IPFCカツオ作業部会に出席して

笠原康平



 本年3月,マニラで第18回インド太平洋漁業理事会(Indo Pacific Fishery Commission,略してIPFC と呼んでいる)が開催されたが,それに先だってその下部機構である資源調査開発小委員会と中西部太平洋カツオ作業部会が開かれ,それに出席してきたので,特に我々に関係の深い後者についてその模様を簡単に述べておきたい。先ずこの会議の性格であるが,FAO(国連食糧農業機構)の付属機関の1つであるIPFCの第17回総会が昭和51年にコロンボで開催された際,その下部機構として「常設資源調査開発小委員会」を設置し,従来からあった「魚類処理・流通作業部会」「養殖・環境作業部会」「統計作業部会」に加え,新たに「内水面漁業作業部会」と「中西部太平洋カツオ作業部会」を設けてその下に付属させることが議決された。常設資源調査開発小委員会設置の目的は,
1) 漁業資源の状態とその資源に依存する漁業に関して助言を行うこと。
2) 対象魚種に関する生物学や漁撈・養殖・加工技術,さらにはその漁業の背景となる社会・経済およびその関連分野の調査を進めること。
3) 地域内の各国の統計についてその改善につとめること。以上のような非常に広汎な任務を委託されている。

 一方カツオ作業部会の方は,
1) 地域内のカツオについてその資源構造を明らかにさせること。そのため標識放流や遺伝学的研究およびそれに関連する研究を進めて,系統群の時空間的分布を確かめること。
2) 2年以内にカツオの漁獲量・努力量統計に関するワークショップ設置の可能性を検討すること。以上のように極めて基礎的な問題に限られており,当面は準備機関としての性格を持っているようである。しかし特にカツオがとり上げられたのは,この地域における日本のカツオ漁業の飛躍的発展が南方諸国の人達に危惧の念を抱かせたからに他ならない。

 この議決は第18回総会で実行に移されたわけで,私達はこの会議の最初の出席者ということになる。
 会議は3月1日・2日の2日間にわたり,アメリカ,オーストラリア,ニュージランド,パプアニューギニア,ニューカレドニア,フィリッピン,インドネシヤ,韓国等の諸国から色とりどりの人達15名前後が顔を揃えた。日本からは遠洋水研の米盛保氏と私が出席した。会議の公用語は英語とフランス語であるが,フランス語は勿論,英語も至って不得手な私は米盛氏に全面的に御世話になった。議長はニュージランド農漁業省のWaugh氏が指名された。
 会議は極めてハードスケジュールで,始まるのは午前10時頃だが,終るのは午後9時,10時頃になるのが通例であった。さて会議の内容だが,議題は標識放流や漁獲統計の問題を中心に次の5つが準備された。第1の議題である回遊と系統群の問題では南太平洋委員会(SPC)の代表から,SPC地域で行われている標識放流の模様が詳しく報告され,併せて標識や標識方法について幾つかの改善がなされたことが照会された。例えば従来各国で共通して使っていたビニール製の標識は,−40℃以下の低温に遭うと脆くなって折損され易いので,低温に強い材質を用いた標識を新たに開発したとか,幼魚を放流する場合短かく切った標識が有効であるといったことである。また系統群を明らかにさせるためには,現在の遺伝学的手法を用いた技術を如何に活用させれば最も効果的であるかとか,系統群判別のための新しい技縮の開発の可能性とかいった問題も論議された。第2の議題の漁獲量・努力量統計の問題では,日本側から提示した漁場別統計が高い評価を受けた。しかし,IPFC地域の他の国々の統計にはまだ改善の余地が多く残されており資源評価の基礎資料とするには不十分であるとの指摘があった。また各国の統計を集めて,一定の形式の下に綜合的な漁場別統計を作る必要性が強調された。第3の議題は漁獲努力量の単位についてである。単位努力当り漁獲量が魚群量を最も忠実に反映するためには,努力量の単位に何を用いたらよいかという問題である。操業回数とか操業日数,さらには探索の時間を加えた操業日数等についてその優劣が論議された。餌の消費量を単位としたらどうかという提案もあった。結局作業部会としては,現在まだ信頼できる方法がないことに不満であるが,将来満足できる解析が完成された時に備え,現段階でも漁獲努力に関連するデーターをできるだけ多く蓄積しておく必要があることを改めて確認したにとどまった。第4の資源評価の問題では,先ず資源状態を判断するための種々の方式が検討された。例えば漁獲量と努力量の関係を用いる方法,標識放流の再捕結果の解析,魚群探査のため水中音波探知機(ソーナー)を用いる方法等が論議された。また現在広く使われているコーホルト解析はカツオの場合,漁業が偏在していること,特定の年令群が地域的に,また時期的に偏在していること等のため有効に適用できないのではないかといった指摘もあった。またカツオの資源状態について作業部会としては,日本近海漁業のように局地的な例外はあるものの一般にはまだ低い率でしか利用されていないということと,現時点では最大許容漁獲量を推定することは不可能であることを確認した。最後の議題は南太平洋委員会(SPC)との協力の問題である。SPCは3ヶ年間の計画で昨年から,標識放流を中心とする大規模なカツオ資源調査を始めている。作業部会としてはこの計画の果す役割を高く評価するとともに,財政的に許されるならこの計画をIPFC全域にまで拡大させるよう努力することが確認された。
 以上で準備された議題の討議は終り,最後の締め括りとして,次の諸点が上部機関に対し勧告された。

1) 小型カツオの移動状態を知ることが,カツオの資源構造を確かめる上で極めて重要なので,その標識放流の方法や生き残りの状態を,アメリカのホノルル研究所で研究するよう要請する。
2) フイリッピン・インドネシアの周辺水域にはカツオ幼魚が極めて多量に分布しており,これが西部太平洋のカツオ資源の供給源の1つとなっているので,これら水域カツオの標識放流計画に十分援助を与えること。
3) ハワイからミッドウェイに至る中部太平洋水域では,東部のカツオと西部のカツオが交流しているとみられるので,特にこの水域での標識放流計画を強化するよう日本政府に要請すること。
4) 遺伝学的研究を進めているオーストラリヤ国立大学に対し,十分援助を与えること。
5) 漁獲量・努力量統計が関係各国で有効に利用されるため,これら統計資料の収集センターを設置すること。

 既に述べた通り今回の会議は,第1回目ということもあって中西部太平洋のカツオ資源調査を進める上での前提条件の整備という段階にとどまった。しかし次回の会議では資源評価に直接迫る問題が討議の中心に据えられよう。最大の漁業国である日本としては当然この会議で重要な役割を担う立場にあり,従って統計資料の整備だけにとどまらず,資源解析の面でも十分準備してかかる必要があると考える。なお次回の会議は2年先の昭和55年に,東京で開催されることが予定されている。

(資源第2研究室長)

目次へ戻る

東北水研日本語ホームページへ戻る