2000(平成12)年10〜12月におけるマサバ漁況の見通し
対象海域:三陸〜常磐〜房総海域
対象漁業:まき網漁業
1.漁況の見通し
(1)来遊量
 本漁期のマサバ資源は、当歳魚(2000(平成12)年級)、I*歳魚(1999(平成11)年級)が主体であり、II*歳魚(1998(平成10)年級)以上が混じる。当歳魚は前年を上回る。I*歳魚は来遊量の少なかった前年を上回る。II*歳魚以上は前年を下回る。ゴマサバは前年を上回る。さば類全体では、前年をやや上回る。
(2)漁期・漁場
 三陸北部海域では、まとまった漁場形成はない。10月までは、三陸中南部海域が主漁場であり、滞泳群の集群および沖合からの小型魚の来遊によって断続的に漁場が形成される。常磐以南海域でも漁獲はみられる。11月以降は、魚群の南下により、常磐以南海域が主漁場になる。
(3)魚体
 尾叉長22-23cm前後の当歳魚と尾叉長30cm前後のI*歳魚が主体であり、 ゴマサバが高い割合で混じる。 漁期後半は当歳魚の割合が高くなる。
2.説明
7月以降の漁況経過
まき網漁業
 7月中旬まで、鹿島〜犬吠海域で散発的に漁獲があり、約4千トン漁獲された(表1)。マイワシやマアジに混獲されることも多かった。漁獲物は、尾叉長(以下同様)27-28cm前後のI*歳魚主体で、30cm以上(II*歳魚以上)が混じっていた(図1)。ゴマサバの混じりは多く、その割合は群によりまちまちであった。
 8月にはいって、三陸北部海域の八戸沖で漁場が形成された、8月8日から23日まで4〜42トン/日、計115トンが漁獲された。スルメイカに混獲されるものが多かった。また、この時期、釜石沖、鹿島〜犬吠周辺でもわずかに漁獲があった。八戸沖の漁獲物は、37-38cm前後の大型魚主体であったが、21-22cm前後の当歳魚も漁獲された。この大型魚は、鱗紋による年齢査定の結果、W歳魚(1996年級)主体であった。
 8月24日からは、三陸中南部海域の大槌沖、綾里埼沖、および金華山沖でも漁場が形成され、八戸沖から鹿島灘の広い海域で散発的に一網平均20〜35トン程度の漁獲があった。8月29日以降9月始めまでは、八戸沖と金華山沖で漁場が形成され、一網平均10〜35トン程度の漁獲があった。漁獲物は、30cm前後主体の27cm〜40cmと22-23cm前後の2つのモードが見られ、前者はI*歳魚以上、後者は当歳魚主体であった。後者にはゴマサバが混じっていた。 当歳魚の割合は、漁獲群によって違いがみられた。
 9月中旬には、八戸沖漁場は消滅し、金華山周辺海域が主漁場になった。一網平均40〜65トン程度の漁獲があった。9月下旬以降は、綾里埼沖、金華山周辺海域で漁場が形成され、一網平均10〜25トン程度の漁獲があった。漁獲物は、27〜40cmで32-33cm前後主体のI*歳魚以上に22-23cm前後の当歳魚が混じって漁獲された。ゴマサバが混獲され、その割合は漁獲群によって異なり、ゴマサバの方が高いものもあった。混獲されたゴマサバは23〜36cmであった。
 東北海域における7〜9月の漁獲量は、15319トンであった(表2)。
 漁業情報サービスセンターがサバまき網操業結果から資源量指数、密度指数を計算したところ、2000年1〜9月の来遊資源量指数および密度指数は1997年、98年のそれを下回り、1999年並かやや上回る数値で経過している。このことから2000年10〜12月における来遊資源は、大量の当歳魚が資源に加入してこない限り、1999年を大きく上回らない水準と考えられる。
その他の漁業
 岩手、宮城県の定置網にはさば類の入網がみられ、7〜9月の漁獲量はそれぞれ、3100トン、2543トンであった。これらは、前年同期実績(7142トン、2758トン)を下回っている。漁獲物は、岩手県では7月中旬までは30〜40cmのI*歳魚以上が主体であったが、7月下旬以降23-25cm前後の当歳魚が主体になっている。宮城県では7〜8月は17〜23cmのゴマサバ、マサバ当歳魚と36〜41cmのマサバ大型魚(推定W歳魚)が主体、9月は20cm前後のマサバ当歳魚と30cm前後のマサバが主体でI*歳魚の割合が高くなった。
 道東海域周辺のサンマ棒受網漁業では、さば類当歳魚(19〜26cm)の混獲がみられている。釧路水試、北水研の情報では、船によって混獲割合が大きく異なっている。また、マサバよりゴマサバの方が多い。漁船によっては前年より混獲は少ないとの情報もある。
調査船調査による情報
釧路水試が8月28日〜9月8日に道東〜下北半島沖で行った8回の流し網漁獲試験の結果、マサバ、ゴマサバの当歳魚が漁獲され、マサバ当歳魚のCPUE(試験1回当たり漁獲尾数)は19尾/回で前年(5尾)を上回り、1994年以降の同調査では1996年(20尾/回)並であった。また、ゴマサバ当歳魚のCPUEは4尾/回であり、前年(6尾/回)や1996年(208尾/回)を下回った。
