東北海区の浮魚類漁況

安井達夫



 東北の海は冬になると,常磐・房総近海のマイワシ・マサバ越冬末成魚や東方はるか沖合のアカイカを除いて,表層回遊性魚類はほとんど姿を消し,底魚類が主役になるが,沿岸近海では小型漁船や定置網によって,常磐海域ではサヨリ・シラウオが,津軽海峡〜三陸北部ではアブラツノザメ・サクラマスなどが,また近年は仙台湾を中心としてローカルなニシンが漁獲される。その後春になると,三陸沿岸の定置網でサケ・マス類,三陸・常磐一帯の小型漁船で,イサダまたはイサザと呼ばれるツノナシオキアミやコウナゴ(イカナゴ幼魚)・メロード(イカナゴ成魚)が漁獲され,初夏には,マイワシ・マサバ・スルメイカ・クロマグロ・カツオなどの“はしり”が現れ始める。
 さて,今年のこの時期の状況はどうであったかというと,先ず仙台湾のニシンは4才魚が主体であったため漁期が早く,昨年11・12月に盛漁期が終り,1月に入って若令魚が少し獲れただけであった。常磐沿岸のシラウオ(イシカワシラウオ)漁は11月から始まり2月まで続き並漁,サヨリは12月から始まり3月に終ったが,茨城県沿岸に入り込んだ暖水舌の影響で好漁であった。青森県沿岸近海ではヤリイカが冬場悪く,春になってやや持ち直して並漁,サクラマスは津軽海峡内では良かったが,太平洋側では岩手県沿岸を含めて不漁であった。イカナゴは2月から始まったが出足が悪く,4月になって好転したものの全般に不漁に終った。イサダは親潮接岸分枝が著しく南下した昨年とは異なり,例年並みに岩手・宮城・福島の沿岸近海で3月から始まり好漁となった。中羽マイワシの越冬群は昨年と同様に多く,宮城・岩手の沿岸にも残留群があった。これに対してマサバが極めて少なく,北上期に入ってからもあまり姿を見せていない。カタクチイワシのシラスが増加傾向にある。またスルメイカ(幼体)は出現も早く量も多いが,釣りの対象となる群はおくれている。クロマグロは比較的早く現われたが,その後は少なく,漁場もはるか沖合にある。カツオは薩南海域では並漁であったが,四国・紀南海域が不漁で,そのかわり伊豆・小笠原列島沿いで豊漁,東北海区への出現も比較的順調と見られていたが,その後漁場が北上せず東南方沖合に形成されていて,予想と食い違ってきている。暖水の北上分派は,部分的にはかなり北上しているものの,親潮系冷水の勢力も強く,北方水域が依然として冷水に占められている状態が魚群の北上を遅らせているように見られ,今後の水塊配置の変化に注意する必要があろう。
(資源部長)

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