再捕魚の報告率について

佐藤祐二


 これまでカツオ・ビンナガ・サンマ・ババガレイなど当所で実施している標識放流調査の現況について紹介が続けられた。
 あるものは標識技術そのものに今後の改良が必要であるし、放流の実施に多大の経済的負担を要し、放流尾数の確保に著しい制約のあるものもある。
 ところで魚市場からの流通過程で1尾1尾丁重な取扱いを受ける高級魚はともかくとして、大量処理が行われる多獲魚の場合再捕の報告洩れが克服すべき大きな問題となるように思われる。たとえばマサバの場合を例にとると最近のまき網漁獲物は沖合で運搬船ハッチに収容され、漁港に到着後直接トラック荷台にタモ網で汲みとられ、それぞれの仕向先に輸送されるという方式で水揚処理が行なわれる。
 サンマ・スケトウタラ等の大量漁獲物の処理方式も大同小異である。
 このような水揚方式と標識魚発見の関連を考えると、意識的であるにせよ無意識的であるにせよ見落しもしくは報告洩れの可能性はきわめて大きいと思われ、ある場合には折角の苦労も全く報われないといった結果を招来するであろう。
 こゝで紹介するのはいささか古い資料ではあるが著者が1970年漁期中に八戸港のマサバ漁獲物について行った標識魚の発見報告率に関する小実験の結果である。
 この実験は魚市場で水揚処理中の魚に随時各種の標識を装着したものを混入しその報告を待つという方法によった。
 表1にその結果を示す。
 この表でみるように報告率の低さは驚くばかりである。もっとも好成績のものでも高々17%にすぎず、大半は標識魚としての効果を発揮し得ずに流通経路に流れてしまった。
 スルメイカについても同様な実験を同年11月18日−12月8日の期間に5回、プラスチック製アンカータグ117尾、金属ピンの挿込型45尾、合計162尾をいずれも肉鰭部に着けて報告を待ったが9尾の報告に止まった。
 この年にはスルメイカが極度の不漁のために高値を呼び、タオルー本の報償では割に合わぬといった意識もあったのかも知れない。
 北転船によるスケトウダラについては1971年2月3日〜3月24日にアンカータグ339尾を混入したにも関らず、発見報告はわずか2尾といった惨めな有様であった。
 とも角、多獲魚の標識放流については放流の技術的検討もさることながら、案外こゝいらに重大なネックがあるかも知れない。
 最近、青森県水産試験場は日本海スルメイカの標識放流調査にあたり、県下管内船全船に無線による放流通報を行い再捕報告も無線に依存して必ずしも魚体の届出にこだわらないといった姿勢によって、飛躍的な再捕率の上昇を得ている。実際の漁業者は放流・再補の結果そのものには大きな関心を寄せているのであるが、いざ届出となると億劫を感ずるのは厳しい労働条件の下では理の当然であろう。
 いうまでもなくこの方法では生物学的資料が全く得られないといった欠点があるし、また魚種、漁業によって条件は異なるから無原則にすべてに適用できるとは限らないが今後に示唆を与えるように思う。
 なお、魚市場における報告実験は八戸支所久保田清吾技官と共同で実施したことを付記する。
(八戸支所 第2研究室室長)

Yuji Sato

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