1999(平成11)年10〜12月におけるマサバ漁況の見通し
(1999年10月7日発表)

1.漁況の見通し

(1)来遊量

 本漁期のマサバ資源の主体は3*歳魚(1996(平成8)年級)および3*歳魚(1997(平成9)年級)であり、3*歳魚は前年を上回るが、2*歳魚は前年を下回る。1*歳魚(1998(平成10)年級)は少ない。当歳魚(1999(平成11)年級)は前年を上回る。全体として、来遊量は前年を下回る。

(2)漁期・漁場

 8月以降、三陸海域において変動的な漁模様ながら漁場が形成されている。

 三陸海域では、11月まで滞泳群の集群および沖合からの小型魚の来遊によって断続的に漁場が形成される。11月後半以降、魚群の南下により常磐以南海域で散発的に漁場が形成される。

(3)魚体

 主体は、尾叉長30〜38cm、34cmモードの3*歳魚・2*歳魚であり、これに20〜29cmの当歳魚・1*歳魚が混じる。漁期後半には、20〜25cmの当歳魚の割合が高くなる。当歳魚・1*歳魚にはゴマサバが混じる。

2.説明

○7月以降の漁況経過

・まき網漁業

 7月27日以降、三陸北部海域八戸鮫角北北東にまき網漁場が形成され、155トンほど漁獲された。しかしながら、漁場は持続せずにスルメイカやマイワシ混じりになり、8月にはいって散発的に漁獲されるだけになった。その後、8月18日から、同海域で419〜723トン/日と比較的まとまった漁獲がみられるようになり、8月23日〜9月1日には、八戸港へ1372〜2300トン/日の水揚げが断続的にみられた。また、8月18〜19日には常磐海域でも漁場形成があり、石巻港へ122トンの水揚げがあった。9月にはいってからは、三陸北部海域では薄漁となり、9月10日に1472トンの水揚げがあったほかは、漁獲量は36〜796トン/日に減少した。その後、シケなどの休漁をはさみ、9月29日以降、岩手県北部沿岸および綾里埼沖、金華山沖で漁場が形成されている。東北海域における7〜9月の漁獲量は、16533トンであった(表a表b)。

 漁獲物の主体は、尾叉長30〜38cmで33-34cmにモードがあり、体重は500g前後、鱗紋による年齢査定の結果、3*歳魚(1996年級)および23*歳魚(1997年級)主体に、4*歳魚(1995年級)が混じっていた(図1a図1b(参考))。また、24〜29cmの当歳魚(1999年級)・1*歳魚(1998年級)の漁獲もみられた。

 漁業情報サービスセンターがマサバまき網操業結果から資源量指数、密度指数を計算したところ、1999年1〜9月の来遊資源量指数および密度指数は1997年、98年のそれを下回り、1994〜96年並かこれをやや下回る数値で経過している。このことから1999年10〜12月における密度指数は、大量の当歳魚が10月以降資源に加入してきた1996年は除き、1994年、95年の10〜12月並の水準と考えられる。

・その他の漁業

 6月以降、宮城、岩手県の定置網には、尾叉長30〜40cm程度のマサバ主体の入網がみられており、7〜9月(〜9/25)の漁獲量は、宮城県2825トン、岩手県6313トンであった。サバ類当歳魚(尾叉長20〜25cm)も混じっているが、マサバよりゴマサバの方が多い。尾叉長25〜30cmの1*歳魚は少ない。ゴマサバ1*歳魚も混じっている。

 道南の木直定置網には、サバ類当歳魚の入網がみられており、9月17日の漁獲物では、マサバ(尾叉長13〜24cm、モード17cm)が9割、ゴマサバ(尾叉長21〜24cm、モード23cm)が1割であった。

 道東海域周辺のサンマ棒受網漁業では、サバ類当歳魚(尾叉長19〜24cm)の混獲がみられているが、マサバよりゴマサバの方が多い。

○調査船調査による情報

 ・釧路水試による7〜9月の道東海域周辺における流し網漁獲試験および釣獲試験調査の結果、7月はゴマサバ当歳魚がわずかに漁獲されただけであったが、8〜9月は、尾叉長23cm前後のサバ類当歳魚が多く漁獲され、マサバ、ゴマサバともCPUE(流し網試験操業1回当たり漁獲尾数)が前年を上回り、1994年以降の同調査では1996年に次ぐ高さであった。また、漁獲物は、ゴマサバの方が多かった。

 ・北鳳丸・東北水研の9〜10月の道東〜三陸海域および仙台湾沖における流し網漁獲試験調査の結果、サバ類は道東〜襟裳岬沿岸域および三陸北部、中部沿岸、仙台湾沖で漁獲された(図2(参考))。漁獲物の多くは尾叉長18〜25cmの当歳魚であり、マサバよりゴマサバの方が多かった(図3)。また、三陸中部沿岸の試験点では、ゴマサバ1*歳魚だけがまとまって漁獲された。このようなことは過去の同調査では例がなく、高水温傾向の影響が考えられる。前年の同調査では、まき網漁業の主漁獲対象となっていた2*歳魚が多く漁獲されたが、本年は、主漁獲対象となっている3*歳魚・2*歳魚は漁獲されなかったので、これらが沖合にあまり分布していないと考えられる。

