言うまでもないことですが,我が国の伝統的食品であるさけ・ますの供給は,最近の厳しい国際情勢と河川・沿岸環境の状態からみて,現在の生産体制のまゝでは減少に向うことが大いに懸念されます。永年にわたるふ化放流事業を通じて,我が国に母川をもつさけ・ます資源は近年回復しつゝありますが,技術的にはこれをさらに増大させ得る可能性があります。この別枠研究の目的もこの点にあります。日本の沿岸を離れるまでの間の放流さけ・ます稚魚の減耗要因を取り除く為の一挙の技術体系を確立し,海中飼育放流技術や新らしい資源の造成などの新らたな観点に立った増殖技術の開発によって,これまでのさけ・ます増殖技術に抜本的な改善を加えて,我が国に起源をもつさけ・ます資源の大量培養を図ろうというのが,この別枠研究のねらいです。勿論,放流稚魚が成育する北洋海域の収容能力もこの研究を通じて,充分に検討される予定です。
この研究は,北海道さけますふ化場,北海道区・東北区・日本海区・淡水区・遠洋の各水産研究所,真珠研究所,農業土木試験場を中心に,委託機関として北海道大学,東京大学などの研究室,岩手県・宮城県水産試験場,宮城県栽培漁業センターをはじめ,北海道・日本地域の関係水産試験場を組織して,研究が進められます。我が国のさけ・ますに関係する水域の研究機関を挙げてのプロジェクトを研究です。
東北区水産研究所の増殖部,海洋部,資源部,八戸支所から参画する研究員は,昭和52年度から,海中飼育育放流,移殖放果,沖合生態の各課題にとりくみますが,なかでも海中飼育放流については,昭和45年〜47年のさけ類養殖技術開発企業化試験,昭和48年〜51年の水産庁指定研究さけの回帰率向上のための種苗育成放流技術開発試験を通じて,地元の岩手県水産試験場と宮城県水産試験場の研究員と共に,計画を煮つめてきただけに,この研究の推進に当る参画研究者の意気込みは相当なものです。海中飼育放流研究では,既に指定研究で河から海に入った段階での放流稚魚の減耗防止を海中飼育放流によって可能かどうかという課題について,3年魚3.99%(4年魚も同率と推定される)の回帰率を得て,実証的に成功しておりますので,これを土台に,沿岸滞留期までの放流稚魚の減耗防止を海中飼育放流技術の開発によって可能にし,少なくとも10%の回帰率を得る技術体系を組み立てることを研究の目標としています。また,海中飼育という放流の仕組みから,さけ・ますの母川記銘の問題が技術としてクローズアップされ,記銘のコントロールによる一代回帰,海域回帰などの新らしい放流技術体系も,この研究の中で取り組む計画です。