退官御挨拶

黒田隆哉



 昨年12月1日付で、35年あまりお世話になった東北水研を勧奨退職し、 当分自適の生活をすることになり、早くも3カ月が過ぎようとしています。この長い間、大過も小過もあたたかく寛恕いただき、おかげさまで無事に 勤めあげることができました。先輩・知友の皆様がたに心からお礼申しあげます。 年末のあわただしい時期だったこともあり、またその後も図書・資料の閲らんなどと 称して足げく参上したりしているせいか、未だ退職という心象的淋しさから免れて いるようです。昨今の諸般の事情から悠々というわけにもまいらず、先行きに一沫の不安を 抱きながらも、生来の無計画から、いまのところは雑用からの解放感を大いに味わっています。 今後は機会があればせいぜいお礼働きをせねばと思っております。
 昭和22年の暮れに農林省水産試験場に伝を求めて田内場長に面会し、近い将来に 採用の内諾を得、高山研究室(漁撈)を希望して机をいただき、弁当がわりのコッペパンを 持って図書室に日参し、全く無縁であった水産採捕誌や、最新漁撈学を勉強しました。3月末に 発令、翌24年7月に8海区水研設置に伴い、木村喜之助先生に従って東北水研に配置替えとなり、 以後海洋資源部・資源部・海洋部で一貫して漁海況の調査研究に従事してきました。この間、我が国 水産業の重点目標も、初めは窮乏時代の国民の切実な食糧問題に、次いで高度成長期における 資本の充実問題に、さらに最近では内外の諸制約に伴う生き残りの問題にと移り、研究への期待も 軽重・緩急の差こそあれ、全体としてはこのような時代の流れに乗って移り変わってきた感が あります。このような中で行われてきた水産研究は一方ではあと追い研究という批判があったに せよ、現象の地道な解明は他方からみれば期待への適確な回答であり、ニーズの先取りの役を 果たすものでさえあったといえましょう。生き残り作戦に加えて、先端技術のめざましい進歩の 影響は、水研に対しても研究問題の選択や研究手法の見直しなどを強く迫り、ひいては体制問題に まで発展するでしょう。発展する科学技術のやみくもな適用は内在する矛盾を急速に増大顕化し、 かえって足をとられるようになったことは、これまでの海洋開発・エネルギー開発または宇宙開発 でも見られたことです。身近な水産のほうでも似たようなことがたくさんありましたでしょう。 おそろしいまでに将来展望が開けているとされているバイテクも、いずれいまに罰があたるのでは ないかと心配されます。生命が次代へとつながっていく仕組みを、人為的に操作・改変する技術が 無原則に近く応用されていくならば、ひとびと全体の福祉につながるまでには、予想もできない 大きな犠牲を強いられることになるのではないでしょうか。このような情況のもとで、前後左右を 正しく見きわめ、適切な対応をしていくことは極めて難しいことのように思われますが、やりがいの あることでもありましょう。これからも引き続き水産研究に打ちこもうとされている皆様がたの 御健闘を切にお祈りします。
前 海洋部長

Ryuya Kuroda

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