東北水研ニュース

南太平洋委員会(SPC)を訪ねて

林 繁一



 本ニュース15号に,八百室長がヌメア市を描いておられる。この小文はその続稿になるのかも知れない。実は初鳥丸から降りた同氏が,ヌメアを訪ねて10ヶ月後の12月4〜9日に開かれたSPC「熱帯カツオに関する専門委員会(以下SPCカツオ専門委と呼ぶ)」特別会議に招かれたので,その会議について報告しようと考えたのである。ところが,会議そのものについては正式なリポートも発表されている今日,その周辺のことを述べた方が良さそうなので,些か思わせぶりな題名をつけた次第である。
 そうではあってもまずこの会議から話を始めたい。ここ数年来,南太平洋諸国が漁業水域を設定するに及びわが国のカツオ・マグロ船から見ると制約やら報告やらが増えてきた。その1つに,漁業活動の情報提出が求められてきている。先方にしてみれば,入漁料の徴収や資源状態の推定といった諸々の要請に対応するために入域船から詳細な漁獲成績報告書を入手しようとするのは当然であろう。しかし北太平洋とは異なり,20余りを数える多数の国に面する南太平洋でそれぞれの国が,別個の漁獲成績報告書様式を決められては,入域する漁船にとって堪えられない程の負担になってしまうであろう。一方これらの国々が加盟しているSPCにとっては,様式の統一は資料処理上不可欠に近い要求である。そこでSPCカツオ専門委は,標識放流調査を始めとする一連の調査研究活動の一環として様式の統一を計ってきた。1978年4月に同専門委Kearney議長は塩釜を訪問し,資料交換とともに12月に開く特別会議への招待を申し出た。同特別会議の議題は,
1)西太平洋のカツオ漁獲量及び努力量統計の収集方法
2)カツオに関する統計資料の規格化
であった。第1議題である漁獲統計の収集については,当初船別,日別資料を求める声がSPC諸国内で強かったようであるが,すでに一定型式で資料を発表しているという日本の実績と,その間に立ったKearney議長の努力もあり,さらに会議4ヶ月前に1972〜1976年の漁場別統計磁気テープ(既刊かつお竿釣漁業漁場別統計調査結果報告から規模別操業日数を除いたもの)この購入を斡旋してあったためであろうか,原則として「緯経度1度区画,旬別魚種別漁獲量及び航海日数」という調査の実際から見て妥当な線で決定した。第2議題の統計資料の規格化に関しては,小生を除く出席者が域内国の専門家(国籍:豪,英,米,瑞)であり,実情に合わない程複雑な漁獲成績報告書様式や,提出方法が提案されていた。むしろ実際面からそれを修正するのが日本のみでなく,SPCからも私に期待した所であろう。ここでも日本の漁獲統計の実績が物を言って現状に近いものとなったが,それでもはえなわに迄目廻りを入れるという,やや複雑な様式になってしまった。
 今回のヌメア訪問には,会議出席の他にSPCカツオ専門委と当所資源部との間の資料交換に関する打合せも計画されていた。Kearney議長は4月の塩釜訪問に際して当所資源部長,資源第2研究室員と協議して「東北水研はSPCに協力するため1972〜1976年及びできればその後の竿釣漁業漁場別統計のMT,又は DISCの作製に要する配慮」をし,「SPCはこの資料をSPCのMTに収納した標識/再捕資料と組合せて論議,解析する会議を開くよう努力する」との約束を交わした。その後SPCは,東北水研の斡旋により芙容情報センターから1972〜1976年資料を購入した。しかし,(1)SPCの電算機が1979年3月に設置されるので5月頃にならないと稼働せず,(2)SPCが標識を始めた1977年10月以降の統計がまだ入手していないこともあって,今回は標識資料の解析は見送らざるをえなかった。さらに今回の懇談を通じて,当方からは漁獲統計のMTを引続き斡旋し,先方からはSPC所属電算機が稼動を始める1979年5,6月頃から,緯経度1度ますめ毎の標識資料の提供を受けることになった。
 SPC事務局長SALATO博士は11月下旬訪日し,水産庁藤波顧問等と会談している。私も12月11日朝1時間余りにわたって単独会談を申し入れられ,漁撈研修生の受入れ,保蔵技術者の派遣,魚毒研究の援助,増殖専門家及びイリコ専門家の派遣等を要請された。この他本会議の議長を勤めたSmith 氏始め,多くの現場研究者と,夜更けに至る迄討議を続けることができたのは幸いであった。それのみでなく,フランス海外省 ORSTOM (Office de Recharche Scientifique et Technique Outre−Mer)における漁業生物学者や海洋学者と話を交わすこともできた。特に Bour 氏は,昨年笠原部長がIPFCカツオ専門学会議に提出したCPUE分布図にみられる不連続を塩分,つまり湧昇で説明しようとしていた。同氏の資料は,現在資源第2研究室でも検討しているところである。
 本ニュース14号・16号その他で述べた,わが国が太平洋の漁業資源保存,漁業管理においてもっと指導性を発揮しなくてはならないという考えを,またここでも述べておきたい。特に南太平洋のカツオについてはわが国は最大の漁業国でもあり,その研究の歴史も長いので調査研究における指導性を期待されている。その一例として昨年3月マニラ市で開催されたIPFC「中西太平洋カツオ作業部会」に提出した笠原・永沼報告に対して大きな関心が寄せられた。今後は研究方法を示した上で先方との協同研究を含め,中西太平洋カツオ資源の評価を指導する必要がある。漁獲統計調査の実績からも研究における指導性が資源管理での正当な発言力の確保に役立つことは明らかで,すでに米国はハワイ研究所の職員を,また国際機関でも全米熱帯マグロ委員会(IATTC)もその職員をしばしばSPC漁業会議に派遣し,技術的な指導を行なっている。現在本土基地,合弁を含めると中西太平洋のカツオ漁獲物の90%以上を生産しているわが国が,現状から急速には後退しないためには,上述の通り資源研究上の指導性の確保が不可欠である。わが国の研究陣に国際会議,共同研究に参加する態勢を整備する上に大方の御理解を望む次第である。
(企画連絡室長)

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