2001年度海外調査報告
ワークショップ“Modern approaches to assess maturity and fecundity of warm- and cold- water fish and squids(温水・冷水域に生息する魚類・イカ類の成熟度および産卵数を評価する最新の手法)”に参加して
栗田 豊(東北区水産研究所)

 2001年9月4〜7日、ノルウェーのベルゲン市で開かれた上記ワークショップの内容について、感想を交えて報告する。(上付数字は参考文献)
1.ワークショップの概要
 成熟体長や成熟年齢、年齢ごとの産卵量は、資源評価や親子関係を取り込んだ個体群動態モデル構築に必要不可欠なデータである。また、繁殖特性のデータはegg production modelを用いた資源量推定にも必須である。これらの特性値は何十年も前から用いられている誤った基準で推定されたり、一定と仮定されたりする事があり、推定値の偏りについて注意が払われていないケースがある。本ワークショップは、資源生物学的研究に用いられる再生産に関するデータ(特に成熟度と産卵数)の質を改善するために、現在用いられている手法の問題点を話し合い、新たに標準的な手法を確立することを目的として開かれた。Olav Kjesbu(ノルウェー)、John Hunter(アメリカ)、Peter Witthames(イギリス)の3氏が主催し、10カ国から21名の研究者が集まった。日本からは北大の桜井泰憲先生と私が参加した。発表内容は、発表者が研究対象としている魚種の繁殖特性、特に成熟度や産卵数の評価方法の紹介(12題)、統計解析方法に関するもの(1題)、繁殖特性値の推定に用いるテクニック(2題)、その他(2題)で、1題につき45分発表、15分質疑という形式であった。加えて、3日目以外は毎日2〜3時間かけて、@成熟度の評価方法A産卵数の推定方法について参加者全員で議論した。
2.印象に残った発表
An introduction to the problem of accurate and precise evaluation of reproductive information to be used in fishery assessment and egg production (J. Hunter and B. Macewicz) 1,2)
 本ワークショップの基調講演的な発表。成熟度の階級数は必要最小限とすることを推奨。産卵数の推定は、batch fecundityに産卵回数を乗ずる方法と、卵母細胞径分布から当該産卵期に産卵しうる卵数(potential fecundity)を推定する方法に大別。後者は、さらに@産卵開始後に、計数したpotential fecundityに新たな卵母細胞が加わらないことA推定に用いる標本はまだ産卵をしていないことB発達途上で吸収される卵母細胞(atresia)が少ないことを満たす必要がある。
Estimating daily spawning fraction using the gonadosomatic index: application to three stocks of small pelagic fishes from Chile (G. Claramunt, R. Roa and L. Cubillos) 3,4)
 batch産卵をする魚種のGSIを用いて、1日当たりの産卵個体割合を推定する方法。産卵個体割合を推定するには、吸水卵を持つ個体の割合を調べるか、排卵後濾胞(POF)を用いるのが一般的だが、調査対象魚種(Sardinops sagax)は吸水卵を持つ個体が採集されにくく、POFは組織学的に調べる必要があるため手間がかかる。そこでまず、最も発達した卵母細胞群の平均細胞径(ODAM)が個体群で見ると正規分布をすること、吸水(hydration)がある一定の卵母細胞径以上で起こることを利用。ODAMの平均値と標準偏差(SD)からODAMの正規分布を特定し、吸水を開始する卵母細胞径以上の個体の割合(産卵個体の割合)を推定した。さらに手法を改良し、ODAMの平均値が、吸水を開始する径とODAMのSDから推定できること、ODAMのSDがGSIと直線回帰することを利用し、GSIからODAMの正規分布(SDと平均値)を特定し、産卵個体の割合を推定した。この手法を用いるにあたって、季節や年によらずそれぞれの関係が成り立つことを明らかにする必要がある。(適用できる魚種とできない魚種があるだろう。GSIは多くの魚種で長期データが蓄積されているので、GSIから一定の精度を持って産卵頻度を推定できる魚種では、本法は繁殖特性値の長期変動を調べる手法として非常に魅力的である。)
Applications of Generalized Additive Models (GAMs) on reproductive data (M. Cardinale) 5,6)
 GLMs(Generalized Linear Models)は線型回帰、正規分布を前提とするのに対し、GAMsは変数間の関係、分布の形を規定しない。欠点は統計的推測の可能性(possibility)の制限、平滑化のために多くの自由度を使うこと。必要に応じてGLMsとGAMsを使い分けるのがよい。GAMsを用いて環境要因と資源構造がAtlantic codの加入に及ぼす影響を解析したところ、個体群構造(年齢組成)が加入量変動に対して重要であった(maternal effect)。特に卵や仔魚の発達に関わる環境条件が悪い年は、経産魚から生まれた卵が加入に寄与する度合が、初回産卵魚の卵に比べて相対的に高くなった。
