研究の国際化に寄せて

林 繁一



 このニュースを編集して,改めて国際協力が盛んになったと実感させられた。地域水研のニュースとして本号は異例に属するかも知れない。昨年は200海里2年目であったという背景も否定すべくもないが、それにしても海外漁場への入会いに加えて,日本近海資源の予測とか,増養殖技術での協力が頻繁であったことは私にとって鮮烈な印象であった。
 もちろん日本の水産研究の先進性を物語るものではあるが,それと同時に世界各国が海洋生産に寄せる期待が大きく,しかもその研究が一国だけでは解決し得ない程になったことを反映している。そしてこうした期待に対して,日本としても冷淡でいるわけにはゆかなくなったのである。
 それにしても国際協力にはいくつかの制約がつきまとう。労力不足の現状では,山積する国内問題を差し置いて迄海外に奉仕する必要があるだろうかといった考えも否定できないこともある。産業としてもたとえば分布範囲,回遊範囲の広い種類については,今日「漁獲を規制しても…」,「種苗を放流しても…」,明日「他人が捕るかも知れない」という感覚が潜在すると見るのは僻目でなかろう。これに関しては,自然科学の対象,社会科学の対象を分けて考えるだけの見識と余裕が必要である。「海洋牧場」をめぐるある会合で,「大回遊魚の種苗生産は外国を利するだけではないか?」という質問があった。「まず第1に種苗を作るという自然の中にある鍵を人間の手中に収めてから,人間と人間との間の配分を論じるべきである」という説明に強く感銘したことがある。その解答者が水産研究の発展とその適用に当って人間の働らきを重視していることを知っているからであった。
 「日本におけるシロザケの大規模放流が北太平洋の生物生産の平衡を乱すのではないか?」といった疑問を耳にすると,人間の持つ技術の生態系への働きかけが大きくなりつつあることを感じる。科学・技術の社会的責任が問われつつある現在では,従来にもまして本格的に個別研究に取組むこと,そしてそれを進める中で社会的生産力の発展に技術をどのように活かすかを明らかにすることが国際協力を進める上にも基本となると考えている。
(企画連絡室長)

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