独立行政法人 水産総合研究センター 東北区水産研究所
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シンポジウム「アサリ等二枚貝の食害問題の解決に向けて」(2006/11/07)
シンポジウムには約50名が参加

 アサリ資源全国協議会 シンポジウム「アサリ等二枚貝の食害問題の解決に向けて」が11月7日(火)に
塩釜商工会議所(宮城県)で開催されました。
 アサリ資源全国協議会は、水産庁と(独)水産総合研究センターにより、平成15年からスタートし4年目
を迎えました。
 行政とアサリ研究者とで、ここ数年減少傾向にあるアサリ資源の回復対策について協議してきましたが、
アサリ資源の減少における”食害(他生物から食べられること)”は大きなテーマとなっており、漁業者や
関係者がアサリ資源の回復にむけて積極的に取り組んでいます。

 以下に概要を掲載しました。詳しくは、各機関へお問い合わせください。  開催案内(word形式 30KB)


開会の挨拶(西堀) 開会の挨拶(石田)
開会の挨拶
宮城県水産研究開発センター所長 西堀修一氏
開会の挨拶
東北区水産研究所 業務推進部長 石田行正

11/7会場で食べられた
サキグロタマツメタ(巻貝)の塩ゆで。
味は、磯にいる小さな巻貝と同じ
11/6満月の夜 浜で
サキグロを採集した
(少し小雨がぱらついた)
宮城県が開発した
サキグロキャッチャー
(立ったまま採集できる)
左:移動するサキグロタマツメタ
右:食べられたアサリ



第一部 ツメタガイ類による食害

 1.アサリ等二枚貝の被害状況


 @宮城県水産研究開発センター
    宮城県(主に松島湾と万石浦)のアサリ生産量は、平成4年まで1000トン/年以上だったが、
   平成5年以降、減少傾向にある。サキグロタマツメタによる食害が深刻な影響を及ぼしており、
   アサリが減少したために一部の浜では潮干狩りを中止している場所もある。

    サキグロタマツメタの生態調査から、最近まで移入アサリの播種(はしゅ:種をまくこと)を
   行っていた水域もしくはその接続水域で砂質干潟の場合はサキグロタマツメタが多いこと、また、
   貝殻や砂利の混合した干潟では、アサリの生息密度が高い(サキグロタマツメタに捕食されにくい)
   ことなどが明らかになった。
    室内実験では、カキ殻を砂に混ぜると、サキグロによる食害に抑制効果があった。

    宮城県では、サキグロタマツメタ対策として、生態調査、漁場造成技術開発、トラップ開発
  (省力的駆除方法の開発)などを実施している。
    研修会の開催や駆除適期、産卵情報等の発信により漁業者らによる効率的な駆除の推進、
   そして身入り良好で美味しいアサリを取り戻すべく研究を進めている。
須藤氏による発表 食害を受けた二枚貝類
 上段:オキシジミ 下段:アサリ
身入り良好で美味しい宮城本来のアサリ


 A福島県水産試験場 相馬支場
    福島県におけるアサリの漁獲量は、最近180トン前後で推移している。数量やサイズ等を
   制限して操業していることにより資源回復に効果が現れている。
    平成15年8月に県が実施した調査で、サキグロタマツメタの生息が確認され、移入の経路
   を調査したところ、国内産アサリしか移植していない(外国産は入れていない)ことから、
   国内産に混入していたものと考えられる。

    組合(漁協関係者)が積極的に駆除作業に取り組んでおり、現在のところは早期対応と
   取り組みが継続されていることから、深刻な事態には至っていない。
    現状では駆除を継続する以外に効果的な方法はなく、福島県としては、継続した駆除を
   行うよう組合へ指導し、駆除数量や漁業被害状況の把握につとめている。
佐藤氏による発表 卵塊の出現する9月に
組合(漁協)全体で駆除作業
駆除された大量のサキグロタマツメタ


 B愛知県水産試験場 漁業生産研究所
    愛知県ではツメタガイの食害が発見され、愛知県で平成17年に実施された駆除は
   ヒトデ込みで50トンにのぼった。夏場、年数回にわたって漁場全域で砂茶碗(すなちゃわん:
   ツメタガイの卵のかたまりのこと。見た目が砂でできた茶碗のような形をしている)を駆除したり
   簡易なリーフレットを作成・配布(普及活動)し、駆除協力を呼びかけている。

