漁業資源評価システム高度化調査について(1983年度)

谷野 保夫



 1980年度から3ヵ年間,クイック・アセスメント実測調査が行われたが,その後を受けて,1983年度から漁業資源評価システム高度化調査が予算化された。
 この調査には,わが国周辺水域における主要魚種の幼魚及び未成魚の生長,分布回遊等生態に関する調査,中層域における生物情報の収集,音響利用の資源現存量推定手法(科学魚探によるクイック・アセスメント手法の実用化)に関する3課題が設定され,各水研がこの調査に参加している。課題のうち,クイック・アセスメント手法の実用化については,はとんどの水研がこの課題と取り組んでいる。
 サンマ資源については,一応,1982年度に特定水域におけるサンマ現存量の推定を試みたが,サンマは,夜間,発振線あるいは積分可能な水深より浅い範囲にかなりの魚群が浮上するため,現行の科学魚探の様式ではあまり意味はなく,また昼間は,サンマは30〜50mあたりまで沈下すると言われているが,現われた中層の影像については,魚種あるいは魚体のサイズの確認方法の検討など,科学魚探の精度を云々する以前の問題が大きく立ちはだかっている。
 そこで,当水研としては,現在,サンマ資源評価の一方法として,仔魚期から漁獲対象となる加入までの生き残りについて,減耗要因となる捕食者あるいは餌料プランクトンの量,海況,漁獲努力などをフレームワークとするシミュレーションモデルの構築を試みている。そのうち,沖合北上群,特に幼魚及び末成魚の量的分布,あるいはサメ類,マグロ類,カジキ類,カツオ,シマガツオ,ヒラマサ,シイラ等の魚食性魚類によるサンマの捕食に関する情報が極めて乏しいため,これらの情報を加えることにより,来遊資源量や漁獲可能量の推定と漁海況予報の精度の向上を図ることをねらいとした調査研究を重点的に実施している。
 調査船には,毎日漁獲試験を行うため,流し網に習熟した民間船ということで,第12宝洋丸(299トン)を用船(水産庁),5月6日〜8月4日の91日間に,40日航海を2回実施した。第1次航海は37゜30′N線−174゜E線−40゜N線,第2次航海は38゜N線−174゜E線−41゜30′N線(途中166゜Eからは41゜N線)をコの字型に航走した(図1)
 調査内容としては,航走中に毎時表面水温,定点では鉛直水温の観測を行った。また,ちネット,高速ネット及び特ネットを使用して,卵,稚仔魚,幼魚及びプランクトンを採集した。漁獲試験は定点で,原則として,毎日,大目流し網250反,サンマ流し網6反の計256反を投網,魚種別漁獲尾数及び重量を記録し,大目流し網の漁獲物については,マサバを除く全魚種の胃袋及び魚体標本の採集を行った。サンマについては,目合別に標本を採集し,陸上で計測した。
 調査結果については,コンピューターに入力して,資料の蓄積を図っているが,今回はそのうちから,魚食性魚類の食性について若干ふれることとする。
 東北海域沖合には,ビンナガ・クロマグロなどのマグロ類,ネズミザメ,ヨシキリザメなどのサメ類を初めとして多種多量の魚食性魚類が来遊する。これらの食性については,川崎他(1962),小坂・林(1981)のほか幾つかの報告があるが,これらの報告のほとんどは,ごく限られた狭い海域のもの,ごく短期間のもの,あるいは捕食魚が特定の魚種に限られており,サンマを餌として位置づけ,調査しているものはごく僅かである。
 本調査では,1次及び2次航海でそれぞれ34点,合計68点で,魚食性魚類の漁獲を狙って大目流し網延16,375反の投網を行った。表1に魚種別の漁獲尾数を示した。大目流し網による漁獲尾数は23,322尾であったが,そのうち魚食性魚類は24種,20,173尾であった。漁獲尾数の多かった種類はシマガツオ(85.6%)ヨシキリザメ(6.6%),ビンナガ(3.2%),ネズミザメ(1.8%),ヒラマサ(1.6%)で,シマガツオが圧倒的に多かった。胃袋の観察は,この24種全部について行ったが,ここではサンプルの多かった7種の結果を表2に示した。
 ヒラマサは1次及び2次航海がともに,南側調査線の152゜E以東の18点で計330尾の漁獲があり,そのうちの161尾について胃内容物の観察を行った。空胃のものが27.3%あったが、捕食魚57.3%、特に1次航海では84.6%からサンマが出現した。1尾のヒラマサが最高25尾、捕食魚1尾当たり2尾のサンマを捕食していた。サンマに次いで多く出現したのはマイワシで出現率が32.5%であった。
 クロマグロは1次航海では南北線の152゜〜160゜E主体に7点で,また2次航海は同じく154゜E以西の5点で漁獲されたが,49尾と少なかった。うち,45尾について観察したが,57.8%が空胃であった。サンマの出現率は1次航海が22.2%であったが,2次航海には出現せず,全体としてはマイワシ(31.6%),イカ類(15.8%)に次ぐ10.5%を示し,1尾のクロマグロが最高3尾,捕食魚1尾当り1.2尾のサンマを捕食していた。
 ビンナガは2航海とも南の線の方が多く,150゜E以東の22点で652尾漁獲され,228尾について観察を行ったが,空胃は37.3%であった。被食魚の出現種としては,イカ類(48.3%),マイワシ(40.6%)が高出現率を示したが,サンマも10.5%出現し,1次航海では12.7%となっていた。また,1尾のビンナガが最高8尾,捕食魚1尾当り0.3尾のサンマを捕食していた。
