東北水研ニュース

東北近海の浮魚漁況

佐藤祐二



 今期はマイワシがすっかり漁獲物の王座を占めた。 7月1日解禁の釧路沖まき網漁場では10月末までの漁期中に80万トンを超す数量があげられた。1週間おきに台風が襲来して休漁を余儀なくされた9月の気象条件や,かなり厳しい生産調整を実施してもなおこの数量である。もし出漁に制約がなかったら100万トンの大台も物の数ではなかったであろう。
 三陸近海のまき網でも好況で,7月から漁獲が続き,八戸港の陸揚量は昨56年(約13万トン)の水準を軽く突破し,約25万トンに達している。ただし,今漁期の漁獲物は全体を通じて体長(被鱗長)14〜16cmモードの中羽イワシが主体であった。この現象に関連して昭和55年生まれのもの以降の各年齢群の成長過程が研究者間で論議されており,マイワシの年齢に関する大先達(相川・中井氏他)の結果も改めて俎上に乗せられている。
 今期の経過をみると,57年の全国マイワシ陸揚量は56年の309万トンを大きく上回ることは確実であり,恐らく史上最高に達するであろう。
 本年春の関東近海における漁況不振以来各方面の関心を呼んだ当海区のマサバの漁況については,9月の初漁期(八戸沖の初漁は9月10日であり,例年よりも1〜2週間遅れであった)から全く不振だった。例年同様70ケ統前後のまき網船が着業したが,いつもなら1回の投網で100〜200トンがあげられる10・11月の盛漁期でも,今年は20トン獲れば好漁といった状況が繰り返された。11月も末になって,ようやく魚群がまとまり,1日8,000〜10,000トンの漁獲が4,5日続いた結果,八戸港の総陸揚量は約13万トンに達し,これに銚子沖(12月)であげた約3万4千トンを加えて,合計約17万トンが今漁期の成果である。最低10万トンは欲しいというのが八戸を中心とする関連業界の声であったが,辛うじてその線は達したものの,マイワシの場合と裏腹に資源動向に危惧を感じさせる本年の漁況の経過であった。漁獲物の主体は体長(尾叉長)28cmモードの2年魚であったが,3・4・5年魚といった大型魚の比率も結構高かった。
 イカ類についてみると,近海スルメイカは極端に不振で,八戸沖の釣り漁業ではわずか200トンをあげたにすぎない。岩手・宮城両県の各港でも大同小異であった。日本海のスルメイカ漁は,出漁が制約された北鮮海域を除いてまずまずの成果のようであるから,結局スルメイカの冬生まれ系統群の再生産関係が,昭和55年に一時的な復調をみせたものの,かつての豊漁期とは程遠い状態にあるものと判断せざるを得ない。
 一方,アカイカについては数年前から操業されている沖合の流し網漁業が好調であったのに比べ,近海の釣り漁業が停滞気味であった。流し網による漁獲物は比較的大型であったのに比べ,釣りによるものは小型のものが多いという対象魚群の差があり,漁獲努力量の評価とあいまって,新たな資源学的な課題を生んだといえる。
 漁期間特にサバ漁業の不振に関連して漁業者はもとより,加工業・運送業・製亟業・製紙業・報道関係果ては金融筋等々への応対に寧日の無い状況が続いたが,圧巻は11月15日の次のような電話である。
 「四国高松の魚屋や。今年はさっぱり三陸サバが回って来んがどないした訳や?」「太平洋のサバ資源が低落気味で……,加えて漁場近海の高水温傾向が魚群の集合を阻害し…‥」「要するに漁場に魚が居らんから獲れんと,こないな訳やな。アホタレ!!高い電話科払うてそんな返事じゃ,よう納得でけんわ。お前ら国の機関ならもう少しマトモに探して貰わんと末端の業者は困るで!!」
 天侯不順も気象台の故とのニュアンスは免れないが,漁況不振の影響度を認識し得た一幕であった。
(八戸支所 第二研究室長)

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