    愛知県では、もう一つの方法として、防除網を設置し、沖からの侵入を防止し、重要区域を囲う
   などの研究を進めている。
柳澤氏による発表 知多半島と三河湾(愛知県) 西三河(東幡豆)のアサリ潮干狩り漁場

 2.アサリの放流に伴う外来種拡散の問題

 石巻専修大学 理工学部 生物生産工学科 教授 大越健嗣
   「アサリを放してアサリを滅ぼす? アサリの放流に伴う外来種拡散と干潟生態系への影響」


    潮干狩りの歴史は、3000年以上前の縄文時代の貝採りから始まり、300年前の江戸時代から
   庶民の楽しみとなった。
    宮城県で大量の食害が発見されたのが1999年。「被害の認識」により漁協を中心に
   組合員総出でサキグロタマツメタの一斉駆除にあたった。しかし、これまでに3か所の
   潮干狩り場が閉鎖に追い込まれる深刻な事態となった。

   もともと宮城県には生息していなかったサキグロタマツメタが、なぜこんなにたくさんいるのか?
大越健嗣氏による発表 里浜貝塚出土 縄文アサリ
(宮城県東松島市宮戸島里浜産出)

    アサリの放流に伴って、1980年代後半から移入が開始され、移入10年後には食害が発見されたことから
   「外国産アサリ」として流通しているアサリ袋について調べたところ、アサリ以外の生物が混入していた。
麻袋にはいっている放流用「外国産アサリ」 袋にはいっているアサリを選別 1つの袋(20kg)の中に入っていた
混入生物(一部アサリの死殻含む)

    数年間、サキグロタマツメタの卵塊と生貝の駆除を行っているが、減少傾向はみられない。

    サキグロタマツメタの親貝、稚貝、卵塊の駆除を根気強く続け、放流時にはサキグロを
   完全に除去するなど十分な選別を行ったうえで放流するよう、漁業者全体で取り組んで
   いかない限り、国産・県産アサリ復活の道は険しく、サイレント・エイリアン(食害生物でない
   ため移入や繁殖の実態がつかめない移入種)による干潟生態系への影響は計り知れない。
漁協関係者による卵塊一斉駆除 手作業による駆除 駆除された卵塊
(サキグロタマツメタの卵)
山積みされていく卵塊
(まだまだ沢山ある)

第二部 その他の生物による食害

 1.ヒトデ・キセワタガイによるアサリ食害   愛知県水産試験場 漁業生産研究所


   ・ヒトデは、水温10度以下でも活発に二枚貝を捕食する。
   ・駆除対策として、混獲されたヒトデの陸揚げという基本的な方法が行われている。
   ・ヒトデは、濃密に分布する場合があるため、集中的な駆除の可能性も含めた駆除方法の検討が課題である。

   ・キセワタガイは、稚貝(アサリの子供)を大量に捕食するが、小さいのであまり混獲されない。
   ・桁網で砂起こしチェーンの太さによる駆除効率、防除網による水槽内実験などで駆除方法の検討が
    行われている。
左:ヒトデ 右上:スナヒトデ
右下:モミジガイ
混獲されたヒトデ キセワタガイ


 2.山口県におけるナルトビエイ食害   山口県水産振興課

    ナルトビエイは、温帯から熱帯の沿岸域にすむ暖海性のエイで、山口県では平成14年に初めて
   漁協から報告され、その後多数来遊するようになった。
    これまでの研究で、二枚貝、特にアサリを好んで食べることが判明しており、アサリ資源に悪影響を
   及ぼしている。

    山口県では、引き続き「さし網」等を用いた駆除を実施している。また、大学と県、山陽小野田市が
   連携して、ナルトビエイの生態調査も行っており、今後は生態調査結果に基づく効率的な駆除手法、
   ナルトビエイの食用としての利用を検討するなどして、アサリ資源の回復を目指したいと考えている。

田井中氏による発表 美味しい「小野田アサリ」 ナルトビエイの来遊風景
漁船によるナルトビエイ駆除 陸あげされた大量のナルトビエイ ナルトビエイ試食会
(食用を検討)


 3.大分県におけるナルトビエイ食害被害とエイの飼育観察
                       大分県農林水産研究センター水産試験場浅海研究所


    大分県では、2003年からナルトビエイによる「アサリの食害」被害が相次ぎ、翌年から
   駆除作業が開始された。
    一部の漁場では、1月に大量発生が確認されたバカガイが、8月には全滅した事例もあった。
   消滅間もない海底では、ナルトビエイの摂餌痕、貝殻の破片が一面に散乱、上下の顎歯が発見
   されるなど、ナルトビエイの猛烈な食害と判断された。