 当歳魚(1999年級)は、有漁獲点での平均CPUE(単位反数・浸漬時間あたりの漁獲尾数)は低くないものの、漁獲が道東〜襟裳沿岸の親潮系水の表面水温の低い海域および三陸北部沿岸域に限られ、過去10ヵ年では豊度の高かった1992年級や1996年級が、沿岸から沖合域、親潮系水域から暖水域の縁辺と広範囲に分布していたのと異なっている(図4-1図4-2図4-3)。

 また、1987〜98年の同調査結果を解析したところ、南下期のサバまき網漁獲尾数と有意な関係があることがわかった。そこで、これをもとに本年の調査結果から9〜12月のサバまき網漁獲尾数を推定したところ11000万尾と推定された(図5)。なお、まき網によって9月で推定約1630万尾が漁獲されている。

(1)来遊量

 現在、まき網や定置網漁業の主漁獲対象となっている3*歳魚(1996年級)は、近年ではもっとも豊度の高い年級であるが、マサバ資源の主要年級群として漁獲され続け、残存資源量は少ない。2*歳魚(1997年級)は、漁獲状況や調査船調査結果から豊度が低いと推定されている。これらは、漁場外の沖合での分布がみられず、今後の漁場域への来遊資源は期待できない。これに続く1*歳魚(1998年級)は、豊度がさらに低いと推定されており、来遊量は少ない。

 当歳魚(1999年級)は、北上期の中層トロール調査や、前述の各地の漁獲情報や索餌〜南下期の調査船調査結果からみて、過去10ヵ年では比較的高い豊度ではあるものの、1996年級やそれに次ぐ1992年級には及ばない程度と考えられる。漁期後半には、漁場域への来遊量が増加するが、個体重量が小さいため、量的には多くならない。

(2)漁期・漁場

 資源水準からみた場合、本漁期の資源量水準は1994、95年並の水準と考えられており、基本的な漁場形成も1994、95年と同様になることが考えられ、年別まき網漁場図からのイメージによると、三陸北部海域での漁場形成は11月までである。過去のマサバのまき網漁場形成水温は、10月18.4±2.08℃、11月16.3±2.18℃、12月15.4±2.08℃である。資源量低水準で、特に高齢魚の割合が低いと思われるので、低い水温側の幅広い水温帯での漁場形成は考えにくい。また、1994、95年の密度指数から推すると、本漁期の1網平均漁獲量は15〜30トン程度が基本的な数値になると考えられる。

 海況からみた場合、道東から三陸近海の水温は緩やかに降温しているものの、過去19ヵ年平均水温と比較して高い状態が続いており、道東近海の暖水の張り出しも依然強く残っている。親潮第1分枝の勢力は弱い。常磐近海の黒潮系暖水が広範囲に分布しており、沿岸域には暖水波及がみられている。一方、親潮第2分枝の勢力は平年並みであるが、それに連なる冷水の波及が三陸近海にみられる。今後もこれらの傾向が続くものと予想されている。

 このため、魚群の南下は遅れ、三陸海域での滞泳群を対象とした小規模な漁場形成が続き、常磐以南海域での漁場形成は11月後半から12月になる。

(3)魚体

 現在、主に漁獲されている尾叉長30〜38cm、33-34cmモードの3*歳魚・2*歳魚が今後も主体で漁獲される(図1)。25〜29cmの1*歳魚は少ない。漁期後半には、20〜25cmの当歳魚の漁場域への来遊量が増えるので、その割合が高くなる。ゴマサバは、調査船調査や定置網で当歳魚が多く漁獲され、1*歳魚の漁獲もみられていることから、まき網漁場域でも、当歳魚にはかなりの割合で混じり、1*歳魚にも混じる。

3.付記

 この予報は、下記の水産試験場、水産研究所などとのFAX、電話、郵便による資料の交換および協議にもとづいて作成された。

予報作成に参加した機関:
北海道立釧路水産試験場、
北海道立函館水産試験場、
青森県水産試験場、
岩手県水産技術センター、
宮城県水産研究開発センター、
福島県水産試験場、
茨城県水産試験場、
千葉県水産試験場、
中央水産研究所生物生態部、同黒潮研究部、
北海道区水産研究所亜寒帯漁業資源部、
東北区水産研究所混合域海洋環境部
水産庁漁場資源課
漁業情報サービスセンター


添付図表

表.1999年7〜9月のまき網による県別サバ水揚量(t)

表.サバ類の東北海区におけるまき網による漁獲量(トン)

図1.東北海域におけるサバ類のまき網による尾叉長階級別漁獲尾数

図2.東北海区浮魚類分布調査の流し網漁獲試験によるサバの漁獲尾数

図3.東北海区浮魚類分布調査の流し網漁獲試験で漁獲されたサバ類の尾叉長組成

図4.道東〜東北海域における秋季の流し網漁獲試験によるマサバ当歳魚の単位反数当たり漁獲尾数

図5.東北海区における9〜12月のまき網によるサバ類の漁獲尾数(観測値と理論値)


*の原文はローマ数字