昭和50年前半の東北海区近海の海況

黒田隆哉


 昨49年の前半は東北海区近海、特に三陸〜常磐の沿岸部は北方からの親潮(第1分枝)の張り出しが頗る強勢で、海岸近くまで冷水が押し寄せ、異常冷水と呼ばれてその影響が心配された。金華山以北では7月以降この冷水が北に退き、また金華山以南に秋まで残った冷水域も極く沿岸部に限られた。結果的に沿岸漁業に対して直接的にはそう大きな影響はなかったようである。本年の前半即ち初冬から夏にかけても極く沿岸域に低温水帯が持続して分布したが、特に異常とさわがれるほどではなく、またその他の諸要素についても特に異常は認められなかった。本年前半の海況の特徴を要約すると、
 黒潮は近海では36゜Nを越えて北に上ってはいない。
 八戸沖(後に釧路南東沖)および金華山沖に暖水塊が形成され、持続した。
 親潮第1分枝の三陸沿岸への張り出しは小規模で、これに反して沖合の第2分枝の南への張り出しは顕著であった。
 津軽暖流の東方への張り出しは例年並かやゝ広めに経過してきた。
 三陸〜常磐の極く沿岸部で、大部分は昨年程ではなかったが低温水帯が年初から持続した、
等である。以上の海況のパターンは秋に入ってもなお大体持続している。また秋口の異常残暑と軌を一つにして、海でも海面水温が上昇を続け、サンマ漁場の南下が例年よりおくれているというような現象も見られている。

以下に今年の冬(2月)、春(5月)および夏(8月)各季の海況の特徴を略述する。なお用いた資料は当水研の他、関係水研・水試・学校、気象庁・海上保安庁および防衛庁等の観測によるものである。(付図参照)
冬(2月
 黒潮主流は36゜30′N,144゜E付近を東南東に向かっている。
 トドヶ埼東方100海里付近を中心とする暖水塊(100m層中心水温10℃)があり、周辺の表面流速は最大2ノット以上である。
 襟裳岬付近を経て三陸沿岸のトドヶ埼近海に達する親潮第1分枝があり、これより低温水帯が金華山付近を経て茨城県沿岸にまでのびている。
 津軽暖流は海峡を出てから東方に向かい、143°E付近にまで達しているが、これは冬季としては広めである。
春(5月
 黒潮主流は房総半島沖20海里沿いに北東に流れ、犬吠埼東方90海里の36°N,143°E付近を東方に流去している。
 金華山東方200海里及びトド埼沖80海里付近をそれぞれ中心とする暖水塊があり、100m層の中心はそれぞれ16℃及び13℃である。
 襟裳岬付近を経て南に張り出す親潮第1分枝は、その先端が41°N,142°E付近に止まっている。これに反して第2分枝は顕著で、三陸近海を占める暖水域の東側沿いに南に深く張り出し、その先端は39°N,145°E付近に達している。
 津軽暖流域と三陸近海の暖水域との境界が不明瞭なので、今期津軽暖流の東方への張り出し状況は不明である。
夏(8月
 黒潮主流は野島埼東方の35°N,141°E付近を北東に向かい、35°30′N,144°E付近から東南東方面に流去している。
 金華山南東100海里沖および八戸東方120海里沖には引続き暖水塊がある。
 親潮第1分枝の南への張り出しは小規模で、その先端は襟裳岬南東50海里沖付近に止まっているとみられるが、これから南にのびる低温水帯は巾広く、金華山近海にまでおよんでいる。沖合の第2分枝は引続き顕著で、八戸沖暖水塊の東側沿いに南に張り出し、その先端は金華山沖の38°30′N,146°E付近にまで達しているらしい。
 津軽暖流の東方への張り出しは143°10′E付近までゞ例年並であるが、その厚みは350mもあって例年より100m厚い。

(海洋部長)

Ryuuya Kuroda

目次へ戻る

東北水研日本語ホームページへ戻る