マサバ・マイワシ・スルメイカの漁況予測

小滝一三



 本年第1回東北・東海区サバ・イワシ類及び太平洋イカ類長期漁海況予報会議が,7月2・3日仙台市で開催された。この会議の第1回は北海道から三重・和歌山県にかけての広い範囲の漁海況担当者が集合して行なわれる方式で,今回は3年目となる。
 マサバ・マイワシ・スルメイカなどの沿岸回遊性魚類の主な越冬場あるいは産卵場は関東近海及びそれ以南の海域であって,東北・北海道海域には索餌回遊群として来遊し漁獲の対象となる。このようなことから,広範囲に亘る情報特に越冬場における状況や新規加入資源の情報は東北海区ブロックでは得られないものが多く,大局的な判断の根拠として重要である。しかし,限られた日程のなかでの情報処理は,詳細な検討を行おうとすれば,難しい面も多い。
 予報文は各機関からすでに発表されているので全文はそちらをみていただくとして,以下にその主要点と初漁期の現況とを合せてみる。


 マサバ マサバ資源については,今年もまたここ数年の低水準の域を脱せず,『三陸・道東海域に来遊する太平洋系マサバの資源量水準は昭和58年並もしくはそれ以下にとどまるものと推定される』と予測された。
 三陸・道東海域におけるマサバは主としてまき網漁業によって漁獲される。その漁獲量は昭和47〜58年の12年間には年平均41万トンがあげられた。しかし,58年は26万3千トンであるので年平均の64%にしかならなかった。
 ところが,この58年の漁獲量の約半量は房総近海で漁獲されているので,過去の好漁時代において道東・東北海城の漁獲が高い配分比を占めていた頃と比べて,状況が大きく異なっている。
 まき網による漁獲量のCPUEは昭和47〜55年が102〜213に対して,56〜58年の3ヵ年のそれは72,47,56と計算されている。今年の関東近海の火光利用サバ漁業は同漁業史上かつてない大不漁であった。
 このような状況からの推測は,異常低温水に漁場が覆われたことを割り引いても低水準資源量を底上げする評価には至らない。
 道東・東北海域の夏場に出現する魚群は主としてT・U年の若令魚である。道東漁場は今年もまたマイワシが広く分布し,昭和51年以来のマサバからマイワシへの魚種交替の状況がそのまま当分続くものと思われる。
 東北海域の夏場に出現するであろうマサバ若令魚のうち,昭和57年生まれのものが稚仔時代の生残率が良かったのではないかとの推論もあった。この年級群は平均尾叉長27.8cmに成長していると推定される。しかし,現在三陸沿海においてサバ目的のまき網漁業が成立していないところをみると,この年級群も低水準資源のうちにあるのではないか。秋に入っての大中型魚は,昨年30〜31cmモードのものがやや成長して出現しようが,これについては第2回予報会議(10月初めの予定)で予測する。


 マイワシ 『ここ数年は近年の高い水準での漁獲量が維持できるものと思われる』と予測された。昭和55年生まれの大卓越年級群は年令的にその役目ははとんど終了したが,次いで資源量水準の高い56年生まれ(体長18cm)が今年の漁獲物の主要部分となる。
 道東まき網漁場では,すでにこの年級群(V年魚)を主体に好漁が続いており,7月中に32万トン漁獲された。7〜10月の全漁期には100万トン(昨年100万8千トン)は超えるものと思われる。
 三陸海域でのまき網は.現在の主漁場が岩手県沿海で,波状的ながら好漁を持続している。「8月末ごろまでは岩手県中・北部と八戸近海で交互に漁場が形成され,盛漁期は9月以後で八戸近海が主漁場となる。漁獲量は11月までで40〜50万トン程度となる」と予測された。岩手県中・北部と八戸近海で交互に漁場が形成されるとの予測は基本的にはこの形で経過しているが,八戸近海の特に八戸北方沿海は,今年当初からみられる低水温現象下での津軽暖流と親潮第1分枝との関係で,津軽暖流域の狭さが魚群の収容量を小さくしたように見受けられ,八戸北漁場は永続きしない周期となっている。
 魚体は道東漁場のものが8月に入ってほとんど18cmモードのV年魚となっているのに対して,三陸漁場では17・18cmモードのU・V年魚が漁獲されている。


 スルメイカ 東北・北海道太平洋漁場の漁況予測(7〜8月)「漁期前調査および各地における漁況等から判断すると,東北沖合水城にある程度まとまった来遊が示唆される。このため,今漁期(7〜9月)当漁場では,56年または58年並の漁況で推移すると予想される。しかし,本年の海況条件からみて,魚群分布は北部海域に片寄る可能性が強い。」 7月の漁獲量は八戸前沖では170トンで特に多くはないが,道東広尾(十勝)港で870トン(前年同月20トン),釧路661トン(前年同月数トン)があげられている。このように,いわゆる夏イカが道東海域にみられていることは予測通りである。これが南下期の本格的な秋漁期にどう出現するかが注目され,10月以降の漁況予測(第2回)の重要な素材となろう。

(八戸支所第2研究室)

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