雑感

山口ひろ常



 昨年8月1日付で八戸支所第2研究室勤務を命ぜられ、8月8日に着任いたしました。 本誌面をお借りして御挨拶申し上げます。
 朝夕の富士の眺めと松原の梢を渡る風の音に約17年半慣れ親しんだ清水市折戸を 後にして、ここ海猫の声する鮫町へやって来て既に6ヶ月半の日時が経過しました。新採以来、 東海水研、遠洋水研と職場は変わっても、仕事の内容は専ら北太平洋漁業国際委員会 (INP−FC)及び日・米、日・加、日・ソ等の二国間漁業協定対応の北洋域の底魚類 (主にオヒョウ、エビ、スケトウダラ)の資源研究に従事してきました。ところが今度は まったく性質の異なる浮魚(マサバ、マイワシ、スルメイカ、アカイカ)が相手となり いささかの戸惑いをかんじながら赴任してきた次第です。
 ここ八戸の地先には毎年マサバ、マイワシの好漁場が形成され、港への水揚げの大部分を占め 経済的にも重要であることから、漁民のみならず、水産業関連の諸業者への漁況予測の情報提供が 我が研究室の主要な任務の一つになっており、室員一同多忙な日々を送っております。このような 短期予測に接するのも私には初めての経験です。
 幸い、マイワシについては近年資源状態は良好のようで漁獲量も多く、本年漁獲の多寡には 無関係のはずの我々研究者もホッとしているところです。しかし、残念なことですが、八戸の 基幹魚種とも云うべきマサバについては資源状態好転の兆しは見えておりません。特に昨年秋は 八戸近海のマサバ漁場の形成期間が極端に短く水揚げが前年の1/2に終わったことから、 サバ加工業への依存度の高い鮫町の活気のなさをひしひしと身に感じ気の重い毎日を過ご してきました。
 多獲性浮魚類の漁場形成や大発生のメカニズムについては未だ明確な答は出されていない ようで、このような話を聞くと、やはり産卵場における徹底的かつ詳細な調査研究が必要なのかな とも思えてきます。しかし、前記浮魚類はいずれもその主産卵場がここ八戸近海からは遙かな南方に 在ります。事実、夏〜年末までの間に解剖室で初めておつきあいするスルメイカの雄の生殖巣が 段々発達していく様を目の当たりにすることができましたが、交尾は終わっていても卵巣の 発達した雌にはお目に掛れませんでした。簡単には産卵場での状態が観られないと思うと、 研究者として隔靴掻痒の感を持たされました。
 以上、この半年余の間に感じたことを思い付くままに述べました。素人の藪睨みに 終始していると思いますが、今後とも関係諸先輩の御指導・御助言を頂き、東北海区の 浮魚類の諸特性の把握と資源状態の解明の対処法を学び、1日も早く素人の域を脱したいものと 願っております。どうかよろしくお願い致します。
前 遠洋水産研究所底魚資源部  八戸支所 第2研究室長

Hirotsune Yamaguchi

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