1.サンマの季節的な南北回遊,とくに北上回遊から反転南下する機構について,北限水域における環境とサンマの生態との関係
北西太平洋系のサンマ群は,4〜5月ごろ黒潮の急激な増勢に伴って黒潮前線以北へ来遊し,黒潮北上分派沿いに北方移動し6月は親潮前線周辺に停り,魚群分布は黒潮北上分派先端部に多く,魚体の大きいものがより北方に分布する。梅雨あけに暖流系水が急に北進する際,サンマ群は親潮前線を超え,さらに北に位置する千島前線に達する。この回遊北限水域におけるサンマ群は千島前線を構成する潮境の暖水側で,下層50m付近に親潮中冷水(2℃以下)の存在が顕著な水域に分布する。この水域はサンマの餌となるcalanus cristatus, C・plumchrus などを卓越種とするプランクトンの濃密な分布水域となっている。
この北限水域で成長したサンマ群は8月10日ごろには反転南下を開始し,程なく北海道東方漁場へ来遊する。その誘発要因は産卵を指向する大型魚は寒冷水温と短日変化の刺激が,成長期の中・小型魚は餌生物の存在が重要である。大型魚が先行南下し,例年8月下旬には北海道東方沖へ南下先端の第1群が来遊する。平均的に魚体の大きい群が先行し,1漁期間には3〜5群団が波状的に来遊して南方移動する。
2.南下過程におけるサンマの回遊と海洋構造との関係
初漁期のサンマ主漁場は例年9月上・中旬ごろ100m層水温2℃以下の親潮中冷水が南へ張り出す縁辺上に形成される。従って主漁場の位置は親潮中冷水の南への張り出し状態と対応し,さらに道東沖暖水塊の盛衰に影響され,暖水塊が発達する場合は沖合へ移り,暖水魂が縮小・離岸する場合は沿岸寄りに形成される(この過程で漁獲物組成や漁獲水準に変化がみられる)。
漁期後半の主漁場は,常磐沖の黒潮前線北側の潮境に形成され,黒潮の動向と親潮系水のこの水域への張り出し状態により,好漁場が形成されたり,殆ど漁場形成をみなかったり経年変動が大きく,とくに黒潮の動向が直接影響する。
サンマ漁場の海洋構造は,千島沖では千島前線の収束部から暖水側へ,道東から三陸および常磐沖では極前線帯の収束部から冷水側へ僅かに離れ,垂直安定度が大きく,下層には親潮中冷水の存在が顕著である。親潮中冷水の探さは千島前線水域では水深50m,親潮前線漁場では100m,黒潮前線漁場では300m前後である。しかし一時的に10月下旬ごろ親潮中冷水は認められないことがあり,この時期には魚群の移動が早く,ソコむれが多い。このようにサンマ漁場形成および魚群移動は親潮中冷水と密接な関係がある。
漁期末には黒潮前線以北に残留するサンマ群は少く冬季には魚群の大部分が黒潮周辺および黒潮反流域に発見され,分布の南限は亜熱帯潮境である。
3.漁業の動向とその歴史的変遷による漁場および漁況との関係
サンマ漁場形成は,それと密接な関係にある親潮系水の長年の年代的な消長に対応した次の4つのパターンに分けられる。
1) | 親潮系水の中心部が接岸した年代は沿岸水域に主漁場, |
2) | 親潮中心部が離岸傾向になると沿岸・近海主漁場, |
3) | 親潮中心部が離岸すると沖合主漁場, |
4) | 親潮中心部が更に離岸すると沖合・遠洋主漁場で分散型。 |
1) | 黒潮流路の北限位置は38゜N付近,親潮第1分枝発達型。沿岸来遊群多く沿岸主漁場,漁獲物は中型魚の単峰型(1950〜1953年) |
2) | 黒潮流路の北限位置は37゜30′N付近,親潮第1・策2分枝発達型。沿岸・近海漁場型で大型漁・中型魚の双峰型。この海況の型には三陸沿岸低温(1956年)と高温(1955,1957〜1959年)の2型がある。 |
3) | 黒潮流路の北限は37゜N付近,親潮第1分枝微弱,第2分枝発達型。沿岸来遊群減少し沖合主漁場,大型魚・中型魚の双峰型(1960〜1963年) |
4) | 黒潮流路の北限は36゜30′N付近,親潮第1分枝は一層微弱,第2・第3分枝発達型。沖合遠洋主漁場,大型魚主体で小型魚まじりと,中型魚主体で小型魚まじりのタイプが1年おきに出現するパターン(1964〜1967年)から,小型魚の単峰型(1968〜1971年) |