平成10年度北西太平洋サンマ長期漁況海況予報
(漁期後半の見通し)


平成10年10月21日
東北区水産研究所


【漁況予測】
《漁期後半の見通し》
1.資源の来遊状況
 昨年を大幅に下回り,近年(1988年以降)では最も低い水準であった1996年を下回る.銘柄別の来遊資源水準は,大型魚では1996年を上回るが,中型魚・小型魚はともに1996年を下回る.
2.漁場位置
 10月下旬までの漁場は,親潮第1分枝沿いの襟裳岬近海,三陸沖暖水塊西側の三陸沿岸,親潮第2分枝沿い(144〜146E付近)に形成される.11月以降は,襟裳岬近海にも漁場が残存するが,主漁場は常磐沖暖水塊北縁部の三陸〜常磐北部沿岸に形成される.常磐南部近海・鹿島灘近海での漁場形成は散発的であろう.
3.漁獲物の組成
 10月下旬ごろまで大型魚(29cm以上)主体で漁獲される.ただし,漁期の進行にともない,中型魚・小型魚の割合が次第に増加する.

【予測の根拠】
 漁期前半の漁況経過から,本年の来遊資源水準は昨年を大幅に下回ると考えられる.三陸沖に暖水塊が張り出し,北西に移動するとみられるから,親潮第1分枝からの冷水の波及が妨げられ,魚群の南下が遅れると考えられる.したがって,襟裳岬周辺の漁場は11月以降も残存する.一方,常磐沖に暖水塊が存在するために,常磐南部・鹿島灘近海には漁場はできにくいと考えられる.ただし,三陸近海に親潮第1分枝から切り放された冷水域が残存し,そこへ親潮第2分枝からの冷水の波及があれば,三陸〜常磐北部沿岸に漁場が形成されやすいであろう.本年のように漁況が全般的に低調なときには,漁場を求め沖合へ出漁することもあり,親潮第2分枝沿いでも漁場形成がみられるであろう.

《漁期前半の経過》
 1998年のさんま漁業は,7月11日に解禁された10トン未満船による流し網操業から始まった.7月下旬からは北海道知事許可の10トン未満船の棒受網操業も加わった.大臣承認の棒受網漁業では,小型船(10〜20トン)が8月10日,中型船(20〜40トン)が8月15日,大型船(40トン以上)が8月20日から出漁した.