    飼育観察では、たえず遊泳し、アサリやバカガイ、シオフキ、ハマグリを殻ごと摂餌した。
   1日に体重とほぼ同量の殻付きアサリを摂餌する。

    大分県では、さし網等を使用した駆除対策、パイプやネット等を利用した防除対策も行いながら
   アサリやバカガイの資源回復にむけた取り組みを続けている。

伊藤氏による発表 中津のバカガイ
資源量極小のため解禁されていない
二枚貝を大量に食べる ナルトビエイ
ナルトビエイの飼育観察
アサリの摂餌の様子
エイが食べた後の穴 防除対策事例


 4.ナルトビエイ撃退装置の開発とその効果    水産庁研究指導課

    ダイバーや漁船へのサメの被害を防ぐために、水産庁・石川県・珠洲市漁協・テクノパルス(株)とで
   開発された「サメショッカー」は、その周りにバリアーのような電場をつくってサメを追い払う装置である。
   サメは、微弱電流に敏感なため、海外でもこの性質を利用した装置が開発されている。
    実験では、サメ害が始まった時に装置を投入すると、サメ害が減少するのが観察された。

    ナルトビエイは日本の南西部に分布し、アサリ等に食害を与えることが知られており、水産庁でも
   対策が強く求められている一方で、ナルトビエイの減少を危ぶむ声もある。
    そこで、非殺的な方法であるサメショッカーのナルトビエイへの応用を試みている。電気の効果は
   ある程度実証できたが、今後はナルトビエイによる食害の実態調査、電気以外の食害防護手段、
   ナルトビエイ個体群状態の把握と管理など、統合的な対応が望まれる。

中野氏による発表 ナルトビエイ サメ被害対策用の電気ショック装置
実験地におけるナルトビエイの食痕
(漁業者撮影)


 5.その他の食害生物  (独)水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所

   アサリを捕食する生物はたくさん報告されている。その中でも、現在のアサリ漁場で代表的な食害生物
  であるサキグロタマツメタガイ、ナルトビエイ、ヒトデ類、キセワタ等以外の食害生物について紹介する。

浜口氏による発表 アサリの食害生物 アサリを食べるカモ

  【多毛類】 ・特にアカムシが積極的にアサリを捕食する。
         捕食の効率はあまり良くないので、一度に大量のアサリを捕食することは無い。

  【巻貝類】 ・肉食性巻貝類で干潟に生息するアカニシ類は、積極的にアサリを捕食する。
        ・その他、イボニシ、レイシガイ等も報告があるが、生息域から考えると積極的な捕食は断定
         できない。
        ・また、ツメタガイ類のなかで、有明海では近年数が減少しているゴマフダマガイ(地方名:
         ヘソクリガイ)も、アサリの移動に伴って各地に広がる可能性がある(第二のサキグロ?)と
         懸念される声をあった。

  【カニ類】 ・一般に、イシガニやガザミは大型のアサリを好む傾向がある。
        ・一方、ケフサイソガニやイソガニは小型のアサリを捕食する。北海道ではクリガ二の報告も。
        ・カニ類は、以上にあげた種以外でもアサリをよく捕食し、重要な食害生物となっている。

  【エビ類】 ・クルマエビや、生息域は異なるがイセエビ類はアサリをよく捕食する。
        ・山口県の実験では、殻長1〜10mmのアサリであれば、大きさに関係なくよく捕食するという
         報告があった。
        ・クルマエビは、沿岸漁業の重要な漁獲対象種であるので、アサリ資源の復活は、クルマエビの
         漁獲増に繋がる可能性もある。

  【シャコ類】・シャコはアサリをよく捕食する。
        ・シャコもクルマエビと同様、重要な漁獲対象種であるので、シャコを増やすためには
         アサリ資源の復活が望まれる。

  【魚類】  ・ナルトビエイ以外の魚類の食害は主に異体類で報告されている。
        ・文献上は、マハゼ、イシガレイ、マコガレイ、ヌマガレイの仲間、ネズミゴチ、キスなど。
        ・近年では、クロダイも報告があり、瀬戸内水研で研究が進められている。

  【鳥類】  ・鳥類、なかでも潜水ガモはよくアサリを捕食する。
        ・その他の鳥類も補食の報告があるが、捕食量については推測した論文や目視観察の結果。
         
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