近海漁業の漁況

佐藤祐二



 今期前半は三陸近海の各種浮魚資源(マイワシ・サバその他)はいずれも生態上の南下越冬期にあたり,とくに北部海域では全く漁獲対象とならなかった。
 昨年末銚子近海でマサバ南下群を対象にしたまき網漁場が形成され,一部で漁場紛争を惹起したほどであって,年明け後も好況が期待されたのであったが,予期に反して以後のサバ漁況は低調であり,常磐海域のまき網はマイワシ対象の漁場が形成された。
 マイワシは昨56年には日本周辺で300万トンの大台を超え,道東から三陸近海及び常磐沖の東北海区でも200万トンに達する末曽有の好漁をあげたが,本年前半の常磐海域の漁獲ペースは優に56年同期を上回っている。一方,これまで長く主要漁獲物であったマサバは関東近海の産卵場でも全く低調で高々1万トン程度をあげたにすぎず,今秋以降のサバ漁の動向が大いに憂慮されるところである。
 4・5月と時期が進んで,三陸の海に春が兆すとともにイサザ(オキアミ)抄いやコウナゴ棒受網等のごく沿岸域の漁業が始まる。とくにコウナゴ棒受網については昨56年は全域とも低調で岩手県北以北では全く魚影をみなかったという状況であった。本年は5月はじめから八戸近海でも若干の操業があり,やゝ好調な出足で期待がもたれたのであったが,結局永続せず,宮城・岩手県下等も含めて昨年以下の漁獲に止まった
 3・4月と整備したイカ釣り漁船は5月一斉に出漁したが主漁場は日本海である。本年後半の期待を含めて6月に関係機関の協力によって,三陸沿岸・近海のイカ類漁期前一斉調査を実施した。スルメイカについては各機関の結果を総合しても今漁期大きな漁獲の伸びを期待させる資料は得られなかったが,アカイカ(ムラサキイカ)については例年になく北上が活発なようで,当所わかたか丸でも近年にみられないほどの漁獲の成果をあげた。
 今期,三陸近海の主要漁業は何といっても底びき漁業である。しかし,本年はとくに目立った特徴はうかがわれず,部分的に来遊時期の遅れ(尻屋近海におけるホッケ来遊期の遅れなど)等の現象もあったが,あい変らず低位安定といった状況が続いた。ただ,各地(とくに岩手県)で,小型スケトウダラ(ピンスケ)の漁獲が多かったことは特徴といえばいえる。
 後半年への大きな期待を込めて,東北の近海漁業は鋭意作動を開始しつつある。

(八戸支所)

目次へ戻る

東北水研日本語ホームページへ戻る