近海浮魚資源の現状をめぐって

佐藤 祐二



 先日(7月5・6日),東北海区沿岸浮魚資源の第1回予報会議を大過なく終了した。「大過なく」の意味は岩手水試の場長はじめ各位の献身的な協力による会議運営についてであって,予測内容に大過があるかどうかは今後の漁況の推移にかかっていることはいうまでもない。ところで各魚種ごと(マイワシ・カタクチイワシ・マサバ・イカ類)に設定された分科会への出席者数は,それぞれの資源の最近の数量水準に比例し特に多人数のマイワシ分科会に比べ,マサバの方は10人そこそこで,往時からすれば見る影もない有様であった。存在が状況の規定要因という訳である。
 ここでは会議の席上の論議および直後の漁況の推移を参照しながら,近海浮魚資源をめぐる一・二の検討課題をトピック的に述べてみたいと思う。
 まず,マサバ・マイワシの相互関係についてである。昨年57年漁期には,八戸港のマサバ陸揚量は辛うじて10万トンを越したが,わずか4年前(53年)に史上最高の45万トンをあげて以来,毎年2分の1の等比級数的に減少を続けている現状である。これに反してマイワシの漁獲は年々記録を更新しており,57年の釧路沖漁場でみても,夏・秋の4ケ月間に80万トンを軽くオーバーするといった記録的な伸びをみせている。
 マイワシの増加は関連業界では必ずしも歓迎されず,八戸の缶詰屋さんにサバが駄目ならイワシがあるさと単細胞的に発言したら,勉強不足を指摘された。何でもヘッド・カッターひとつを取り上げてみても,設備の変改が大変な投資を要するということである。それだけ,マサバへの期待度は大きいのだが,如何せん予報会議の席上でも朗報は聞かれなかったし,海洋水産資源開発センターが今年から本格的に始めたサバ探索でも,いまのところ魚群は発見されていない。
 それにしても,このような急激な魚種交替をもたらす要因は何なのか,漁況予測研究の中心的な課題でなければならないが,群盲象を撫でる様相で明確な説明はなされていない。しかし,北の海を研究フィールドとするわれわれにとって,月並ながら次のような研究課題が重要であるように思う。
 例えば,今年も7月に入って相変らずマイワシが活況で,1日解禁の釧路沖漁場では,親潮系水の卓越で初漁期低調を予想したが,3日目から水温7〜8℃台で連日4,000〜5,000トンの漁獲が続き,多少の環境条件の不適など物ともせず分布域を広げる本種の特長を示している。戦前のマイワシ最盛期に流し網の船頭を努めた古老によれば,寒風荒ぶ厳冬まで操業が続き,魚はおるが働く人間の方が参って終漁になるのが常であったという。この点マサバの方がやや鷹揚にみえ,例外はあるにしても環境案件の変動に敏感に反応して分布域を変える。秋の八戸沖漁場ではマサバが何時頃南下を始めるかが重要な予測項目であった点など,端的な例である。
 従って,魚種ごとの環境対応の実態をより明確に把握し,相互比較を通じて個々の特質を明らかにすることがとりわけ重視されなければならないであろう。
 いま一つ,減退を続けているものに東北海区のスルメイカがある。本種についていえば,昭和55年夏に一時的な漁況の好転があり,その模様は本ニュース19に記述してある通りである。当時は全面的な資源回復の兆侯かと大いに期待を寄せたのであったが,これも一時的で56年以降は元の黙阿弥という訳で極端な不振が続いている。漁況の周期変動を云う人からは,以前卓越していた9年周期は44年頃で終り,新しい周期変動が38年頃を契期として始まっており,その現われが55年の一時的な好転であって,次の山は64年頃だといった説もだされているが,とも角本年の太平洋側各地の漁況は軒並み不振を続け一向に資源増加の兆しをみせていない。そんな中で,今春来八戸〜下北半島沖で操業されるトロールで混獲されるスルメイカの数量が例年以上に多く,この情報が唯一の漁況情報であった。しかし,この群の系統群的な帰属がいまひとつ明確でなく,目下生物学的調査を継続している所である。
 仮説としては,恐らく独自の数量変動を行うローカルなグループと考えているが,このグループと本命である冬生まれ群の相互関連の考究など,新たな研究課題が提起されている。
 いま,釧路も八戸も北の港は今日もイワシ,明日もイワシの水揚げが続いている。ひところ,コレステロールの害が云われたと思ったら,今度はEPAで,誰かの回し者的論議が誌上を賑わしている。それはそれで結構であるとして,目前に毎日夥しいミール原料を見ては嘆息している今日此の頃である。
(八戸支所第二研究室長)

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