バイオマス変換計画研究に参加して

秋山  和夫



 「生物資源の効率的利用技術の開発に関する総合研究」略称「バイオマス変換計画」という農林水産省の大型プロジェクト研究が,昨56年度から10ヶ年計画で始められている。これには省内各研究場所と大学や民間等の多くの機関が参加している。当研究室も加わっているので,この研究の概略や取組みなどを簡単にお話ししておこう。
 まず一寸蛇足であるがバイオマスbiomassにふれておくと,これは本来は生態学の用語で「生物現存量」とか「生物量」という様に訳される。この研究では「種類や形状を問わず量的に集める事によってエネルギー,食料,餌料,工業原料等の資源となり得る生物体」という意味で使用され,具体的には太陽エネルギーを利用して作られた生物総体のほか,生物活動に付随して生成される廃棄物などを云っている。そして此等バイオマスを効率的に変換利用する有効な新技術の確立を目的としている。通商産業省や科学技術庁他でもバイオマス関連研究が行なわれているが,他省庁では代替エネルギーの開発が主目標となっている。
 全体の構成は6つの研究系からなり,水産の研究機関が関係しているのは,生物資源の利用可能量等を推定する(1)生物資源評価系,また生物資源の増大を図るため物質生産能力の高い新生物を検討評価する(2)新生物資源導入系,更に此等資源を効率的・省力的に利用加工するための(5)共通基幹技術系等である。我々は(2)に属し大課題「水域生態系における新藻類の導入と効率的生産システム」中の細部課題「種苗の大量生産技術」を担当している。この大課題中には大型海藻に関する生理・生態,葉体の化学組成,生物・非生物環境等を検討する計8細部課題があり,北海道水研,南西水研,養殖研、北海道大学、北里大学等が参加している。
 題からして既に新聞などで報道された事のある例のジャイアントケルプでも早速導入して,沖合での大量栽培の検討でもやるのかと思われようが,外国産の巨大海藻の不用意な導入はそれが定着したような時の事を考えると沿岸生態系の大改変ともなりかねないので慎重に扱う事として,現在は主に国内産海藻を対象に各研究がスタートしている。外国種については実験海藻の流出防止装置を備えた施設を作った北海道水研により検討が企てられている。尤もお隣りの中国では1978年にメキシコからマクロシスティスを持ってきて採苗や海(青島付近)での養殖実験が行なわれてはいる。
 さて当研究室の担当する種苗の量産技術ではコンブやアラメを材料として検討を始めている。我国で養殖の行なわれているワカメやコンブでは数万米の養殖用種苗糸の生産可能な施設もあるが,現在は成熟した母藻から遊走子を放出させて糸に着生させて種苗を作る様式であって,採苗可能期は母藻が得られる短い時期に限られてくる。何時でも何処でも,且つ大量に種苗が供給出来る事が望ましい。ところでコンブの仲間は普通は我々が食用とする大きな葉体の時代(胞子体)と,この葉体上に形成された遊走子が海中に泳ぎ出し,物に付着してカビの様な微小な雌雄の糸状体となる時代(配偶体)とがある。配偶体は受精して新しい胞子体を形成し幼芽になるが,この配偶体は水温,明るさ,栄養等の培養条件の調節によって色々と生長調節が可能で,またその体は数細胞まで細かく切りきざんでも夫々が1個体として再生長が可能という様な便利な性質を持っている。それで配偶体を大量に培養しておいて,必要に応じて細かくカットし,それを新基質に付着させて胞子体形成の適条件とすれば何時でも種苗生産が可能となる。ただ配偶体は遊走子と違って殆ど付着能力が無いから付着させる物の工夫が必要であるが,これにはスポンジ等を用いて吸着させる事で好結果が得られるメドがついてきた。また配偶体の量産には最終的には発酵工業での微生物培養の様なタンク培養が適当であろうから,今後この面の検討を進める計画である。
 なおこの種苗生産技法では夫々雌雄1個体の配偶体を起源とする様な事も可能で,遺伝形質を揃えた種苗の量産が出来,今迄述べた利点と合せ将来養殖用種苗の量産にも十分利用されよう。更に我々の研究室では「マリンランチング計画」の研究にも参加していて,こちらではアラメ・カジメ等の餌料海藻群落の造成の仕事を進めている。これには種苗の大量投入も当然考えなくてはならないので,本研究で得られた結果はこちらにもすぐに役立つ事であろう。また例の外国産巨大海藻でも仮に適種や適当な栽培技法が選定された様な場合には,同じコンブ科植物でもあり,検討した種苗生産技法は十分役立つものと考えている。
(増殖部)

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