昭和53年後半の東北海区近海の海況

武藤清一郎



 今年後半の東北近海の海況は,黒潮の北限が平常並かやゝ北偏気味であり,三陸近海に暖水塊が形成されず10月頃まで経過した。また、親潮第1分枝は7月に襟裳近海に後退し,それ以降は親潮第2分枝が発達した。以下当水研・関係水試・水産高校および気象庁・海上保安庁・防衛庁等の観測結果に基づいて,海況の推移の大要をまとめた。


 夏(8月
(1)黒潮主流は犬吠埼に接近して北東に流れ,35.7゜N、141.7゜E付近(3.7ノット)および36.3゜N,142.5゜E付近(4.8ノット)を通り,37.2゜N,144゜E付近(4.3ノット)を北限として南東に向きをかえている(表面水温分布)。
(2)近海の黒潮北上分派は144゜Eで40゜Nを越えており、沖合でも148゜〜149゜E付近,150゜〜151゜E付近および155゜E付近でそれぞれ北に張り出している。 襟裳岬南東の41.5゜N,144゜E付近に暖水塊(T1008℃)があり、その東方〜東北東沖の41.3゜N,145.5゜E付近(T1007℃),40.5゜N,148.6゜E付近(T1009℃)42.5゜N、146.5゜E付近(T1003℃)および42.8゜N,152.8゜E付近(T1003℃)をそれぞれ中心とした暖水塊がある。
(3)親潮第1分枝は襟裳岬南41゜N付近にとどまっているがこれより南に冷水(T1005℃)が39.5゜N付近まで張り出し,その1部(T1004℃)が鮫角付近の津軽暖流に接している。  金華山付近から常磐近海にかけて細長く冷水(T1008℃)がある。  親潮第2分枝は146゜〜148゜E方面から巾広く南に張り出し,近海の黒潮北上分派の東側に沿って39.5゜N以南に達している。
(4)津軽暖流は右旋環流を形成している模様で,その東方への張り出しは,尻屋埼沖および41゜N線東方で143.2゜E付近までである。暖流域の表面水温(To22℃)は例年並みであるが,100m層水温(T10019℃)は1965年以降では最高である。


 秋(11月
(1)黒潮主流は犬吠埼南東約40海里を北東に流れ、35.3゜N,141.5゜E付近(2.7ノット)、36.5゜N,142゜E付近(2.9ノット)および37゜N,142.5゜E付近(2.3ノット)を通り37.5゜N,144゜E付近(4.2ノット)を北限として南東に向きをかえ大きく弧を画いて流れている。更に,黒潮の一部は犬吠埼南東で向きをかえ35゜N,142.5゜E付近(2.4ノット)を通り南南東に流れている。
 35.3゜N、144゜E付近(2.7ノット)で北西に向かう流れがあり,36゜N,144゜E付近を中心とする右旋環流が考えられ,大型暖水塊(T10022℃,φ約150海里)の形成の可能性がある。
 沖合の37.8゜N,151゜E付近に黒潮の蛇行の北限がみられた。
(2)近海の黒潮北上分派は143゜〜144゜E間を39.5゜N付近まで延び親潮第1分枝と顕著な潮境を形成している。沖合の149゜〜150゜Eおよび151゜E付近を40゜Nを越えて北に延びている。
 三陸沖の39゜N,144.5゜E付近および39゜N,147.3゜E付近を中心としてそれぞれ暖水塊(T10016℃および15℃)がある。
釧路南の42゜N,143.3゜E付近および41゜N,146゜E付近を中心としてそれぞれ暖水塊(T1003℃,6℃)がある。
黒埼・鮫埼および椿島沿岸にそれぞれ暖水(T10015℃,16℃および16℃)がある。
(3)親潮は広く道東をおおい,第1分枝の南への張り出しは39.7゜N,143゜E付近に達し、それに連らなる冷水(T1005℃)が黒埼に接近している。第2分枝は39.3゜N,145゜E付近に達し,沖合でも146゜〜147゜E,148.5゜Eおよび150゜E付近でそれぞれ40゜Nを越えて南に張り出している。
(4)津軽暖流の尻屋埼東方への張り出しは143゜Eを越え,41゜N線東方および鮫角沖でも143゜Eに達し,最大2.7ノットの右旋環流を形成していた。


年後半の海況の特徴
(1)黒潮の北偏傾向は引き続いた。11月に流れに大きな変動があり,大型暖水塊が形成された。
(2)10月まで三陸近海に暖水塊が形成されなかった。
(3)7月以降親潮第2分枝が第1分技に比し発達した。
(4)津軽暖流域は例年に比して高温に経過した。

(海洋第2研究室長)

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