東北海区の増養殖概況

小金澤昭光



 昭和57年7−12月の東北地方太平洋岸における増養殖の主な動きについてお知らせします。


 カキの採苗:本年の産卵期が昨年と同様に約4週間遅れて,採苗期が9月になったが,平年の作柄に落ちついた。仙台湾を中心とする種ガキ生産は広島とともに全国の養蛎業界に与える影響が大きいので,抜本的な対策が必要である。産卵母貝の供給地の松島湾における天然ガキ,2年ガキ,1年ガキの組成の変化にともなう産卵総量の落ちこみ,並びに養殖漁場の湾内での東偏による母貝数量の減少等々は漁場利用との関係から改善が必要である感を新たにした年とも云える。


 かき養殖(宮城・岩手):本年の身入り状況は例年になく良好である。しかし販売価格は昨年比で10%程安値で推移している。最近の傾向として,産卵期の遅れによる身入りの遅れと採苗の不安定性から1年ガキ主体から2年ガキ,3年ガキ主体の養殖体制に移行してきている。このため漁場の養殖密度が高まってきている。また宮城県下の一部に広島種の移入が進められており,従来の種ガキ母貝としての地種と移入種の交雑が想定され,品種特性の把握による種苗の検討が必要になっている。


 のり養殖(仙台・松島湾):例年通り主に9月中旬後半に網の張り込みが行なわれた。芽付きはおおむね良好であった。10月中旬以降,内湾で芽いたみ症,壷状菌,生理障害等が多発し,更に11月には外海を中心に赤ぐされ病の発生があり,収量は平年の半作の状況におかれた。しかし全国的な不作による価格高のため金額的にはまずまず。松島湾特に西部域で病害がひどく,数年連続しているので原因究明とその対策が必要である。


 ワカメ養殖(宮城−金華山以北・岩手):秋期の「芽だし」は一般に例年より遅かったが,最近では平年並に回復し,岩手県では現在の接岸水の状況もよく,生長は例年並で問題はなく推移している。


 アワビ(岩手・宮城・青森):昨年,東北地方のアワビ生産は最低であったが,宮城・青森では持ちなおしてきている。岩手では依然低落傾向を示している。しかし,青森県尻屋・階上,岩手県種市・宿戸・田老・唐丹・重茂等,餌料供給をあわせた漁場造成と種苗の放流を実施しているところでは落ちこみが少なく,平年より高い漁獲を示している。最近のこの漁場造成,種苗放流更にその後の管理による生産増大の事例は天然依存型から漁場管理型への認識を漁民の中に定着させ,ここ1〜2年の生産減の傾向に歯止めをかけるものと思う。


 サケ(青森・岩手・宮城・福島・茨城):本年の秋サケ漁は11月30日現在では別表のようになり,河川及び沿岸共で昨年捕獲数の約88%であった。福島・茨城においては高い漁獲量を示している。その後,岩手県では12月に入って津軽石系の後期来遊群が予定通り回遊し,漁獲対象となって前年比+5%(21,500トン)に上昇した。その他の県でも増加傾向にあるものと推定される。今年度のサケ漁の特徴をみると,岩手県の田老川,閉伊川,津軽石川,重茂川,大江川,吉浜川,浦浜川の各河川では前年度の捕獲尾数を大幅に上回っている。また沿岸漁獲量も上記河川地先では漁獲の増加がみられている。これらの地区では海中飼育放流を行っているところであり,河川放流による放流事業の実施地域とは異なる高い漁獲を示した。宮城県鮫の浦・青森県茂浦についても同様である。


 ホタテガイ養殖:東北地方におけるホタテガイの主産地である陸奥湾では10月に実施したホタテ養殖実態調査では,昭和57年産の稚貝に異常貝が全湾平均で14.9%(過去5ヶ年平均3.7%)と高い発生率を示した。異常貝の発生要因については指定試験研究「ホタテガイの種苗性と養殖技術の確立に関する研究」で既に明らかになっているが,本年の発生値は来年度に異常へい死の発生を予測させる。現在,青森県では陸奥湾内の全漁協で総量規制の厳守を呼びかけ,また陸奥湾漁業振興会では監視体制の強化とルール作りに取り組んでいる。


 以上,7−12月の東北地方太平洋岸における増養殖の概況を示した。ひるがえって,わが国の増養殖業の歩みをみると,生産拡大→価格低下→規模拡大→生産効率の低下→価格上昇→生産拡大の図式の中で,東北地方においても対象種毎に増養殖生産技術は異なっていても,対象種−漁場−人間の諸関係を総合的にとらえながら生産活動を進めることの必要性を顕著に示した時期であったと思う。

(増殖部長)

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