昭和48年後半の東北近海の海況

黒田隆哉


 前報で紹介したように、48年前半は3・4月から近海の親潮第1分枝の発達が著しく、8月にもなお襟裳岬から巾広く三陸〜常磐の岸沿いに南にのび、先端は那珂湊沖80海里の36.5°N,142°E付近にまで達していた。これは近年稀な異常分布状態であった。この影響は秋まで残り、常磐沿岸部に冷水域を形成していた。以下10・11月の海況図によって本年後半の海況の推移を紹介する。

10月(100m深水温図
(1) 黒潮主流は房総半島の距岸50海里沿いに北東に向かって流れている。
(2) 8月に39.5°N,144°E付近に見られた暖水塊は9月・10月と次第に北西に移動し、10月現在40.5°N,143.5°E付近に中心がある。その大きさは幾分縮少したが、なお100m層における中心水温は8月以降変らず16℃台を示している。
(3) 釜石沖60海里の39.5°N,143°E付近を中心とする小冷水塊(100m層水温1℃)があり、また那珂湊〜犬吠埼の沿岸には北から冷水(100m層水温8°〜12℃)が張出している。
(4) 三陸近海を南に張出す親潮分枝は、前記の暖水塊の沖側を迂回して南西に張出し、その先端は40.5°N,145°E付近にある。ここからさらに冷水が南西にひろがり、前記釜石沖冷水塊および那珂湊〜犬吠埼沿岸の低温域につらなっている。
(5) 三陸沖の147°〜148°E沿いに南に張出す親潮分枝がみられる。
(6) 津軽暖流の東方への張出しは、尻屋埼沖で142.1°E付近までで例年になく狭い。

11月(100m深水温図
(1) 黒潮主流は犬吠埼東40海里沖を北東に向かって流れ、36°N,142°E付近から東北東に向かっている。
(2) 39°N,145°E付近を中心とする暖水塊(100m層水温15℃)がある。
(3) 夏以来三陸近海にあった暖水塊はさらに西方に移動し、現在その中心は40.5°N,142.7°E付近にある。その中心水温は100m層でなお17℃を示している。
(4) 釜石近海の39.5°N,142°〜144°Eから那珂湊近海の36.5°N,141°〜142°Eにかけて、広範囲に冷水域(100m層水温2°〜6℃)となっている。
(5) 三陸近海を南に張出す親潮分枝は、前記の暖水塊の沖沿いに南東〜南にのびるものが顕著である。
(6) 襟裳岬から三陸沿岸に張出す親潮分枝は、下層では尻屋埼沖の41.5°N,142°E付近で、また表層では黒埼沿岸の40°N,142°E付近で止まっている。
(7) 津軽暖流の東方への張出しは狭く、尻屋埼沖で142°E付近までである。

*昭和48年全年を通じての特徴*
(1)黒潮主流は年初一時的にその北限が37°Nを越えたと見られるが、その後春〜夏〜秋と36°N〜37°Nにあった。
(2)三陸沿岸部に張出す親潮第1分枝は3・4・5月と次第に発達し、過去20数年の同期と比較して、そのひろがりは顕著であった。この張出しはその後三陸〜常磐の近海を広く蔽う冷水域となって、秋にも存続していた。
(3)7月頃発生したとみられる三陸近海の暖水塊は、11月にもその中心水温(100m層16°〜17℃)が変らず存続していた。
(4)カツオ・サバ・サンマ・マグロ等の漁場は、上記の水塊分布のパターンの変化に対応し、その潮境上に形成された。


Ryuya Kuroda

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