「ながさきの港」・「塩釜の港」

木曽克裕



 ブリッジを黄色に塗り船首に日の丸を大きく描いた以西底曳船や巻網船,五島航路の大型フェリー,港外の高島や伊王島へ行く客船,タグボート,修理のため入港するマンモスタンカー,波を蹴立てて出漁していく小型漁船,そしてときには豪華客船や帆船……。これら数トンから数十万トンまでの大小さまざまな船が忙しく行きかう港に面していたのが私の前の職場,西海区水研であった。
 塩釜に来て,港の漁船も見慣れた以西船から船体に信号符字を大書した北転船や白い船体のマグロ船やサケ・マス流し網漁船に変り,客船は離島航路の船から松島めぐりの観光船に変った。大型のタンカーや貨物船は隣の仙台港まで行かなくては見られなくなったし,クィーンエリザベスU世,マルコポーロ,明華など外国の豪華客船が見られなくなったのはチョッピリ残念だけれど,客船の華やかさこそないが活気にあふれた漁船の出入りを見ているのはたのしい。「200海里問題」の影響か,少々手もちぶさたそうな赤さびの出たトロール船もいるけれど,大漁旗をなびかせ,汽笛を鳴らしながら出港していく漁船はやはりたのもしく思える。
 漁港にとって魚市場はその一部みたいなものである。
 長崎の魚市場。マダイ,レンコダイ,キントキダイなどの赤物や,シログチ,タチウオなどを立てたトロ箱が底曳漁船からつぎつぎに揚げられてくる。コンクリートにじかに並べられたフカ,オオニベ,中箱にぎっしり入ったキグチ,大事そうに並べられた沿岸のマアジ。
 そして東京や関西向けの冷蔵貨車への荷積みに忙しい男たち。
 塩釜の魚市場や卸市場をのぞく。ゴロンところがっているマグロとカジキ,鮮かな色のキチジなどのカサゴ類,種々のカレイ,アワビ,それにホヤ(私は苦手なのですが)。種類は長崎より少ないけれど,新鮮な,うまそうな魚介があふれている。そしてここでも手カギを持った男たちが主役である。
 塩釜のこの港を見ていると,九州の海に比べて一見「さびしさ」さえ感じるこの東北の海が豊かな生産力を秘めているのだという新鮮な感動を覚える。相模湾に面した町に育ち,「ながさきの港」で学生時代を含めて約10年を過した私にとって東北の海や魚には新鮮さと同時にとまどいも感じているが,松島を望むこの塩釜の港を基地にして,広々とした東北の自然の中で諸先輩から学びながら微力をつくそうと思っている。
(増殖部魚介類研究室)

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