 シマガツオは全調査点の68点で17,268尾の漁獲があり,そのうちの1,196尾について調査した。空胃が20.9%で,出現種としてはイカ類(45.2%),マイワシ(21.1%)が高出現率を示し,サンマは3.5%(1次航海は4.0%)であった。また,1尾のシマガツオが最高9尾,捕食魚1尾当り0.1尾のサンマを捕食していた。
 シイラは1次航海で3点,2次航海は5点で85尾が漁獲されたに過ぎなかった。このうち,55尾について調査した。空胃は20.0%で,サンマの出現率は79.5%と高く,特に,1次航海では調査した13尾全部からサンマが認められた。なお,1尾のシイラから最高4尾,1尾当り1.4尾のサンマが観察された。 ネズミザメは2航海ともほぼ全域に広く分布し,50点で372尾の漁獲があり,352尾について調査した。空胃は28.1%,サンマの出現率は25.7%で,イカ類(17.0%),マイワシ(9.1%)より高かった。1次航海におけるサンマの出現率は34.3%で,2次航海の2倍以上になっていた。また,1尾のネズミザメから最高7尾,1尾当り0.6尾のサンマが認められた。
 ヨシキリザメもほぼ全域に分布,58点で1,337尾を漁獲し,そのうちから644尾について調査した。空胃は21.1%で,胃内容物としてはイカ類(56.5%)が多く出現し,サンマはマイワシ(19.7%)より若干少ない18.3%の出現率であった。1次航海におけるサンマの出現率は21.4%と2次航海より高い値を示しており,1尾のヨシキリザメが最高6尾.捕食魚1尾当り0.3尾のサンマを捕食していた。
 以上の7魚種についてサンマの出現状態をみると,ヒラマサとシイラはあたかもサンマ嗜好を窺わせるような高い出現率を示し,特に,1次航海にはヒラマサは84.6%,シイラは100%であった。その他の魚種ではシマガツオが3.5%と低かったが,サメの2種とマグロの2種は10〜25%の出現率であった。
 川崎ほか(1962)は,1960・’61年〜7月の155゜E以西海域におけるクロマグロ,ヨシキリザメ,ネズミザメの胃内容物組成を図示しているが,この図からサンマの出現率を読み取ると,1960年のクロマグロは4.3%,ヨシキリザメは9.6%,ネズミザメは14.2%,1961年のヨシキリザメは19.6%,ネズミザメは5.3%であった。
 また,小坂・林(1981)は,1971年5月,常磐沖で曳網によって得られたビンナガの胃内容物について報告しているが,サンマの出現率はカタクチイワシに次ぐ46.3%の高い値を示し,1尾のビンナガが10cm前後のサンマ幼魚を最高13尾,平均でも4.7尾を捕食していたと述べている。
 二平(1982)は,1980・’81年8〜9月,39゜〜42゜N,146゜〜177゜E海域における秋ビンナガからのサンマ出現率について,1980年は23%,1981年は41%で,秋季の60cm以上の中,大型ビンナガにとってサンマは重要な餌料生物の位置を占めていると述べている。
 海洋水産資源開発センターは1978年にサメ延縄と大目流し網,1980・’81年に大目流し網を使用して新資源開発調査を行ったが,その際,漁獲されたネズミザメ,ヨシキリザメ,シマガツオ,マカジキ,メカジキについて船上で胃内容物を観察している。この資料を用いた筆者(1983)の取りまとめ結果は次の通りである。調査期間は5月から翌年の2月,海域は28゜〜50゜N,143゜E〜180゜Eで航海によって偏ってはいたが,広範囲に行われた。船上観察のため不明魚種が多かったが、サンマの出現率はネズミザメ5.0%,ヨシキリザメ4.2%,シマガツオ5.1%,マカジキ31.0%,メカジキ8.3%で,マカジキの場合,西経域のアメリカ沖においてもサンマの出現率は32.9%の高い値を示し,東経域と似通った出現率であった。
 以上,幾つかの調査における魚食性魚種の胃内容物中のサンマ出現率について羅列したが,同一魚食魚においても,われわれの今回の調査結果にみられるように,1次航海におけるサンマ出現率が2次航海のそれを大きく上回っており,また各報告の出現率がかなり異なった値を示していた。このような出現率の変動は調査魚の採集時期,場所が異なっているため当然被食魚の分布が異なり,そのために生じたことと思われるが,今後,捕食魚が餌に対して嗜好性があるかどうかなど,餌となるサンマその他の魚類の分布と併せて調査する必要がある。
この調査は1983年から始まったばかりで,当面5〜6月の45日間の調査は北上期のサンマをねらいにしているため,経年比較をする意味で定線・定点化しているが,6〜7月の45日間の調査は2〜3年継続後に時期,場所を変えて,結果的には,周年の東北沖合におけるサンマの分布と来遊する魚食性魚類の分布,そして捕食の実体を押え,サンマの減耗に結びつけたいと考えている。
  引用文献
 川崎 健・八百正和・安楽守哉・永沼 璋・浅野政宏(1962):東北海区に分布する表層性魚食性魚類群集体の構造とその変動機構について,東北水研研究報告,22.
 小坂 淳・林 小八(1981):サンマの発育過程における自然死亡要因について,漁業資源研究会議報,22.
 二平 章(1982):北西太平洋における秋ビンナガの胃内容物にみられたサンマについて,第31回サンマ研究討論会議事録,東北水研.
 谷野保夫(1983):サメ類・カジキ類及びシマガツオによるサンマの捕食について,日本水産学会東北支部会報,33.

(資源部 第1研究室)

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