平成9年度北西太平洋サンマ長期漁況海況予報


水産庁 東 北 区 水 産 研 究 所 平成9年8月12日



 【参加機関】

     北海道立釧路水産試験場
   北海道立網走水産試験場     
   岩手県水産技術センター
     宮城県水産林業部
     宮城県水産研究開発センター
     福島県水産試験場
     茨城県水産試験場
    千葉県水産試験場
     静岡県水産試験場
     神奈川県水産総合研究所
     三重県水産技術センター
     全国さんま漁業協会
     (社)漁業情報サービスセンター
     水産庁仙台漁業調整事務所
     水産庁研究部資源課
    水産庁振興部沖合課                  
     農林水産省東北農政局統計情報部
     海上保安庁第二管区海上保安本部
   水産庁北海道区水産研究所
     水産庁中央水産研究所


《海況の経過(1997年1〜7月)》

(参考)近海=146゚E以西、沖合=146゚E以東、黒潮流軸=200m14℃、     黒潮系暖水=100m10℃以上、親潮及び親潮系冷水=100m5℃以下. 黒潮域 ・房総沖での黒潮離接・・・・1〜4月離岸,5月平年並,6・7月はやや接                 岸. ・近海の黒潮の北限・・・・1〜4月は南偏,5〜7月は平年並.            ※1月は過去43年間の中で最大の南偏. ・沖合の黒潮の北限・・・・・5・6月に35゚N〜35゚40'N 混合域 ・黒潮系暖水   (1)近海の北限・・・・概ね平年並(1月強勢,6月やや弱勢).   (2)沖合の北限・・・・概ね平年並(4〜5月はやや弱勢). ・暖水塊   (1)釧路南沖の暖水塊・・・・1〜4月西進,5月東進,6・7月停滞.   (2)黒潮続流と結合した暖水塊・・・・1〜2月に常磐近海,5月に黒潮続流と       結合.   (3)常磐沖合にあった暖水塊・・・・4月以降近海まで西進. ・その他   (1)暖水域・・・・1・4・6・7月に房総〜三陸沖にあった.   (2)冷水域・・・・2・6・7月に常磐〜三陸沖にあった. 親潮域 ・親潮第1分枝   (1)先端緯度・・・・1〜3月に南下,4月に北退し以後停滞.平年並〜        北寄り.   (2)連なる冷水・・・・2・3・5・7月に三陸〜常磐沖にあった. ・親潮第2分枝   (1)先端緯度・・・・4〜5月に南下,6月に一度北退して7月に南下.          釧路南沖暖水塊の東側を変動.   (2)連なる冷水・・・・2〜7月に三陸沖にあった. ・冷水の南端緯度   (1)第1分枝出現水域・・・・1〜2月北寄り,3〜6月ほぼ平年並, 7月南寄り.   (2)第2分枝出現水域・・・・1〜2・7月平年並,3〜4月北寄り, 5〜6月南寄り. 津軽暖流域 ・下北半島東方での張り出し・・・・概ね平年並(5月やや弱勢,7月やや強勢). ・100m深最高水温・・・・3月は7℃台と低かった.

《現況(1997年7月後半〜8月上旬)》

黒潮域 ・房総沖での黒潮離接・・・・やや接岸〜接岸. ・近海の黒潮の北限・・・・平年並 混合域 ・黒潮系暖水   (1)近海の北限・・・・平年並   (2)沖合の北限・・・・平年並 ・暖水塊   (1)釧路南沖の暖水塊・・・・勢力は強く停滞傾向.   (2)常磐近海の暖水塊・・・・位置は7月からほぼ変化なし. ・その他   (1)暖水域・・・・三陸沖に2カ所.   (2)冷水域・・・・三陸沖・常磐沖に各1カ所. 親潮域 ・親潮第1分枝の先端緯度・・・・平年より北寄り(やや弱勢). ・親潮第2分枝の先端緯度・・・・平年より南寄り. 津軽暖流域 ・下北半島東方での張り出し・・・・平年並.

《今後の見通し(1997年9〜11月)》

(1) 近海の黒潮の北限は35゚N〜36゚Nで推移する. (2) 黒潮系暖水は,平年並に推移する.   近海(146゚E以西)では,11月までに41゚N付近まで張り出 す.   沖合では148゚E〜150゚Eで40゚N付近まで張り出す. (3) 釧路南沖の暖水塊は持続する.   常磐近海の暖水塊は,西進した後に秋以降は北上する. (4) 親潮第1分枝は三陸北部〜襟裳岬近海(40゚N以北)にとどま る.   親潮第2分枝の張り出しは38゚N付近までである.   冷水域が三陸近海に残る. (5) 津軽暖流の流勢は平年並〜やや強勢で推移し,下北半島東方 へは143゚E付近まで張り出す.

