2000年度海外調査報告

ICES年次会議でのテーマセッション「資源加入過程における時空間的変動パター ン」 (Spatial and Temporal Patterns in Recruitment Processes)への参加
木村 量 (中央水産研究所)

 農林水産技術会議プロジェクト研究「環境変動が生物生産力と漁業資源に及ぼす影響の解明 (VENFISH)」の海外調査として、2000年9月27日から30日にかけて、ベルギーのブリュ ージュにおいて開催されたICES年次会議(2000 ICES Annual Science Conference)に参加し ました.会議では「資源加入過程における時空間的変動パターン」 (Spatial and Temporal Patterns in Recruitment Processes)のセッションで耳石微量元素分析を当歳魚の回遊パター ン推定に応用した口頭発表を行うとともに,黒潮親潮移行域での仔稚魚の生態に関するポスタ ー発表に共著者として参加しました.会議では主として上記セッションで新規加入問題を扱う 研究の最新の知見収集に努めましたので、その報告をおこなうとともに、この場をお借りして この度の海外調査に関して御尽力いただいた関係各位に厚く御礼申し上げます.

 「資源加入過程における時空間的変動パターン」でのセッションは30の口頭発表,2つ ポスターセッション参加があり,コンビーナーのProf. E. Houde (USA), Dr P. Pepin(Canada), P. Munk(Denmark), Prof. D. Schnack(Germany)の4者が交互に座長を務 めました。セッションの冒頭,Houde氏が示したキーワード一覧は次のとおりで, Hydrography, Predator-Prey Relationship, Stock Abundance, Climatic Factor, Environment, Being in the right place at the right time, Distribution patterns, Scaling issues, Processes, Trends, Variability  セッションの数々の発表を聞いた印象でも,これらのキーワードに現在のこのテーマにおけ る焦点が集約されているようでした.講演ではニシン,タラ,カタクチイワシ類を中心に底魚, 浮魚両方にわたり資源新規加入過程における時間・空間的変動をどう解析したか,が話題提供 されていました.耳石日周輪や体の核酸比(RNA/DNA)から得られるgrowth rate を用いた 手法は4年前のICES international symposium 時と同様必須の情報となっており,海流を 取り込んださらなる成長モデル化が進んでいるという印象を受けました。また,いくつかの発 表で,local retention area の年々の違いと加入水準の違いを結びつけて解析しており,特に 河口域の魚種では淡水流量レベルがrecruitmentのサイズを決める大きな要因になっている のではないか,という指摘があり,流量の多寡によって仔魚のretention area が変わること が加入量変動に結びついていると議論されていました.

 1993年に日本水産学会シンポジウム「魚類の初期減耗研究の課題と方法」において東大海 洋研の中田英昭先生が“・・最近は,さまざまな事例で流れの数値モデルを魚卵や仔稚魚の輸 送過程の解析に応用する試みがなされており,流れの計測と上述の実証的な生物情報を組み合 わせながら,輸送モデルによる予測とそのフィールドでの検証を繰り返すような,モデリング と現象解析が一体となった輸送過程の研究を推進することが一つの方向となりつつある。”と 指摘されていましたが(中田,1994),まさにこうした研究の着実な進展状況がこのセッショ ンでいくつか示されていました.具体的には,Spatial - explicit model を使ったP. Pepin (Dept. of Fisheries and Ocean, Canada), 数学的な0 or 1反応モデルを使っていたP. Petigas (IFREMER, France), 着底稚魚の環境収容力を加味した輸送モデルを示したM. Heath(FRS Marine Lab, UK)が目立ったほか,R. Cowen (Univ. of Miami, USA)による仔稚 魚輸送モデルの構築およびRecruitment の推定手法はプレゼンテーション手法も素晴らしく, 1ヶ月スケールの仔稚魚の分散過程をよく再現していました.
 Dr. Cowen の研究は,カリブ海の珊瑚礁域で分散したのち着底するクロソラスズメダイ属 仔魚が生息水深を変えながらうまく島回りの海流を利用し,retention によって島近くに着底 する様子を明らかにしていました.この研究の前に106のオーダーで拡散する長距離輸送は資 源維持には役立たないということをモデルで示しており(Cowen et al. 2000),一方で,産卵期 の産卵状況もモニタリングできるようにしており,研究の前提がしっかりとしている印象があ りました.この研究のために,一見しただけで膨大なサンプリングを含む航海をこなしており, 30日間連続で1セット1日24時間3日間連続のサンプリングを8−9回繰り返し,サンプリ ング点は24点ほどで1日目はADCP, CTDによる海洋環境観測,2日目は1m2 MOCNESS, ボンゴネット による小型仔魚・動物プランクトン採集,3日目はより大型の仔魚をねらって 10m2 MOCNESS 曳網を行い,同時に漂流ブイを流してその軌跡を記録していました。発表 の後,幸運にも彼と一緒に食事をする機会を得たので,色々とクルーズの規模について質問し たところ,彼自身もresearcher として30日間乗船したという話で,期間中は調査員は12時 間ワッチで1ワッチ4人必要。船は60m級で乗組員は16名,そのうち4名はtechnical stuff だと言っていたので,1ワッチ調査員として6名ぐらい必要とし,ひと月のクルーズを通して のべ14-17名の調査員を学部生,大学院生,ポスドクなどから確保すると言っていました.し かし,Dr. Cowen に敢えて質問してみたのですが,それだけ集約的にサンプリングを重ねて も,prey density とlarval growthの間にきれいな相関は見いだしにくい,という興味深い personal opinion ももらいました.このprey density とlarval densityの相関については, Dr. Munkも北海でのAtlantic cod でコペポーダ量との空間的な一致がどうだったかを調べ ていましたが,ある部分ではうまく最大密度に一致しているように見えているが,トータルで は有意に相関が出てこないと言っていたので,どこでも狙っていてもきれいな相関はつかみに くいのか,との印象を持ちました.

