増養殖概況(昭和58年)

小金澤 昭光



 昭和58年1〜12月の東北太平洋岸における増養殖分野の主な動きについてお知らせします。東北ブロックでは海岸形状が複雑なために増養殖業の種類は多岐にわたっている。そこで魚種別に動向をみていく。
 貝類関係
 ホタテガイ:58年のホタテガイの採苗は順調に推移し,1袋当り35,000個の豊作型を示した。しかし分散期の7月に入り大量のへい死をみた。すでに57年度の研究結果で,異常貝の発生率が高いことが指摘され,成貝養殖に大量へい死が発生する可能性があると警告を発していたことが稚貝の大量へい死の発生として現実のものとなった。この結果,ホタテガイ種苗は,一転,品不足となり,陸奥湾内では相互調整で養殖数量を確保することとなった。このとき県と業界が一体となってマヒ性貝毒の伝播の恐れがある種苗持ち込みを防いだことは特記すべきことであった。ホタテガイ産業も100億円産業として定着した今日,ともすれば養殖の基本としての総量規制を忘れ勝ちである。昨年の大量へい死の発生とその後の対応において示された意義を,今後の教訓としたい。
 カキ養殖(岩手・宮城):本年の作柄は,地域によって,品質に差が大きかった。販売価格は,昨年比で15%程安値に推移し,漁家所得に影響を及ぼしている。全体的にみられた品質低下の現象は,最近の種苗供給の不安定性からくる2〜3年ガキ出荷指向と一部にみられる1年ガキによる早期出荷,加えるに過剰養殖が相乗的に現われたことによると考えられる。
 カキ採苗:仙台湾を中心とする種ガキ生産は,広島とともに全国の養蛎業界に与える影響が大きい。幸い本年は例年になく豊作であった。しかし,採苗期の幼生の出現状況は,従来の松島湾中心型から牡鹿半島の外海依存型に移り,幼生の供給源として,松島湾における産卵母貝組成の安定化が必要であるとの認識を深めた年といえる。
 アワビ(青森・岩手・宮城・茨城):東北地方のアワビ生産は,低落傾向にはあるが,各県とも持ち直しの機運にある。青森の野牛,風間,下風呂,岩手の唐丹,広田,田老,宮城の雄勝,十三浜,茨城の大洗等餌料供給をあわせた漁場造成,中間育成した種苗放流,資源診断による漁場管理を実施しているところでは,落ち込み率を低くとどめたり,上向きの機運を示している。最近天然依存型から,漁場造成,種苗放流,さらに資源診断を含めた漁場管理型への認識も深まってきているので,ここ数年の生産減の傾向に歯止めをかけたいと思う。
 ホッキガイ(福島),ハマグリ(茨城):現在,両県ではホッキガイ,ハマグリの稚貝の大発生がみられている。両県の砂浜域は,チョウセンハマグリ−コタマガイ−ホッキガイの生産域であり,現在,福島では大量発生した種苗を実験用種苗と位置づけ,移殖を大規模に実施している。磯部の資源管理による有効利用は従来から知られていたが,今後は稚貝時期からの新しい資源管理の仕方,増殖技術の入り方について知見がでることを期待したい。
 魚 類
 ギンザケ養殖(宮城・岩手):52年から養殖生産が始められ,58年には3,000トンに達した。このことは,養殖が少ない東北地方で,各地に養殖業を拡大する契機となっている。現在,宮城県の志津川,雄勝,女川等の養殖ギンザケの主産地では,流通面からみて1,000〜1,200円/kgで堅調に推移している。今後,流通面から生産の上限が決められてくると思うが,複合経営のメニューの1つとして有望な魚種に位置づけられている
 シロザケ(青森・岩手・宮城・福島・茨城):59年1月10日現在のサケの漁獲量は,別表に示すように,河川及び沿岸では青森12%,岩手32%,宮城167%,福島37%,茨城158%と各県とも増加した。特に茨城,宮城両県では大巾増であった。本年の回帰の特徴をみると沿岸来遊及び河川遡上の盛期は例年より1〜2旬早く,その後12月下旬〜1月上旬にかけて急激に終漁に入った。東北地方の漁獲量としては,史上最高を記録した。52〜56年まで実施したさけ別枠研究の実証試験地のうち,特に宮城県実験地の鮫の浦を中心とした後川には55年放流群(早期卵)による遡上が10月中旬にみられ,潮上,来遊期の新しい記録を作った。青森県茂浦,岩手県山田湾周辺でも同様であった。これらの結果は本年8月に開催予定の検討会において,海中飼育放流,移殖効果を含めてさらに科学的に検討したい
 藻  類
 ワカメ養殖:岩手,宮城の所謂三陸リアス沿岸は我が国生産量10万トンのうち70%を生産している。最近,養殖の進展にともない病害の発生が顕著になってきている。葉体の崩壊,あなあき病,すいくだむし,わくいむし等の着生被害である。被害発生時には早期摘採等の対応がなされているが,原因究明と確実な対策が望まれている。また将来的には製品が生食,ボイル,インスタント化の中で用途別の適品種の育成が必要となるものと予想される。
 ノリ養殖(仙台・松島湾地区):本年は此処4〜5年みられた顕著な病害もなく豊作型で推移した。松島湾ではここ数年秋ノリの生産減の原因として壷状菌,赤ぐされ病その他細菌性病害がいわれている(宮城水試)。今後,栽培品種の選定,網管理,漁場行使等の再検討が必要になってきている。
 コンブ養殖:近年漸増の傾向にある。各地に速成株の採苗場も建設され,今後急速に養頼も普及するものと思われるが,既成市場に入ることでもあり,生産拡大と販路の面では苦労が予測される。幸い当海区では適地が多いことでもあり,今後の産業動向を注目したい。
 以上,58年の主要作目ごとの生産概況をみた。増養殖分野では,対象魚種毎に生産技術は大きく異なっているが,新規開発された業種においては既成の業種にひそむ生産関係の問題点,克服の経過等を分析する態度も必要であると感じさせられることが多い年であった。
 現在,増殖研究分野では,MRP,バイオマス等のプロジェクト研究も数多く行われている。生産現場から多くの問題点の投げかけを期待して本稿を終わることにします。
(増殖部長)

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