《海況の見通しの背景》

 現在までの本年の海況の経過に加えて、以下の知見・情報を参考にした。 東北海区の水温場  (1)長期傾向(0m)・・・・1995年以降,平年並〜やや低温  (2)本年の経過(0m)・・・・平年並〜やや低温  (3)本年の冷・暖水の勢力(100m)・・・・平年並〜やや低温  (4)水温場と海況との関係・・・・東北海域100m深水温が正(負)偏差   時に黒潮及び親潮第1分枝は北(南)偏する    (1)〜(3)→本年の東北海区は,平年並〜やや低温の時期.    (4)  →黒潮,黒潮系暖水の北上,親潮の南下は平年並〜やや南寄りの         見込み. 近海の黒潮北限位置  (1)長期傾向・・・・1992年以降は南偏傾向  (2)本年の経過・・・・1〜4月は南偏,5月〜現況は平年並(ただし平年          値以南).  (3)過去の事例・・・・南偏期の黒潮は一時的に北上した後,緯度で1度程          度南下→ 南偏傾向が持続し,概ね36゚〜35゚Nに位置する. 暖水塊の動向  (1)釧路南沖の暖水塊の経過・・・・1993年2月から存続.規模大.  (2)道東沖の暖水塊の移動傾向・・・・北東方向に移動するが,平均移動速度   は小さい.  (3)常磐近海の暖水塊の経過・・・・沖合から4月以降に近海まで西進.  (4)沖合の暖水塊の移動傾向・・・・西進して143〜145゚Eの近海域に達する.  (5)東北近海域の暖水塊の移動傾向・・夏以降に北上し秋以降は北上傾向が強   まる.  (6)黒潮続流近傍の暖水塊の事例・・・・黒潮に取り込まれることがある.    (1)(2)→ 釧路南沖の暖水塊は今後も持続.    (3)〜(5)→ 常磐近海の暖水塊は,秋以降に北上(金華山付近).   (6)→ 今後の動向に注意する必要あり. 黒潮系暖水の勢力 ・近海  (1)本年の経過・・・・概ね平年並(1月強勢,6月やや弱勢).  (2)近海の暖水塊の動向・・・・常磐近海暖水塊及び釧路南沖の暖水塊の持続.  (3)季節変動傾向・・・・夏〜秋に徐々に張り出しを強める.    (2)→ 暖水の断続的な北上がある見込み.    (1)〜(3)→ 平年並に推移しながら,11月に41゚N付近に北上. ・沖合  (1)本年の経過・・・・・・・・ほぼ平年並,4〜6月は平年値よりは南寄り.  (2)季節変動傾向・・・・・・夏〜秋に徐々に張り出しを強める.    → 今後もほぼ平年並〜やや弱勢で推移し,11月には40゚N付近まで張      り出す. 親潮の勢力 ・親潮水面積・・・・ほぼ平年並.5月以降やや強勢. ・親潮第1分枝  (1)本年の経過・・・・平年並(3月)〜北寄りで推移.  (2)季節変動傾向・・・・夏から秋にかけて北退する.  (3)大気との関係・・・・夏秋季に親潮の勢力が一時的に強まる可能性あり.    → 親潮第1分枝は三陸北部〜襟裳岬近海に分布する ・親潮第2分枝  (1)最近の経過・・・・現況では南下がやや強まっている.  (2)過去の事例・・・・暖水塊の東側を張り出す.  (3)連なる冷水・・・・4月以降,第2分枝からの冷水の南下が強い.  (4)季節変動傾向・・・・秋に北に退く.    → 最も南下しても38゚N付近までで三陸近海に冷水を残しながら後退      する. ・津軽暖流  (1)最近の下北半島東方での張り出し・・・・ほぼ平年並(現況も平年並).  (2)対馬暖流流勢の経過・・・・4月やや弱勢,5月〜8月は平年並〜やや              強勢.  (3)対馬暖流と津軽暖流の関係・・・・位相差2〜3か月程度.    → 今後津軽暖流の勢力は,平年並〜やや強勢で推移.    → 10月までに下北半島東方へ143゚E付近まで張り出す. 気象庁関係の予報  (1)気象庁海面水温予想(7〜9月)・・・・本州東方と日本海でやや低い.  (2)気象庁の3か月予報・・・・・・・・東北地方8〜10月の平均気温は平年並.

[漁況]