Unbiased stereological estimation of cell numbers and volume fraction: the disector method and the principles of point counting (T. E. Andersen)
 組織切片はある立体構造を平面で観察する。粒子の大きさが異なれば、ある面で粒子を切る確率も異なる。従って、異なる大きさの粒子を切片で計数する場合は、粒子を切る確率を考慮しなければならない。stereological methodは立体を平面で観察する際の偏りを無くすように配慮された計数方法である。例えば卵巣は大きさの異なる卵母細胞で構成される。それぞれの卵母細胞の数を組織切片から計数する場合は、細胞径によって計数値を補正する必要がある。さらに、例えばatresiaや排卵後濾胞の様に観察する物が球形でなければ、補正は簡単ではない。この場合stereological methodの使用が推奨される。(本法を用いた計数は1検体につき2〜3時間必要ということなので、推定値に必要な精確度と労力を考えて本法を用いるかどうか決定する必要があるだろう。)
A rapid method for estimation of oocyte size and potential fecundity in Atlantic cod using a computer-aided particle analysis system (A. Throsen and O. Kjesbu)
 Atlantic codの卵母細胞径と卵巣重量から孕卵数(fecundity)を推定する方法。卵母細胞径はイメージアナライザー(NIH image)で計測。画像の取り込み、卵母細胞の抽出(輝度を用いて識別)、長径・短径の計測、異常値の削除、計測値のコピー等。コピーしたデータはエクセルのマクロで、径の平均、SD、max、min等計算。1個体につき50個程度の卵母細胞径を計測。所要時間は10分程度。(孕卵数推定には魚種ごとにキャリブレーションが必要。ストックや季節、年変動などについても、慎重に吟味する必要がある。卵母細胞径の計測システムは私もニシンの計測に用いていた。近々東北水研でも計測システムを立ち上げる予定である。)
3.雑感
 私は、"Fecundity regulation of wild Atlantic herring through resorption of atretic oocytes throughout maturation cycle" 7,8)というタイトルで、ニシンのpotential fecundityの調節時期、atresia出現の動態、fecundityと親魚の栄養状態との関係について発表した。
 会議は4日間と短く発表数も多くないので、余裕のある会議になると思っていたのだが、実際は朝8時から夕方6時過ぎまで会議が続き、しかも英語での議論が続いたので、肉体的にも精神的にも非常に疲れた。一方、会議の内容は興味あるものばかりでとても刺激的であった。また、参加者が20名程度と小規模でフレンドリーな雰囲気で会議が行われ、参加者全員と知り合いになれた。
 全体の議論は、Hunter博士の基調講演に沿ったものとなった。さらに、fecundityの推定に際してatresiaの扱いに細心の注意を払う必要があることが確認された。その他、調査に適当な採集時期や場所について話し合った。本会議の発表及び議論内容はworkshop reportとして出版される予定である。また、本ワークショップの主催者が中心となって繁殖特性研究のマニュアルを作成・出版する予定である。マニュアルは、研究対象魚種の繁殖生態を正しく理解するための指針となるだろう。ただしマニュアルでは最大公約数的なものしか示せないので、具体的な研究方法は、研究対象魚種の繁殖生態に適うように研究者自身が考える必要がある。本ワークショップ関係で新たな進展があれば、また水研ニュースで紹介したい。
 本出張は農林水産技会プロジェクト研究「太平洋漁業資源」から旅費を出していただいた。関係各位に御礼申し上げる。
引用文献
1) Hunter, J. R. and B. J. Macewicz (1985) NOAA Technical Report NMFS 36, pp.79-94.
2) Hunter, J. R., B. J. Macewicz, N. C. Lo and C. A. Kimbrell (1992) Fish. Bull. 90, 101-128.
3) Claramunt, G. and G. Herrera (1992) Scientia Marina 58, 169-177.
4) Claramunt, G. and R. Roa (2000) Scientia Marina 65, 87-94.
5) Cardinale, M. and F. Arrhenius (2000) Can. J. Fish. Aquat. Sci. 57, 2402-2409.
6) Cardinale, M. and F. Arrhenius (2000) Mar. Ecol. Prog. Ser. 196, 305-309.
7) Kurita, Y., A. Thorsen, M. Fonn, A. Svardal and O. Kjesbu (2000) Proc. 6th Int. Symp. Reproductive Physiology Fish, pp.85-87.
8) 栗田 豊 (2001) 月刊海洋 33, 237-241.

Yutaka Kurita