カツオの標識放流

浅野政宏


 カツオの標識漂流が実施されたのは昭和42年からで、現在も続けられておりかなりの成果を得ている。カツオの標識放流による移動回遊、系統群等に関する調査研究は等水研が中心になり、毎年放流が行われている。これらの調査結果については、昭和48年度まで印刷公表されている。
 放流調査が実施された当初は漁場も近く、従って放流地点も宮古島南東、マリアナ、小笠原、伊豆、東北の各水域を対象にして年間1,000〜3,000尾の放流を行なってきた。再補率は放流する時期、場所によって異なるが、伊豆、東北水域で高くなっているようである。
 昭和47年頃より漁場の南への拡大に伴い、当水研の放流重点も南方水域(20゜N以南)に移行している。この標識放流は当水研の担当官が乗船して放流を行なう他に、遠洋水研も実施している。また地方公庁船による独自の標識放流も実施されている。
 各年別に標識放流および再捕状況を示すと1表のとおりである。8年間で18,690尾のカツオが放流され、531尾が再捕されている。従って総再捕率は2.8%となるが、南方水域の再捕率が近年少し低下している。その理由として次のようなことが考えられる。現在ビニール製チューブの標識票を使用しているが、最近の漁獲物はブライン急速凍結(マイナス40℃)を採用しているために、船庫内での漁獲物の処理段階で魚の体外に露出している標識が低温にはもろく切損している可能性がでてきている。南方水域で漁獲されるカツオのほとんどが、このブライン凍結方法が用いられている。次に宣伝活動であるが、放流調査を計画、実施して以来、文書およびポスター等を活用して各関係漁業者に配布して宣伝につとめてきたが、最近では外国に水揚げされるカツオの量が多くなってきている。
 またカツオが外国に輸出され、外国の漁業関係者によって発見されたりしている。従って外国向けポスター等宣伝活動をより一層強めて、趣旨の徹底をはかる必要がある。
 ここでカツオに標識を装着して放流するまでの作業手順について簡単に述べてみる。標識放流を実施するに当っては、地方の公庁船(県水試、水高)を使用する場合が多く、調査担当官として1名が乗船する。出港してから漁場に到着するまでに、釣る人と標識を差し込む人とに分担を決めておく。普通差し込む人数は調査担当官1名を含めて5名程度で、釣る人は10〜15名になる。放流する魚の大きさは、2〜3Kgの小型魚の方が作業の上で能率が良い。釣り揚げられたカツオは釣り手の脇の下に抱えてもらい、後方で差し込む人が待っていて、敏速に第2背びれの下方に標識を1本差し込む。大型魚になると表皮の部分が強固で、差し込む時に手こずることもある。標識を差し込まれたカツオはその位置で海中に投下されるが、ほとんどのカツオは海中に潜っていく。しかしながら腹の近くに標識を差し込まれた魚や興奮状態にある魚では狂ったようにして海面を泳ぎ去っていくものもある。1群においてカツオが釣り揚げられている時間の長さは2〜5分の短時間であるために、標識を差し込む仕事はかなり忙しい。それでも大群で餌付の良い群に出合うと1群で500尾程度放流することができる。
 東北水域に来遊するカツオの回遊機構については、5月に伊豆列島線の東側を幾つかのコースにわかれて北上することが、仮説されている。これらの来遊機構を立証するためには標識放流によって検証することが、最も有効な調査研究方法である。そこで昭和49年に東北・南方水域で放流された2例を図に示すと1図2図となる。


1.東北水域
 昭和49年5月の放流位置は黒潮前線南側水域(鳥島の東130浬)の31゜06′N143゜02′Eで20尾放流して、6月に2尾、7月に1尾が再捕されている。7月の1尾については、78日後に北東方向540浬の地点で再捕されたものである。次に6月に放流を試み、やゝ東沖の35゜36′N150゜55′Eで20尾が放流され、翌月の7月に3尾、8月に1尾の計4尾が同じ東北水域で再捕されている。5月に放流されたものはいずれも北上して再補発見されているが、6月の東北水域の漁場形成をみると、この年はカツオ魚群の北上が遅く、6月の時点で黒潮前線(35゜N)を越えていない。5月に放流して6月に再捕された2尾について移動経路をみると、北上はしているが、32゜Nと34゜の地点にあり、6月の東北水域の漁場と一致する。
2.南方水域
 昭和49年11月にフイリッピン東方水域の19°31′N132゜46′E で313 尾、12月にはいり09°55′N131゜09′E地点で522尾の放流を実施した。11月に放流されたうち昭和50年6月にサイパン島近海、7月にウラカス島近海でそれぞれ1尾が再捕されている。
 いずれも東に移動回遊しているが、他の1尾は北上して昭和50年4月に鳥島近海で再捕されている。次に12月に放流されたものは、3尾とも南東方向に回遊し再捕されており、昭和50年7月にパラオ近海で1尾、10月、11月にそれぞれ1尾がトラック諸島で再捕されている。
 南方水域でカツオの標識放流を実施して数年経過しているが、魚群の移動回遊については、資料が少なく結論をだす段階に至っていないが、11゜N線を境にして放流をした場合、北側の水域(11゜N以北)で放流したものは、1部のものが日本近海で再捕されているのに対し、南側(11°N以南)で放流したものは、全部が南下して再捕されている。11°N付近の水域は、東から西に流れる北赤道海流域であり、時期により海流の強弱があるが、カツオの移動回遊に海流が関与しているのではないだろうか。
 以上紹介を終るが、日本の試験研究機関による標識放流調査も軌道にのり、諸外国との共同調査もパブアニューギニアをはじめとして、かなり大規模に実施されている。今後もカツオの標識放流調査は継続されることと思われるが、標識票の材質の改良、国内外の宣伝活動等若干の問題が残されているが、水産試験場、水産高等学校および試験研究機関との協力を得て、この調査をより一層充実させていきたいと考えている。

(資源部第二研究室)

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