第3回北太平洋ビンナガ研究会議

林 繁一



 1978年9月13,14日に米国ホノルル市で開かれたこの研究会議に合衆国政府の招待を受けた。転任直後の第2回会議にも出席したが,今回は日本から遠洋水産研究所の塩浜さんと2人だけとあって実質的には初めてという感じで,前回見過していた事実に気付くことになった。
 その1つは,この研究会議の構成と目的である。遠洋水産研究所と,米国,国立海洋漁業局(NMFS)南西漁業センターとは,1975年に非公式に北太平洋ビンナガの資源と漁業に関する情報と研究方法を交換することにした。専ら漁業生物学的研究の場であり,したがって行政的又は産業的な係わりを持たず,未完成な研究でも討議できる場であることは,策3回会議の開会に際しても,NMFSホノルル水産研究所SHOMURA所長から繰返して強調された。この性格から,先の2回の研究会議議事録も,東北区水産研究所等限られた機関にしか配布されていない。ともあれこの研究会議を通じて遠洋水産研究所には,米国ひきなわ漁業の漁獲成績報告書の磁気テープを含む未発表資料が送られてきているし,関係者には使用の便が計られている。もっとも研究者ベースでの会合をもつことの一層大きな利益は自由な討論を通して醸成される信頼感である。これは東北区水産研究所でも,日ソサンマ協同研究会議を通じて体験している所でもある。
 この研究会議は,ホノルル研究所の小じんまりした会議室で行なわれた。出席者も私達2人の日本人の他に,ホノルル研究所R.S.SHOMURA所長に加えてDr.J.WETHERALL,Ms.M.YONG,ラホヤ研究所Dr.R.M.LAURUS,Dr.G.T.SAKAGAWA,Dr.N.W.BARTOO,カリホルニア州漁業狩狼生物局 M.F.HAGEERMAN,オレゴン州漁業局M.LARRY HREA,ワシントン州漁業局Mr.B.CULVER,それにカナダ漁業環境局ナナイモ生物研究所Dr.K、KETCHENの12名である。このうら,Jerry WETHERALLとMichael LAURUS とは昨年6月東北水産研究所で講演しており,とくにホヤを始めとする東北の味が忘れられないと話していた。
 会議の内容は,日・米・加から1977,1978年の漁況を紹介し,漁獲統計,体長統計(僅か数千トン以下しか漁獲のないカナダは除く)を交換した。所で米国でも 200海里調査が1977/78会計年度から始まり,州機関に資料収集その他の調査がおろされている。「調査員が足りない,調査計画が非現実的だ」という意見がワシントン,オレゴン,カリホルニア3州の人達から出された。私は日本の調査打合せ会議の場にいるようだと半畳をいれた所で,全員複雑な笑いに捲き込まれた。しかしカナダのKETCHENも言っていたが,このような状態を克服して信頼できるような調査体制を作り上げることこそ大切である。
 研究発表としては,次の7篇の報告があった。
1.プロダクションモデルによる北太平洋ビンナガの資源評価(塩浜)
2.北西太平洋の夏ビンナガ竿釣り漁況予報の現状(塩浜)
3.1977,1978年のビンナガ表層漁業漁況の考察(木川)
4.黒潮続流漁場における照洋丸の海洋観測結果(森田)
5.北太平洋ビンナガ資源評価における年令別豊度指数,有効努力量統計を使用する試み(WETHERALL・YONG)
6.1977年米国ビンナガ漁業に影響したいくつかの要因(LAURUS)
7.ビンナガ成長研究における耳石日輪数増加を見積るテトラサイクリン法の適用−経過報告(LAURUS)


 これらの研究や資料の論議を通じて,1977,1978年の不漁が論議の的となった。どうも一般的に見て,資源をMSYレベルに近い所でとっている可能性は大きい。しかし多魚種を狙う少くとも3つの漁業(竿釣り,ひきなわ,はえなわ)でとられているビンナガに対しては本質的にはプロダクションモデルは使い難い。そうかといって資料がないのに徒らに精緻なモデルを考えても無意味である。年々の漁況と海況の資料を中心にビンナガの生態を浮彫りにするモデルを作り上げることが急務である。そのいみでは今回提出された論文をさらに改訂する必要がある。国際的な資源研究の場において漁海況予報の経験を積んだわが国の水産研究所や水産試験場が大きな貢献をする場がここにもあると改めて感じさせられた。
 最後に,この会議に日本人が米国の旅費によって出張せざるを得なかったことは残念であった。また国際会議に出席するたびに外国の研究機関には若い人が目に付くことも併せて注意しておきたい。

(企画連絡室長)

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