情報産業の巨大化とミニ図書館

工藤英郎


 私はつい先日,筑波の農林研究団地で,技術会議の「昭和52年度情報活動研修」を受講しました。今回の研修対象は,情報活動の実務者でしたが,実務者でない私が研修に参加したのは,当水研の書庫が遂に今年パンクしたからです。東北水研が現在地に移転した時,書庫の広さは,以前の3倍位になりました。それが12年そこそこで,製本雑誌の配架ができなくなったのです。
 図書委員会では,他の所員やアルバイトを頼み,図書室の整理をしました。満杯になった書庫の整理は,大変な労働力を喰うものです。1冊の本を動かすことは結局全部の本を動かすことでした。しかも,若干の書架の新設,棚の増設,保管していた当水研印刷物の移転など,できるだけの空間利用策を講じても,この先わずか5年分のスペースしか,確保でさなかったのです。整理が一段落し4・5年先は大変だと図書委員一同が考えていた時,研修の話がありました。
 研修の内容は図書館学の基礎的なことや,科学情報に関連する事柄です。講義の程度は,恐らくこの専門分野のごく初歩的なものでしょう。しかし,その内容は,多少とも図書に関係する人は勿論,研究者にとっても重要な事項を沢山含んでいると感じました。
 例えば小専門分野の,従って小部数の高価な雑誌が多発される傾向は,ただでも少ない図書費と共に,研究者の要求不満をかきたてることでしょう。また,Index the Scientific and Technological proceedingsがあれば,会議やシンポジウムの,文献検索を諦めることはまずなくなるでしょう。この外ニ次文献の話や,学会誌の印刷形態の変化など,興味深い話が沢山ありました。しかし,何といっても強烈なショックをうけたのは,情報産業のめざましい巨大化と国際化です。
 その一つは丸善が,世界最大の情報量をもっているロッキード社と組んで,1978年1月から開始する文献検索サービスです。その情報量は,日本のJlCSTや来年度から農林場所には無料で検索業務を開始する「農学情報センター」がもつ情報量の数十倍だそうです。このような検索会社の出現は,今後の文献蒐集,研究課題や方法の決定,その他,各種研究活動に大きな影響を与えることは,疑う余地もありません。
 もう一つは,ブリテイシュ・ライブラリーの,借出部門のコピー・サービスです。同図書館は12万タイトルの遂次刊行物の他に,膨大な図書・資料をもち・更にイギリス国内の主要図書館をも利用して,すべての複写申し込みに対し90%の充足度をもっているそうです。実は昨年この図書館から,日本水産学会東北支部会報のバック・ナンバーを請求されました。会報は薄い年一冊の雑誌で,東北地方の水産研究機関の図書室でも,今年までバック・ナンバーを揃えている所はなかったものです。これからみても,同図書館のコピー・サービスは,桁はづれな蒐集力に裏付されていると思います。しかも,申込み・決済がこく簡単で,日本でも16日で入手できるのですから,まるで近くに大図書館が,できたようなものです。
 私共のような地方の小水研では,図書の不備に,いつでも不満を抱いています。書庫の狭さも悩みの種です。このような問題の解決には,技術会議の農学情報センターや,上記の情報サービス機関などが,大きな役割を果してくれるでしょう。一緒に研修をうけた南西水研の松里氏は,すぐに雑誌不要論を唱えた位です。書庫の整理に泣かされた私にとっては,同感の意を禁じ得ません。ただ,拾い読みした論文から,ヒントを得ることもあって,研究者が本を身近におく要求は強いものです。この要求と,予算の少ない,スペースの狭い図書室との調和を図るのには,文献利用率や,文献価値の適正な判断による,図書の整備と整理が必要です。そのためには我がミニ図書室も,情報産業の発展を頭に入れながら,基本方針,将来方針を定めなければなりません。いづれにせよ,数年以内の図書委員会に,また重い荷物がかゝってくるのは必定です。
(海洋部)

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