《魚群分布》

1. 季節別加入量水準(体長50mm稚魚の資源量水準) 1)秋季発生群  各県水試・センター,東北水研が1996年9〜12月に行った, 36°00′〜40°00’N,140°05’〜154°00’Eの海域における 仔稚魚調査から,今漁期に大型魚(体長29〜32cm)として漁獲 される秋季発生群の成長ならびに加入量水準を推定した。 1991〜1995年秋季調査の解析結果と比較すると,仔稚魚の成長 は遅い方であり,ふ化仔魚の発生水準は中位であったが,仔稚 魚期の1日当り死亡率は高かった。この結果,1996年秋季発生 群の加入量水準は1995年より低く,1994年と同程度であると推 定された。 2)冬季発生群  各県水試・センター,南西水研,東北水研が1997年1〜3月 に行った,28°40′〜37°00′N,129°25′〜142°50′Eの海 域における仔稚魚調査の結果,今漁期に中型魚(24〜29cm)と して漁獲される黒潮域の冬季発生群は,1991〜1996年冬季と比 較して,成長は速い方であり,ふ化仔魚の発生水準も高位で あったが,仔稚魚期の1日当り死亡率は高かった。この結果, 1997年冬季発生群の加入量水準は1996年より低く,1995年と 同程度であると推定された。 3) 春季発生群  各県水試・センター,東北水研が1997年4〜6月に行った, 33°00′〜40°00’N,138°15’〜168°02′Eの海域における 仔稚魚調査の結果,今漁期に小型魚(20〜24cm)として漁獲さ れる春季発生群は,1991〜1996年春季と比較して,成長は速い 方であり,ふ化仔魚の発生水準は中位であったが,仔稚魚期の 1日当り死亡率はわずかに高かった。この結果,1997年春季発 生群の加入量水準は1995・1996年より低いと推定された。 2. 北上期の魚群分布(4〜6月)  東北水研,北水研,遠洋水研,福島水試(いわき丸)による 常磐・三陸沿岸〜東方における流し刺網調査では,144°E以西 における採集は極端に少なかったが,調査海域全体の刺網1反 当たり採集尾数は,1996年の約1.5倍に増加した。また体長組 成は1992〜1995年と同様の28〜30cm台と14〜17cm台モードの 双峰型となり,1996年に比べ,27〜30cm台の割合が大きく増加 した。  定置網の漁況は,静岡県では1996年12〜1997年1月の水揚量が 22トン強と過去12年間で最高であった。千葉県では1997年4〜6月 の水揚量が前年同期の約13%と減少した。魚体は未成魚が主体で あった。福島県では入網が確認されなかった。宮城県では,例年 より早く5月中旬から大型魚の入網がみられ,7月までの水揚量 は6トン弱と,1996年同期の約4.5倍,1995年同期の約0.15倍で あった。岩手県では6月中旬から大型魚が入網し,7月下旬までの 累計は約30トンを超えたが,水揚量は前年の約80%であった。 3. 索餌期の魚群分布(7,8月)  東北水研,北水研,福島水試(いわき丸),宮城県(新宮城 丸),宮城水セ(拓洋丸),岩手水技セ(岩手丸),釧路水試 (北辰丸)による三陸・道東沖合〜東方における魚群目視・流 し刺網調査では,刺網1反当たりの採集尾数は1996年の約2倍に 増加したが,魚群分布は海域によって大きく偏り,144°E付近 の綾里沖合(小型魚主体),155°E以東の道東東方(大型魚主 体)では,大量採集があり,分布密度が高いことが推測された。 また千葉水試(房総丸),茨城水試(水戸丸)による道東・エ トロフ島沿岸〜沖合における魚群目視・棒受網調査では,調査 海域内においてまとまった魚群をほとんど発見できず,試験 操業は,10トン未満船の漁場付近でしか行えなかった(中型魚 主体)。このことから,1997年索餌期は,155°E以西のロシア 200カイリ経済水域内における分布密度が極めて低いことが推 測された。  10トン未満船(知事許可船)による漁獲は,7月上旬に厚岸 南東90〜100カイリ付近の水温13〜14℃の水域で始まった。8月 に入り,漁場は厚岸〜釧路沖20〜40カイリ付近で操業が行われ ており,漁獲物は大型魚の割合が5〜30%で,日間・船間差が 大きく,漁獲物は中型魚が主体となっている。また,8月上旬 現在,ロシア200カイリ 経済水域内における漁場は形成され ていない。

《漁況予報》

1 漁場への来遊状況  漁期前半(10月上旬)までの漁場への来遊資源水準は,1996 年同期よりやや高めとなるが,1988〜1994年の水準には及ばず, 1995年並みかやや低めとなる。銘柄別の来遊資源水準は,大型 魚は1996年よりやや高め,中型魚・小型魚は1996年よりやや低 めとなる。 2 魚体組成  漁期当初は,中型魚を主体に特大・大型魚混じりで漁獲され る。9月に入ると,7・8月において道東東方に分布していた大 型魚が道東海域に来遊するものと考えられるため,漁期の進行 に伴い,大型魚の割合が増加する。 3 漁場位置  索餌期の魚群分布,ならびに10トン未満船の動向からみて, 初期漁場は落石沖合から釧路南沖暖水塊の北側にかけて形成さ れ,中型魚主体に漁獲される.  9月に入ると,漁場は沖合にも拡大し,釧路南沖暖水塊の 北〜北東にかけての海域が中心となる。8月における沖合の親 潮前線の位置が平年並みであることから,その後主漁場は,次 第に親潮第1分枝先端部へと移行する。 三陸沿岸に冷水が残る ことから,漁期の進行に伴って,漁場は襟裳岬南沖から三陸沿 岸へと推移する。また,釧路南沖暖水塊の東側においても大型 魚が南下するため,親潮第2分枝沿いにも漁場が形成される.