サンマ中短期漁況予測実用化試験について

小坂 淳*・上野康弘

 
平成14年度から独立行政法人水産総合研究センターは社団法人漁業情報サービスセンターに委託して資源評価調査における分布回遊状況解析調査の一環でサンマに関する中短期漁況予測実用化試験を開始している。これまでの先行の諸事業における技術開発試験と大きく異なるところは,本実用化試験が予測の結果を中短期漁況予報としてホームページに掲載して,成果を社会に還元している点にある。ここでは,この事業の背景と概要について説明し,関係者の理解と協力を要請するものである。
 
中短期予測実用化試験の概要
先行の関連事業として漁業情報サービスセンターは,昭和63年度から平成8年度まで水産庁の補助事業で「長期予測高度化技術開発試験」及び「資源管理型漁海況予測技術開発試験」により,予測手法のマニュアル化,データファイルの整備,予測解析技術の開発等,データベースの構築や漁況予測支援基本プログラムの作成,及び個別魚種の解析モデルの作成を行った。
 平成9年度からは,我が国周辺水域漁業資源調査(水産庁事業)の委託事業の一環としての分布回遊状況解析調査が始まった。分布回遊状況解析調査は我が国周辺水域漁業資源調査により得られたデータを収集解析し,海洋条件と資源の分布・回遊との関係を把握するための実践的な技術開発を行い,資源の分布・回遊状況の把握とその予測に資することが目的である。実際に実施した内容は@海洋条件の変化と分布・回遊状況のビジュアル画像表示システムの開発,A海洋条件と分布・回遊状況との関係の解析,B分布・回遊に係わるデータベースと運用システムの構築であった。対象資源としては平成9年に北西太平洋系サンマ,平成9・10年に太平洋系マアジ,平成10・11年度に対馬暖流系マアジと太平洋系及び対馬暖流系スルメイカを取り上げた。
 本調査で得られた成果は,分布回遊状況のビジュアル表示では,サンマを例に示すと,JAFIC(漁業情報サービスセンター)が発行している旬別の海況速報の表面水温分布と標本船の銘柄別CPUE分布を重ね合わせ,その経時的変化を動画によりビジュアルに表示したソフトウエアの開発である。これによりサンマの回遊時の海況変化と分布移動の状況との対応が明確に把握されるようになった。これを基にサンマの南下回遊期の予測モデル開発が行われ,三陸海域や常磐海域への来遊量を目的変数に,千島列島沿いの資源量指数,親潮第1分枝及び釧路沖暖水塊の存在を説明変数に数量化理論T類による予測の試験が展開された。その結果,予測式における適合度を示す重相関係数0.99と決定係数0.98が得られ,実践的な技術開発試験としては成功を収め,サンマの分布回遊に関する予測については実用化に向けての検討段階に到達した。
 平成13年度から水産研究所が独立行政法人水産総合研究センターへ移行するのに伴い,水産庁から漁業情報サービスセンターへの資源評価調査の委託事業は独立行政法人水産総合研究センターからの委託事業へと変更になった。
 これに伴い,平成13年2月26・27日に開催された資源評価調査担当部長等会議において「分布回遊状況解析調査」の今後の方向が検討され,目標としては漁期間を通して,きめ細かい予測情報の提供ができるよう,中短期的な来遊資源動向の予測技術を開発して実用化し,運用を図ることとなった。
 これに従って平成13年度においては,12年度までの成果に基づいて中短期予測モデルの開発が行われ, これをベースにして14年度からサンマについて漁況中短期予測の実用化試験を実施することとなった。
 
予報モデルの概要
 予報モデルの概要は以下の通りである。@予測モデルの作成にあたっては漁獲成績報告書から計算した旬別海区別資源量指数と,表面水温の各水温帯別占有率を使用する。A資源量指数の値は予測計算を行う前旬のものを使用する。B表面水温の各水温帯別占有率は,予測を出力する旬(1旬先から5旬先)のものを使用する。Cモデル作成にあたっては過去のデータを使用するが,モデル運用にあたっては,資源量指数については標本船調査結果を,表面水温データについては,時系列モデルによる予測値を使用する。D予測モデルの出力値を総合的に判断して予測文を作成する。E予測モデルはニューラルネット等の使用も検討したが,非線形部分の現象についてはモデルの出力結果に対して総合的に行うことから,複雑なモデルとせず,数量化T類を使用し,低い・平年並み・高いの3段階で制御する方式とする。E海域別旬別にどの水温帯別占有率を使用したら良いのか,また資源量指数についてどの海域のものを使用したら良いのかについては,総当たり的にモデル作成を行い,重相関係数から良いものだけを抽出して第一候補とし,この中からモデルの各種値を参考にして数個のものを選ぶ方式とする。
 
サンマ中短期漁況予報実用化試験
この事業で行う中短期予報の位置付けは,東北区水産研究所が実施する北西太平洋系サンマに関する長期漁海況予報を補完する形で,漁期間にわが国周辺海域に来遊するサンマについての実用的な中短期漁況予測の実用化を行うことである。予測対象は南下回遊群を対象に,予測を実施する時期の翌旬から5旬を単位に,道東海域,三陸海域及び常磐海域の3海域における来遊量水準と漁場形成とする。例えば,9月上旬に出す予報については,9月中旬,9月下旬,10月上旬,10月中旬,10月下旬を旬ごとに予測することになり,翌旬の9月中旬に出す予報は,9月下旬,10月上旬,10月中旬,10月下旬,11月上旬を予測する形となる。もちろん,次の旬に出す予報で前旬の予測を修正することもある。
平成14年度のサンマ中短期漁況予測は,試験的なものであるので,漁業情報サービスセンターが予測案を作成し,解析検討会の委員(東北区水産研究所及び関係道県担当者)に点検を依頼し,了承を得た後に公表する手順で行われている。また,予測の広報については,東北区水産研究所(http://www.myg.affrc.go.jp/tnf/sanma.htm)及び漁業情報サービスセンターのホームページ(http://www.jafic.or.jp)に掲載されている。
 
結び
 この調査で行われるサンマの中短期漁況予報は,過去の情報をシステム的に整理して行う中短期漁況予報としては,恐らく我が国で初めてのものであろう。この予報が実用的なものになれば,漁船の操業の効率化や原材料の安定的な確保,資源管理の面でも大きく不確実性を減らすことができるであろう。関係者にあっては,この漁況予報が実用的なものになるように,出された試験予報に注意を払い,これに関する色々な意見・要望を我々に送っていただくよう切望するしだいである。
(漁業情報サービスセンター*・八戸支所資源生態研究室)

                  出された漁況予報の例