第15回日ソ サンマ・サバ及びマイワシ協同研究会議に出席して

佐藤祐二



 1982年10月14〜22日にソ連邦ハバロフスク市で開催された表記会議に資源部1研の小坂さんと 一緒に参加する機会を得た。一行は丹羽団長以下,東海区水研伊東資源部長・渡部(泰)室長それに 通訳の大野正夫さんの6名で,最近のこの会議の訪問国側団員としては珍しく多人数の構成であった。
 前に(第11回)ナホトカ会議に参加した時は横浜から2昼夜の船旅で,はるばる沿海州まで やってきたとの確かな感懐もあったのだが,今回の新潟からの空路は全くアッという間の一飛びで 誠に呆気ない思いを拭えない。正に一衣帯空とでも評すべきか。
 長年にわたって本会議をリードされてきたノヴィコフ・ユ・ヴェ黒潮研究室長が病気療養中と いうことで,今回ソ連側団長を勤められるロージン・ヴェ・ イエチンロ次長他の出迎えを受けて宿舎(インツーリスト・ホテル)に入り,早速会議日程の打合せ その他で第1日をすごし,第2日(15日)から日ソ友好会館を会場としてサンマ・サバ・マイワシの 順に20日まで熱心な討議が続けられた。
 各魚種について1981年の漁海況・再生産関係の経過報告,1982年の中間報告及び資源評価 など,日本側18題,ソ連側16題の話題提供があり,興味深い内容であったが,いずれ,今後の協議 事項も含めて議事録が印刷される予定であるから詳細は省略し,ここでは会議中の2,3の印象を 思いつくまま述べることにしたい。
 第1に会議全般の雰囲気についてである。いうまでもなく本会議の趣旨は両国科学者による 平等かつ純粋な科学的知見の交換にある。今回も終始友好的に会議の運営が行なわれたことは 両国団長はじめ代表団の良識と相互信頼に依るものであるが,ともすれば200カイリ体制を直接 反映した論議が顔を出すことも事実であった。ソ連側の代表団に漁業省主任法律官ニキーホロフ・ ヴェ・ヴェ氏,極東漁業総局産業部次長クリネフ・エス・ア氏が終始列席していたことに端的に 示されたように,本会議も次第に日ソ・ソ日漁業交渉の前哨戦的性格を帯びつつあり,この点 始めてサンマに加えてサバが議題とされた第9回頃とは大分様相に変化を生じているが,時代の 反映で止むを得ない現実と思われる。
 第2に多少具体的な討議内容にわたるが資源評価をめぐる両国の見解についてである。 サンマに 関しては殆ど問題はなかったが,マサバ・マイワシ特に後者については資源水準の評価に若干の 相違があり,相当長時間の論議があった。
 両国の評価方法の差にもよるが,系統群の認識に若干の違いがあり,日本側のいう足摺系群に ついてソ連側は必ずしも区分が明確でないといった今後のツメを要する問題点が明らかになった。 マサバについても,1983年以降の資源動向に関する見解が必ずしも一致しないことが討論の過程で 明らかになった。最近のわれわれの関心である資源量の音響学的推定に関しても,やや一方的な 説明が行なわれたが,今後は共同調査の推進によって相互の技術交流の必要性が痛感された次第で ある。
 第3に今後の団員構成についてである。日本側代表団の顔触れをみると10年1日とはいわない までも,やや“とう”が立った感を否め得まい。それに比べソ連側 代表団には,初参加(大部分は’82年に来日してはいるが)のメンバーが多く,サンマの イワノフ・ペ・ペ,サバのベリヤエフ・ヴェ・ア,マイワシのケーニヤ・ヴェ・エス等若い勢力の 抬頭が著しい。それぞれの分野での彼等の情熱も素晴らしかった。
 日本側もそろそろ新陳代謝を真剣に考えるべきで,それなくしては今後対等の討議が覚束 無いものになるだろう。幸いにして,わが国でも20代,30代の研究陣は多士済々であるのだから。 82年11月の日ソ協議によれば,第16回会議では新たにスケトウダラの討議が追加されるとのことで ある。代表団の人数も日程もそう増えないということであれば,より効率的な,場合によっては 一人で数魚種をこなすといった対応も要請され,この意味からも清新な活力が注入されるべきで あろう。
 会議の合間に垣間見たハバロフスク市では革命60周年を控え祭典準備に取り組む市民・学生の 息吹きに接し得たし,オケアン見学・アムール川舟行及び同川中洲における交換会などソ連側 代表団の一方ならぬ配慮をいただいた。
 同地方は流石に高緯度で,はや冬枯れの情景であり会期中雪に見舞われたりもしたが, 一同大過なく任務を全うできたことは何よりであった。
 確かに咋年の相互乗船計画の不調にみるように,今後もいくつかの障害が起り得ようが, とに角これまで築いてきた15回の伝統に立って本会議の発展が計られるべきであろう。
 終りに,本会議の基盤を作り,第1回以来の会議運営に並々ならぬ手腕を発揮されたノビコフ・ ユ・ヴェ前団長及びサブリン・ヴェ・ヴェ前団員が健康を回復され,再び会議に出席されることを 心から祈念したい。
(八戸支所第二研究室長)

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