 自らの発表については時間の関係で質問を受けることが出来ませんでしたが,発表後昼食時 にいきなりスペインのDr. Motos 氏がやってきて,Biscay Bay でanchovy の仕事をしてい るが,君の方法で産卵場の28 psu と生育場の35psuぐらいの差は検出できるだろうか,と質 問を受けました.そこでSr:Ca と環境塩分の反応は種特異性が高いので試してみる価値はあ ると返答し,他にも現在進行中のスケトウダラ耳石分析結果の話をしてみると,とても興味を 持ってくれたようで,非常に有意義な国際会議参加となりました.
 セッション全体の印象としては,研究途中の話題も多かったため,やや散漫なところもあり ましたが,Dr. Cowen のようにintensive な調査によってかなり正確なモデルを作ることが 出来つつある,という印象を持ちました.個人的な意見として,日本においては「輸送モデル による予測とそのフィールドでの検証を繰り返す」ような仕事がなかなか出来ないのは,細分 化されたプロジェクト研究の課題と,fundシステムの問題ではないかと思います.おそらく 日本でも近い将来にfundシステムを変更して,一人の研究者が船舶借料を含めた規模の大き な予算を動かして複数の研究者と共同でひとつの調査計画を遂行するようにしないと,資源加 入水準を決める現場の細かな相互作用といった分野では欧米型の研究に太刀打ちできなくな るのではないか,という危惧を感じました.年ワンシーズンの調査で長年の積み重ねで長期的 なトレンドとの関係は出てくるだろうけど,recruitment のプロセスを正確に記述し,解析す るにはもっと集約的な調査体制が必要となるのではなかろうか,と.もっとも日本では理想的 なサンプリングができる海洋条件が許せば,という制約も大きいと思う感想も同時に持ちまし たが.

 会議全体ではオープニングセッションにつづきOpen Lectureで亜熱帯域の資源解析で著名 なDaniel Pauly 教授(Univ. of British Columbia)が"Fisheries and Conservation. A Programme for their Reconciliation" の演題で招待講演を行いました.漁業の現状は,時間 の経過と共に,魚体サイズ,漁獲された魚の栄養段階のどちらも減少しているということを示 し,種の多様性保護は結局漁業資源保護にも結びつくため,今後Fishery Scientist も Conservation Scientist と協力してこの問題に当たらないといけない,という内容でした.ま た,オープニングセッションでは,最近発行された"ICES Zooplankton Methodology Manual" の紹介があり,この分野のkey reference workになるだろうとのことで,その広告が配布さ れていました(ISBN 0-12-32764-54).セッションIncorporation of External Factors in Marine Resource Surveyでは,Dr. Beare (SOAFD Marine Lab, UK) が最近産卵量推定など に応用されているGAM(Generalised Additive Model)を使って産卵場での親魚行動パターン を解析・モデル化した研究をいくつか発表していました.各水深毎,季節毎に産卵期親魚量の 分布様式をモデル化して,この統一手法をICESの幅広いエリアで応用しており,この手法の 浸透ぶりが印象づけられました.
 University of Marylandから参加した大学院生からは,ICESには若手研究者が参加したが らない,なぜなら若手には"ICES Age" なる世代が煙たいから,という話を聞きました.確か にそう思ってながめると,若手研究者の参加が少ない感じはありました.これだけ情報の詰ま った会議をそういう風に眺められる若手をある意味うらやましいと感じましたが,ヨーロッパ, 北米等で現在進行中のプロジェクトを俯瞰できるこの学会には水研から定期的に情報収集に 出かける価値が大いにあると思われました.


写真
2000 ICES ASC会議場となったCongress Centre Oud Sint-Jan, Brugge, Belgium.
最終日のGrand Conference Dinner の前にはこの横を走る運河巡りが観光船でおこなわれた.

General Assembly でのICES 代表の挨拶.

参加セッションでのcoffee break 時の様子.

引用文献
Cowen, RK, KMM Lwiza, S Sponaugle, CB Paris, DB Olson (2000) Connectivity of marine populations: Open or closed? Science 287(5454): 857-859.

ICES Zooplankton Methodology Manual (2000), Eds. Roger Harris, Peter Wiebe, Jurgen Lenz, Hein R. Skjoldal, and Mark Huntley. Academic Press, London, pp.650.

中田英昭(1994) 輸送。魚類の初期減耗研究(田中 克・渡邊良朗編),恒星社厚生閣,東京, p.72〜82.


Ryo Kimura