カツオ標識放流について

笠原康平



 カツオは今なお膨大な未利用資源を持つとみられ,その開発は国際的にも注目を集めている。従ってその資源量の評価が当面する緊急課題とされ,その前提となる基礎研究の一つとして,資源構造の解明が急がれている。資源構造を探るための調査にはいろいろあるが,標識放流が最も直接的で,得られる情報量も大きい。そこで現在日本を始め,カツオに深い関心を持つアメリカや南太平洋諸国(パプア・ニューギニア,ニューカレドニア等)でも大規模な標識放流調査が進められている。日本では東北水研が1967年から,また遠洋水研が1971年から,それぞれ各県水産試験場や水産高校の協力を得て実施している。この他各県水産試験場や水産高枚が独自に毎年相当数のカツオやマグロ類を放流しているので,年間の放流尾数はかなりの数に上る。本年4月1日から11月末までの各機関の放流実施状況を東北水研に寄せりれた報告に基いて,調査船別に表1に示した。標識魚は何れも竿釣りによるもので,カツオが大部分を占め,これにビンナガ,キハダ,メバチが僅かづつ加わっている。使用した標識はプラスチック製の細いチューブに矢尻のようなをつけたダートタッグ(一部にアンカータッグを混じている)と呼ばれるもので,これを釣獲直後の魚体の背中に刺しこんで放流する。人間がこの程度の傷をうければ動けなくなることは間違いないが,カツオは案外丈夫なもので放流直後に再び漁夫の釣針にかかってきた例が幾つか報告されている。標識による影響が,少くともその魚の食欲をそこなうほどではないことを示すものと思われる。なお過去の放流結果からみると再捕率は年や漁場によってかなりまちまちの値がでているが,日本近海では比較的高くて2〜5%,南方海域では極めて低くて0.5〜0.8%となっている。また放流から再捕までの期間が近海では大部分が2ヶ月以内となっているが,南方では再捕魚の約70%が6ヶ月以上経過しており,1年以上経過してから再捕される例も稀ではない。さらに標識魚の移動方向にも特徴があり,近海では時期や漁場によって移動方向がほぼ一定しているが,南方海域では放流地点を中心に放射状に八方に分散しており,一定のパタンといったものがみられない。
 本年度近海で放流されたカツオ1,425尾のうち現在までに36尾が再捕されているので(南方では放流時期が遅かったせいもあってまだ再捕はない)その結果の一部を図1に示した。薩南で4月に放流された標識魚は何れも北東の方向に移動し,1〜2ヶ月後に四国豆南沖で再捕されている。また房総および常磐沖で6月に放流された標識魚は,大部分が北東の方向に移動して1ヶ月後39°・40°N付近で再捕されている。もっとも以上の動きは例年の放流結果ともほぼ一致しており,特に目新らしい事実はない。ただ6月中旬,160°E以東で放流された標識魚は何れも北西の方向に移動して東北海区に入っているが,比較的岸よりで放流された群は1ヶ月後に150°〜152°E水域で,また沖合で放流された群は2,3ヶ月後に154°〜156°Eの沖合水域で集中的に再補されており,しかも両者の間に交流はみられない。今までこのような沖合での放流が殆んどなかっただけに,この結果ははるか東沖合を北上する魚群の行動の一端を示すものとして興味深い。
 一つ一つの再捕報告は極めて貴重であり,これがカツオの研究に果す役割は計り知れないものがある。従って標識魚再捕の際は是非最寄りの水産試験場なり水産研究所に,標識魚の再捕された場所や日時とともに標識を届けるようお願いする。
(資源部第2研究室長)

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