さけ別枠研究洋上調査を終了して

小滝一三・橋場敏雄



 昭和52〜56年にわたって実施された通称「サケ別枠研究」において,八戸支所は「幼魚期及び接岸期を中心とした沖合生態グループ」のなかでシロザケに関する調査を行なった。5〜6月の幼魚の離岸期と11〜12月の親魚の接岸期に調査期日を設定し,調査船わかたか丸によって,三陸沿海域における幼魚の分布調査と親魚の洋上での採捕と標識放流が調査内容であった。 経過と結果については既に報告(さけ別枠研究総括報告,1982,遠洋水研等)してあるので,ここでは本調査で得られた知見に関わる現場状況について述べて調査終了の報告とする。


 幼魚調査 体長7〜11cmのものを計200余尾を採集した。採集方法は,タモ網抄い・ラーバネット(稚・高速)・開口板付小型曳網によった。このうちタモ網抄いによる方法が最も効果をあげた。タモ網抄いは夜間において,1調査地点あたり30分〜1時間程調査船を停船漂流させ,イカ釣用電球(1KW7個)の点灯下で行なった。
 幼魚は,水面下30cm前後の深さのところを1〜10尾(多くの場合2尾か1尾)でいわば飄々と遊泳している。小群を目祝したとの情報もあるが,群としては2尾3尾が視界全体として20尾ほどになる薄い小群として観察され,例えばマイワシのように群泳と表現される濃い密度の群は見られていない。また,サンマ・サバのように「灯付き」というような舷側下を早い速度で往復するといった状況を示すこともなく,クモ網の柄長(3.5〜4m)範囲内に入らないまま離船してしまう個体の例も多い。集魚灯は採捕する側の視認に役立っているが,集魚効果があるかどうかは判断がついていない。
 サケ幼魚のみられる海域で海鳥も居ることが多い。
 夜間の調査中に海烏の捕食行動を目撃するが,嘴に挟まれた小魚がサケ幼魚とみられることがある。海鳥は天敵のひとつとみてまず間違いないと思われる。 幼魚の分布の状況と海況との関連でみた結果から「6月初めまでは,主として岸寄りの津軽暖流水帯(表面水温8〜11℃)に分布しているが,6月上旬後半以後は親潮前線沿いの水帯に移動し,次第に東方へ向うものと推察される。この時点での水温は7〜16℃に亘っているところから,東方への回遊経路は親潮前線沿いであろうが,かなり巾広い範囲にわたるだろうと思われる」と結論された。河川の水温6〜8℃で移動をはじめ,15.6℃では降海してしまうといわれる水温に対する習性は沿海域でも引続いていて,津軽暖流域の昇温とともに親潮域の縁辺部へ,そしてこれに沿って沖合へ移行すると考えられる。


 親魚調査 情報収集と洋上での親魚の採捕の調査を行なった。採捕には流し網と浮延縄を使用した。流し網はナイロンテグス系145〜151mm日のもの5〜10反を使用した。延縄の1鉢の大体の仕様は,枝糸ナイロン8号1.3m直付ます針50本,浮子索1.3m7本,枝間4mで,餌は塩蔵イワシ(体長約10cm)の比較的簡単な構造である。
 流し網については,夕方から投入したもので成積が良く,昼間投入のものでは殆んど漁獲がない。延縄は昭和55年の調査では延20鉢で33尾を得たが,56年では延30鉢で釣獲皆無だった。延縄は漁場が極く沿岸寄りに特定されたり,点検回数を多くするなどの時空間的にきびしい条件があり,いわゆる小廻りのきく操業が要求される。いずれにしても,これ等の漁撈作業上最も難点は,三陸沿海域は船舶の交通が多いことと複雑な海流配置があることである。調査設定海域が距岸数海里ということもあって,漁具投入後2時間程で収納しなければならない状況で,充分な漁獲効果はあげ得ない。
 採捕した成魚のうち活力のあるものを標識放流に使用した。再捕報告のあったのは最終年度のもの僅か4例のみであった。これ等はディスク背骨型標識票を付けたものである。55年にはタッグガンによるアロー型標識票を付けたが,これは発見の難易度で前者に劣ることも考えられるので,標識票そのものの選択が今後の課題と思われる
 調査結果や情報等から,三陸海域では来遊期の異なる数群があり,又同時に同海域に存在する魚群はいくつかの母川系群が混在していると推定された。
 以上,調査結果の概要であるが,当所の担当するスルメイカ・マサバ・マイワシの漁期前調査及び南下期魚群調査と平行して,今後も沖合域におけるサケ群の生態に関する知見の充足に努めたい。

(八戸支所)

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