1.漁場位置
 7月〜8月上旬にかけて,漁模様はきわめて低調で,漁場形成も散発的であった.8月中旬から9月中旬にかけ,色丹島近海(水温11〜18℃)に主漁場が形成され,落石沿岸では小型船主体の漁場が形成された.9月下旬には,台風通過後の水温の低下にともなって,道東近海(13〜16℃)に漁場が形成された.また,襟裳岬沖の16〜18℃の海域と,親潮第2分枝沿い(16〜18℃)にも漁場が形成された.10月上旬には,三陸沖暖水塊をとりまくように,襟裳岬〜釧路沖の親潮第1分枝沿い・落石南東沖・親潮第2分枝沿いに漁場形成がみられた(水温13〜18℃).10月10日以降には,三陸沿岸域(17〜19℃)にも漁場が形成され,襟裳岬沖(14〜18℃)との2カ所が主漁場となり,親潮第2分枝沿いでの操業はわずかとなった.
2.漁獲量
 初漁から8月10日までの累積漁獲量はわずか680トン(前年比19%)ときわめて低調であった.その後8月中旬まででは約6,000トン(同40%),8月下旬までで約14,900トン(同34%)と,前年を大きく下回り,過去10年間でもっとも低調であった1996年をも下回った.9月に入り漁況は若干好転し,上旬では約35,000トン(同43%),中旬までで約48,000トン(同44%),下旬までで約70,000トン(同50%)となった.10月上旬までの累積漁獲量は約86,000トンで前年比52%であり,対1996年比でも63%にすぎない.
 漁船1隻あたりの水揚げは,8月半ばまでは1〜10トン程度,大型船の操業が始まった8月下旬からは,大型船で数トン〜20数トン,小型船で数トン〜10数トン程度となった.希に大型船で70トンの水揚げもみられたが,時化などの影響もあり,長続きすることはなかった.棒受網1網あたりのCPUEでみると,8月下旬までは平均1〜1.4トン程度,漁況が若干好転した9月以降は2トン前後であった.
3.水揚げ物の銘柄(体長)組成
 本年漁期前半の特徴は,おしなべて大型魚・特大魚(体長29・以上)の占める割合が高いことである.旬別・海域別でみると,大型魚・特大魚の割合が5割を切ったのは8月中旬と,9月下旬の襟裳岬〜色丹島沖海域のみで,そのほかの時期・海域では大型魚・特大魚はほぼ6割を越えていた.とくに,9月下旬〜10月上旬の親潮第2分枝沿い・10月上旬の色丹島沖に形成された漁場ではジャミ・小型魚(体長23・以下)はみられず,親潮第2分枝沿いでは大型魚・特大魚が9割以上という場合すらみられた.ただし,市場における銘柄は体重で区分されるので,必ずしも体長から判断される銘柄組成とは一致していない.
4.来遊資源の動向
 大臣承認船出漁後の漁場への来遊資源動向を,資源量指数(資源の密度と広がりを示す指数)と密度指数(魚群の集中の度合いを示す指数)の面から検討すると,8月中〜下旬の間には資源の加入は少なかったが,9月上旬以降に新たに資源の加入があり,資源水準はそれまでの2〜3倍になったことがうかがえる.9月中旬以降も資源量指数の上昇は続いているが,これは必ずしも漁場への資源の加入を示すものではなく,漁船が新たに沖合漁場(親潮第2分枝沿い)へ出漁して,漁場面積が広がったことを反映したものと考えられる.したがって,資源の来遊状況は,資源量指数の上昇ほど好転していないものと判断される.

《各機関による調査状況》
 今年度も昨年と同様に,漁業情報サービスセンターおよび各水試・水研による主要水揚げ港における漁況聞き取り調査と,各水試・水研による調査船調査,および福島県水産試験場・千葉県水産試験場による標本船の操業データ収集が行われている.

1.水揚げ港における聞き取り調査
 花咲港(漁業情報サービスセンター)・釧路港(漁業情報サービスセンター・釧路水産試験場)・網走港(網走水産試験場)・釜石港(岩手県水産技術センター)・気仙沼港(漁業情報サービスセンター・東北区水産研究所)・女川港(東北区水産研究所)・石巻港(漁業情報サービスセンター・宮城県水産研究開発センター)・小名浜港(福島県水産試験場)・銚子港(千葉県水産試験場)において全漁期を通じて実施されている.また,水揚げ港では漁獲物の体長測定も行われ,銘柄組成が明らかになった.
2.調査船調査
 8月中旬から12月上旬にかけ,南下期調査およびさんま漁場分布調査の一貫として,北辰丸(釧路水産試験場)・北光丸(北海道区水産研究所)・岩手丸(岩手県水産技術センター)・翔洋(宮古水産高校)・新宮城丸(宮城県)・いわき丸(福島県水産試験場)・水戸丸(茨城県水産試験場)・千葉丸および房総丸(千葉県水産試験場)・わかちば(安房水産高校)によって,さんまの試験操業が行われている.本漁期中の調査では魚群を見ないことが多く,有漁地点でも1晩で多くても10数トンにとどまり,多くは数トン以下であった.魚体は大型魚主体であることが多かった.

【付記】
 この予報は,下記の水産試験場・水産研究所などとのfresco1・FAX・電話・郵便などによる資料情報の交換および協議にもとづいて作成された.

予報作成に参画した機関:
北海道立釧路水産試験場,北海道立網走水産試験場,岩手県水産技術センター,岩手県立宮古水産高等学校,宮城県水産林業部,宮城県水産研究開発センター,福島県水産試験場,茨城県水産試験場,千葉県水産試験場,千葉県立安房水産高等学校,静岡県水産試験場,(社)漁業情報サービスセンター,全国さんま漁業協会,北海道区水産研究所,東北区水産研究所混合域海洋環境部,水産庁漁場資源課,水産庁沿岸沖合課