2000年度海外調査報告
タラ類等多獲性魚類の資源変動と海洋環境及び餌料環境との関係に関する情報収集
石田行正 (北海道区水産研究所)

 農林水産技術会議プロジェクト研究「環境変動が生物生産力と漁業資源に及ぼす影響の解明 (VENFISH)」の海外調査として,2001年1月13日から22日にかけて,英国スコットランドのエジンバラにある大西洋さけます保存機関(North Atlantic Salmon Conservation Organization; NASCO)およびアバデイーンの英国水産研究所(Fisheries Research Services; FRS)を訪問しました.特にFRSではVENFISHに直接関連すると思われる下記の情報を収集しましたので,その概要を報告いたします.また,この場をお借りしてこの海外調査に関して御尽力いただいた関係各位に厚く御礼申し上げます.
 FRSにおいて海洋生態系のProgram ManagerであるのMike Heath博士より,気候・海洋・動物プランクトン・タラの関連についての研究の説明を受けました.Heath博士はBiocosmosプロジェクトで中央水産研究所を訪問したこともあり,黒潮によるマイワシ稚仔魚の分散について水産庁の研究者とも共同研究の経験を持つ日本通の研究者です.気候変動からタラの資源変動へのストーリー(メカニズムまたは仮説)は次ぎのようなものです.
 北大西洋南部のポルトガルの西方にあるアゾレス諸島上空の高気圧と北大西洋北部にあるアイスランド上空の低気圧との気圧差は,季節により,また年により大きく変動します.この変動は北大西洋振動指数(North Atlantic Oscillation (NAO) Index)といわれています.1960年以降,冬季にアイスランド上空で低気圧が頻繁に発達するようになり,このNAO指数が上昇しています.このようにアイスランド上空で低気圧が発達すると,低気圧の東側では平年より南風が強まり,それに影響されて北大西洋の南部から暖水が平年より北上するようになります.またグリンーンランド海での深層冷水の形成量が減少します.このためフェロー・シェットランド海峡に流入する深層冷水が減少します.そうするとこの深層冷水で越冬する動物プランクトン(Calanus finmarchicus)の量が減少し,春季に浮上して北海へ移入する動物プランクトン量も減少することになります.これにより春季ブルーミング時の動物プランクトンの卵・幼生の量が減少し,タラ稚魚の餌環境が悪化し、稚魚の生残が低下することになります.このような気候・海洋環境の変動によるタラ稚魚の初期生残率の低下,さらに過剰な漁獲によるタラの産卵親魚量の減少,これら2つの要因がタラ資源の崩壊を招いたと考えられています.近年,漁獲努力量を削減し,タラ資源を回復させようとしていますが,タラ稚魚の生残に不利な気候・海洋環境は相変わらず継続しており,タラの資源は思うように回復していないのが現状です.
 VENFISHにおいて「環境変動が生物生産力とスケトウダラやサンマなど多獲性魚類に及ぼす影響の解明」を推進するためにも,このようなストーリーは参考になるのではないかと感じました.道東水域Aラインや東経165度定線での塩分の経年的な低下,動物プランクトン(Neocalanus cristatusN. plumchrus)などの季節的な深浅移動と豊度の年変動,そしてスケトウダラやサンマの豊度の変動を結びつけるストーリー,個々の小課題を結びつけるストーリー.VENFISHのストーリーはこれからますます面白くなるのではないかと感じながら,FRSで上記のような情報を収集しました.なお,FRSのプロジェクトについてのより詳しい情報はFRSのホームページ(http://www.marlab.ac.uk/)に掲載されていますので,それらを参考にしてください.

写真
FRSでの昼食時,Mike Heath博士(右端)ほか
参考文献
Monitoring the effects of climate change - overwintering abundance of Calanus finmarchicus in the Faroe- Fisheries Research Service Report 14/99: 1-24

Yukimasa Ishida