサバ:年頭の銚子近海におけるマサバまき網漁は4月中旬と遅くまで続き,時に好漁をみたが長続きせず低調なスタートとなった。さらに,過去最低でも1万トン近いオーダーで漁獲のみられた房総海域以南のたも掬い漁業の漁獲量は僅か760トンと大不漁で終了した。しかし,主要五港(八戸・気仙沼・石巻・小名浜・銚子)におけるまき網の年間水揚げ量は約39万トンに達し,不漁といわれた昭和56〜58年の平均(27万トン)をかなり上回った。本年は,夏季の若齢魚(T,U歳)主体の三陸北部海域のまき網漁場はついに成立せず,八戸沖の成魚の秋季盛漁期も僅かに2旬(正確には10月24日〜11月2日)と例年に比して極端に短かった。しかも八戸沖の北方には一度も好漁場の形成はなく,三陸中・南部が主漁場となり漁場の南偏傾向が目立った。また,9月18日に例年よりも相当早い時期に中・大型魚が犬吠埼近海に出現し,魚群南下の早かったことを示唆し,11月上旬には常磐海域への南下群の出現が本格化している。なお,11月中旬以降の漁獲物の組成は大・中サバからジャミサバ(21〜24p)主体と小型化した。これらの諸情報から,本年の漁獲増がマサバ成魚の資源量増大の徴候とは判断し難い。マイワシの漁場形成と同様に11月の常磐沖マサバ漁場は,従来よりも沖合に比較的長期にわたって形成されたという近年では珍しい現象を示した。


 スルメイカ:本邦沿岸で最大の資源であるいわゆる冬生まれ群を中心とした三陸近毎のスルメイカの漁況は,低調と評された前年とほぼ同水準に終ったといえよう。三陸海域での地先のイカ釣り漁業は7月に開始され,北部の漁場で好漁の傾向がみられた。主要水揚げ港の一つである八戸の近海イカ釣り漁業の昭和59年累積漁獲量は2,346トンと過去4年間で最高の56年の3,239トンに次いで多かった。しかし,地先釣り漁の10倍の水揚げがある沖合釣り漁業では,21,159トンと前年(21,837トン)を若干下回った。東北海域における地先釣り漁業は例年になく遅く,年末まで漁獲が続いた。また漁獲物の組成が大型であったことや釣り漁が不振の時も底びき網による漁獲が良好であったこと等が本年の特徴であり,イカ類研究者間で問題となっているローカル・ストックの存在に対する一層の追求が必要となってきたように思われる。
 なお,まき網によって混獲されたイカは市場を通して水揚げし,その代金の40%をイカ釣り業界に支払うとの協定を破って,10月八戸近海においてイカを専獲して秘かに水揚げしたまき網船の存在が発覚し,業界間の紛争は結着をみないままに年を越すという生臭い話題もあった。


 アカイカ:漁獲の比重を近海の釣りから遠洋域を含む流し網漁業へと移してきた本種の漁場は,北太平洋全域に拡大して今日に至っている。11月までの情報では,主要四港(八戸・気仙沼・石巻・小名浜)の生鮮品(釣り漁獲物)の水揚げ量は,昭和58年の1,743トンに対して59年は1,620トンと減少傾向が持続している。冷凍品(大部分が流し網の漁獲物と考えられる)の水揚げ量(八戸・気仙沼・石巻)は,58年の51,415トンから59年41,069トンとやはり低下を示した。故に,資源状態は悪化の傾向にあるのではと憂慮される。


 サンマについては,ほぼ前年並みの漁獲があったこと及び昨年前半問題となった寄生性甲殻類(Pennellasp.)の寄生率はあまり高くなかったとのことであるが,詳細は他の著者のものを参照されたい。

 マイワシ・マサバ漁場形成の南偏・沖合寄りの傾向や,八戸沖北方域におけるマサバまき網漁場の不成立等の本年の特異現象は,夏まで持続した低水温基調型の海況と関連していたものと推察される。

(八戸支所第2研究室長)

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