スルメイカの漁況と資源について

安井達夫


 今年の道東・道南・三陸沿岸一帯のスルメイカの漁況は、いずこも不漁で、昭和39年以来の兇漁になろうと思われています。
 この海域のスルメイカの漁況には、ただ一回の例外を除けば、明治38年以来たいへん明確な9年周期が続いていて、昭和39年の兇漁から丁度9年目にあたる。今年の漁況が悪いのは、予想されていたことで、9年周期がまだ消滅していない証拠といえますが、漁業者にとっては、不漁の予想が的中しても一向に嬉しくもないわけで、不漁予想がはずれてくれることを願っているのです。ところで、この9年周期が何故に起るのかについては、今のところ明確な証明がありません。東北大の畑中氏の研究に、親潮接岸分枝の水温の高低に同じく9年周期があるというのがあります。しかし、この9年周期とイカの9年周期には大体3年位のずれがあります。とすると、親潮の水温の高低が直接その年のイカ漁況に影響はしないことになります。もし何らかの影響があるとすれば、3年後の漁況にあらわれるということになりますが、スルメイカの寿命は1年と考えられていますので、そのようなことはちょっと考えにくいことになります。
 ところで、私達八戸支所のイカグループの研究結果では、東北海区の夏の水温が高い年はイカの来遊量が多く、低い年は少ない傾向があることがわかっています。とすれば、漁況の9年周期から逆に考えて、東北海区の冷暖に9年の周期があってもよさそうだということになります。宇田道隆先生は、イカの豊漁年は東北海区の温暖な年にあたっているといわれましたが、私達はまだ東北海区の水温の周期についてまだ充分に検討していません。ちょっとみたかぎりでは、それを検討するには、海洋観測データーが、時空間的に、また経年的に不足している感じがします。
 とに角、今年の海況は、親潮接岸分枝が強勢で近海が低温で、そのためにイカの漁況が悪いのだと説明できます。しかし沖合では暖水がかなり北上していて、中南部千島附近にまで達していますので、この方面のイカ漁況が比較的好漁になってもよさそうだとも考えられます(昭和38年の異常冷水の年のように)。しかし、今のところこの方面も漁船が出ていないようです。
 とすると、イカの来遊量の問題ではなくて、絶対量そのものが少ないのではないかということが考えられます。もっともイカ漁況の9年周期はスルメイカの東北海区への来遊量の周期ではなくて、絶対資源量の周期ではないかという疑問も残っているわけですから、水温条件がよくても不漁にな、るということもあり得ます。
 そこで、暖水の広がる沖合のスルメイカの分布状態を調べようと、8月下旬に、北水研・東北水研・釧路水試・函館水試・青森水試・岩手水試の5者共同の沖合分布調査が行われました。まだ全部の結果がまとまっていませんが、今まで入手できた情報では、沖合にもスルメイカはさっぱりいないようで、当所のわかたか丸は、比較的南の定線を受持ったせいもありますが、アカイカばかり釣りました。
 アカイカは、スルメイカより肉が厚く、やや大きくなり、味もやや劣りますが、サキイカにしてスルメにまぜてしまえば区別できなくなると思われます。いま青森県加工研に依頼して、加工して、もらっています。また、マグロ延縄などの餌としても使えるのではないかなどと支所の仲間が話しています。
 スルメイカ資源が今後果して回復に向うかどうか、興味深く見守ってゆくと同時に、このアカイカやツメイカの利用も合わせて考えてゆく必要がありましょう。
Tatsuo Yasui

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