昭和51年後半から今年前半までの東北海区近海の海況

黒田隆哉


 51年前半の海況で特に注目された現象は,(1)黒潮流路の変動が激しく,5月には37゜N付近にまで北上したこと,(2)津軽暖流の東方への張り出しが例年と比べて狭く,また水温も低目に経過したこと,および(3)三陸近海における親潮第一分枝の広がりが,例年より著しく狭かった昨年とは変って例年並かやゝ広目となっていたこと等であった。以下にこれ以降現在に到るまでの経過を略述する。
 なお用いた資料は前報同様当水研の諸調査のほか,関係水研・水試・学校及び気象庁・海上保安庁・防衛庁等の観測によるものである。

1.51年夏(8月の図から)
(1) 黒潮は犬吠埼南東近海を経て東〜東北東に流れ東経144度付近では北緯37度付近に達し,こゝから反転して南東方向に流去している。
(2) トドヶ埼の近海には暖水塊(100m深中心水温11℃)があり,その周辺は右回りの環流(最大1.6ノット)となっている。
(3) 道東近海は広く親潮に占められており,その一部は襟裳岬を経て大きく南に張り出し,その先端は黒埼沖の北韓40度,東経143度に達している。トドヶ埼沖暖水塊の沖側に沿って南に張り出す親潮分枝の先端は北緯38度30分,東経146度よりなお南に達している。
(4) 金華山から常磐の近海は冷水域(100m深の水温が3〜5℃)となっている。
(5) 親潮域内の釧路南東120海里付近を中心とする暖水塊(100m深の中心水温6℃)がある。
(6) 津軽暖流は例年同様尻屋埼沖の東経143度付近にまで張り出し,また流域の最高水温は100m深で12℃で,昭和39年以降では最低となっている。

2.51年秋(11月の図から)
(1) 黒潮主流は房総半島の東側沖合30海里沿いに北東に流れ,北緯36度・東経142度付近を通って更に北東に向かっている。
(2) トドヶ埼東方の北緯39度30分,東経144度付近及び釧路南東沖の北緯41度,東経146度付近をそれぞれ中心とする暖水塊(100m深の中心水温それぞれ16℃,13℃)があり,その周辺の流速はいずれも1ノット内外を示している。
(3) 塩屋埼から金華山にかけて,及び金華山からトドヶ埼にかけての沿岸部は広い暖水域(100m深の水温15〜18℃)となっている。またこの沖合の北緯37度から39度,東経143度から145度の範囲は冷水域(100m深の水温3〜11℃)となっている。
(4) 道東近海から南西に張り出す親潮は,一部が三陸沿岸を南にのび,一部は上記二つの暖水塊の間を通って南にのびている。
(5) 津軽暖流は東経143度位まで張り出しており,ほゞ例年並,流域の水温は100m深で最高16℃(11月)で,これは昭和39年以降の同期と比べほゞ例年並である。
 昭和51年後半の特徴としては,
(1) 黒潮が引続き変動に富み,夏にも再び北緯37度に達した。
(2) 本年当初から見られていた二つの暖水塊のうち,トドヶ埼沖の暖水塊は8月迄持続したが,これ以降は不明となった。釧路南東沖の暖水塊は大きさ,100m深の中心水温とも秋まで変らず,月平均20海里の速さで北東に移動した。
(3) 親潮は本年当初から引続き道東近海〜三陸沖に巾広く分布した。
(4) 津軽暖流は10月以降その東方への張り出しも流域の水温も例年並に戻った。等が挙げられる。

3.昭和52年冬(2月の図から)
(1) 黒潮主流は野島埼沖の北緯34度30分,東経140度30分付近を北に向かって流れている。
(2) 黒潮系暖水は犬吠埼近海から巾広く東北東にひろがり,その先端は北緯41度,東経145度付近にある。また暖水の一部は暖水舌となって犬吠埼近海から常磐沿岸にのびている。三陸の沿岸域は表面・100m深とも水温5〜6℃で,ほゞ例年並である。
(3) 道東近海から襟裳岬付近を経て三陸近海に張り出す親潮分枝は極めて強勢で,その先端は塩屋埼沖の北緯37度,東経142度付近を越えて更に南にのびている。分枝の巾は三陸沖で東西90海里,南端近くでも20海里あり,水温も低く,表面・100m深とも2〜3℃水が広い範囲にわたって分布している。
(4) 津軽暖流は東方に東経142度50分付近まで張り出しており,例年同期と比べやゝ広めである。

4.昭和52年春(5月の図から)
(1) 黒潮は犬吠埼南東60海里付近を北東に向かって流れ,塩屋埼の東方北緯36度40分・東経144度付近に達した後反転して南東に向かい,北緯35度10分・東経146度付近から再び北東に向かっている。
(2) 黒潮系暖水は東経143度と144度との間及び148度と149度との間を北にひろがっている。
(3) トドヶ埼東方の北緯39度30分・東経144度付近を中心とする暖水塊(100m深中心水温13℃)がある。その大きさは約80海里,厚みは表層から400m深位までゞある。
(4) 金華山近海には春先きに強く南に張り出した親潮の先端部が,小冷水塊群(100m深水温3℃)として居残っている。
(5) 道東近海を広範囲に占める親潮は,その一部が襟裳岬付近を経て三陸沿岸に張り出し,その先端は黒埼付近にある。また他の一部はトドヶ埼沖の暖水塊の東側沿いに南にのび,その先端はトドヶ埼沖の北緯39度30分・東経146度付近にある。
(6) 親潮域内の釧路南60海里付近に小暖水塊(100m深水温7℃)がある模様。
(7) 津軽暖流は海峡東口から東方へ東経142度30分付近まで張り出しており,これは例年とあまり変らない。また流域の水温は表面で最高10℃,100m深で9℃を示し,いずれも例年とくらべ1℃程高めとなっている。

 なお,52年前半の特徴としては2月から三陸沿岸を南下する親潮分枝が著しく強勢となり,若干の変動はあるがこの状況は3月・4月と続き,5月になって漸くこの親潮分枝の張り出しはほゞ例年並に戻った。然しその影響は,6月になっても金華山〜常磐沿岸に分布する冷水域として残っている。

(海洋部長)

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