北鳳丸(東北水研)の9〜10月の道東〜三陸海域および仙台湾沖における流し網漁獲試験の結果、サバ類は道東〜襟裳岬沿岸域および三陸北部、中部沿岸、仙台湾沖で漁獲された(図2)。漁獲物の多くは24cm前後の当歳魚であったが、襟裳岬沿岸、三陸沿岸では30cm前後のI*歳魚が見られ、仙台湾沖でも、27〜34cmのI*歳魚以上の割合が高かった(図3)。マサバとゴマサバの割合は、道東海域ではゴマサバが高かったが、三陸沿岸では、ほとんどがマサバであった。また、道東海域での漁獲尾数は1999年の結果と比較して少なかったので、今後の三陸北部海域への来遊群は期待できない。
 当歳魚(2000年級)は、有漁獲点での平均CPUE(単位反数・浸漬時間あたりの漁獲尾数)は比較的高いが、漁獲が襟裳岬沿岸、三陸沿岸、仙台湾沖など沿岸域に限られ、過去10ヵ年では豊度の高かった1992年級や1996年級が沿岸から沖合域、親潮系水域から暖水域の縁辺と広範囲で漁獲されたのと異なっている(図4)。また、あわせて行った釣獲試験では、1996年級は広範囲で漁獲があったのに対して、2000年級では漁獲されなかった。本調査結果からは、2000年級の豊度は高くないと評価される。
 本調査のさば類当歳魚・I*歳魚以上それぞれの有漁獲点割合および平均漁獲尾数と南下期のさば類まき網漁獲尾数の間に有意な関係があることがわかっている。そこで、この関係をもとに本年の調査結果から9〜12月のさば類まき網漁獲尾数を計算したところ3.4億尾と推定された(図5)。しかしながら、現在までの漁況の推移などからみて、予測値は過大推定になっていると思われる。なお、まき網によって9月で推定約2500万尾が漁獲された。
(1)来遊量
 現在、まき網や定置網漁業の主漁獲対象となっているI*歳魚は、近年では比較的豊度が高いものの、大量の漁獲を支えるだけの資源量はない。II*歳魚以上は、残存資源量が多くなく、産卵親魚群の主体であるため、魚群の多くは漁場から産卵海域へ南下していく傾向にある。漁場外の沖合での分布はみられず、今後の漁場域への新たな来遊資源は期待できない。
 マサバ当歳魚(2000年級)は、中央水研による5〜6月の北上期幼稚魚中層トロール調査結果から、豊度は予測困難であるが卓越年級である可能性が高い、とされていた。8月下旬以降、まき網漁獲物にも高い割合で混獲されており、7〜9月の推定漁獲尾数(ゴマサバ含む)は1200万尾に達し、1996年級の1900万尾を下回るが、1992年級の330万尾を上回っている。また、南下期の流し網漁獲試験調査結果からは、1992年級、1996年級と比較して豊度は高くない。これらから、2000年級の豊度は、過去10ヵ年では高い豊度ではあるものの、1996年級より低いと考えられる。1992年級との比較は、現段階では困難である。また、ゴマサバ当歳魚についても、漁船による混獲状況や調査船調査結果から見て、1996年級より低いと考えられる。さば類当歳魚は、漁期後半に来遊個体数が増加するが、個体重量が小さいため、漁獲重量は大きくならない。
(2)漁期・漁場
 現在、三陸北部海域の漁場は消滅し、三陸中南部海域が主漁場になっている。まき網や定置網漁業の漁況経過から見て、主な漁獲対象となるI*歳魚以上は三陸中部以南に南下している。調査船調査結果から、道東から三陸北部海域への来遊群は期待できない。このため、今後めだった漁場形成はないと考えられる。
 海況は、親潮第1分枝は沖寄りで推移し、第1分枝南端位置は現況で南偏傾向であるが、今後平年並になる、親潮第2分枝の張り出しは平年並みで推移する、との見通しである。沿岸の表面水温は、三陸中南部から常磐、鹿島海域では、平年並からやや高めの見通しである。このため、今後の魚群の南下は平年並みで、10月は三陸中南部海域での滞泳群を対象とした小規模な漁場形成が続き、常磐以南海域が主漁場になるのは11月以降になる。
(3)魚体
 大型の成魚群は漁場から南下していくため、当歳魚とI*歳魚が主体になる。また、当歳魚の漁場域への来遊量が増えるので、その割合が高くなっていく。ゴマサバは、これまでの混獲状況から見て、当歳魚、I*歳魚とも高い割合で混じる。
3.付記
 この予報は、下記の水産試験場、水産研究所などとのFAX、電話、郵便による資料の交換および協議にもとづいて作成された。
予報作成に参加した機関:北海道立釧路水産試験場、北海道立函館水産試験場、青森県水産試験場、岩手県水産技術センター、宮城県水産研究開発センター、福島県水産試験場、茨城県水産試験場、千葉県水産試験場、中央水産研究所生物生態部、同黒潮研究部、北海道区水産研究所亜寒帯漁業資源部、東北区水産研究所混合域海洋環境部、水産庁漁場資源課、同沿岸沖合課、漁業情報サービスセンター
*は原文ではローマ数字