諸会議の報告
 
平成14年度カキ浄化対策に関する情報交換会
開催月日・場所:平成14年7月25日,東北区水産研究所会議室
参加機関:水産庁,国立感染症研究所,水研センター(本部,東北水研ほか1研究所),北海道,岩手県,宮城県,三重県,岡山県,広島県の行政,水産および保健衛生関係試験研究機関(12機関),など計18機関28名

会議開催の経緯
 平成9年の食品衛生法施行規則の一部改正で,SRSV(小型球形ウイルス)は人の急性胃腸炎をもたらす食中毒原因物質として指定された。近年,SRSV検査技術の発達でSRSVと特定される食中毒が増えており,その食物の起源としてはカキが疑われている。東北地方でも主要なカキ生産県である岩手・宮城の両県で汚染実態調査や浄化技術の開発に関する研究がマガキを対象に実施されている。平成10年度からは両県と東北水研で意見交換会が開催されるようになった。
 13年度の交換会で水産・保健衛生関係の試験研究機関による統一的な研究の実施や全国的な情報交換の必要性が論議された。また,本年5月に岩手県からも同様な提案書が農水省に対して出された。このような情勢を受けて,水産庁や水研センター本部の了解の下で東北水研が事務局となり,ブロックの垣根を越えて全国のカキ主要生産県によるSRSVに関する意見交換会を開催することになった。

意見交換会の概要
(1)SRSV食中毒の発生状況,各県・団体による対策等の報告
@食中毒の発生状況
 SRSVによる食中毒の発生する時期は1−3月に集中している。生カキが原因の食中毒では,常に複数の異なるウイルス株が検出されるのが特徴である。三重県や岡山県のように発生が下火になった県もある。
A汚染実態調査
 カキの汚染実態調査では,検出率は下水処理場に近いほど高くなる傾向が認められているが,処理場の全くない小河川で検出された例もある。SRSVは,漁場では秋の終わりから検出され始め,表層水温が10℃以下になると検出率が高くなり,1−2月には最大になる。また,12−1月に人の流行があり,それに起因するSRSVが河川を通じてカキに取り込まれているとも推察されている。集落排水処理場におけるSRSV大量浄化処理を目的とした試験が(財)漁港漁村建設技術研究所によって東北の河川を対象に検討されている。
Bカキの浄化対策
 SRSVはカキ体内では複雑な構造をもつ消化盲嚢に留まっており,除去が難しい。各県で次亜塩素酸ソーダ,紫外線などで処理した殺菌海水や大腸菌に効果のあるマイクロバブル装置による浄化法などで試験しているが効果は小さい。一方,正常な海域に汚染カキを移転させる転地蓄養の方法では,SRSV検出率が減少する傾向が認められた。
 広島県では,昭和54年から特定海域で生産したカキの生食を禁止している。漁場を指定外海域,条件付き海域(浄化処理すれば生食可),指定海域に区分している。また,人から人への感染の排除を目指して,むき身作業から人を排除したオール機械化システムを検討している。
CSRSVの定量化技術の開発
 SRSVは人が唯一の感受性動物であり,実験動物系や培養細胞系が未だに確立されていない。現在,SRSVの検出に使用されているPCR法では,不活化したウイルスの確認や100個体以下のSRSVを検出できない。国立感染症研究所を中心に大学,県の保健環境センター等で技術開発研究が行われているが,検出精度の向上や活きているウイルスのみの検出は難しい。現状は,定量検査方法が確立しているとは言い難い状況にある。
D検査体制
 多くの県で保健センターなどによるカキの出荷前検査や県漁連・漁協による自主的検査が実施されている。ただし,不活化したウイルスでも検出されることや検出限界以下のウイルス数でも発症することなどの問題が残されている。
(2)総合討論
 浄化技術や定量化技術の開発,培養技術の確立等を目指して各県協力しながら研究すべきとの意見を表明した県もあったが,いずれの課題も短期間での成果の見通しが立たないことから,各機関から前向きな意見が出ず合意にはいたらなかった。その他,水産庁からは浄化技術開発は水産分野で取り組むが,定量化技術は保健衛生分野の研究機関に実施してほしいとの希望が述べられた。

平成14年度東北ブロック資源評価会議
開催月日・場所:平成14年8月5日,東北区水産研究所会議室
参加機関:東北ブロック等関係道県水試等(青森水試等10機関),東北大院農学研究科,(社)漁業情報サービスセンター,全さんま,各県沖底組合等,水産庁(資源管理部,増殖推進部),水研センター(本部,遠洋水研,東北水研),59名

 東北海域の海況の経過の説明の後,下記の9魚種について資源評価結果の説明と討議を行った。各魚種の討議内容は以下のとおりである。

ズワイガニ太平洋北系群
 資源状態が昨年と同様に中位,横ばいであるのに,ABCが半分以下になったことについて質問があった。昨年までは雌雄合計の資源量の維持を管理目標としてABCを算出していたが,シミュレーションでは雌ガニが減少するという結果になるため,今回は雌ガニ資源の維持を管理目標としたためにABCが少なくなったと回答した。これに対し,沖底の漁業者から,雌ガニは増えているとの意見が出された。また,調査点数が多くないため資源量推定精度に問題があることが指摘され,今後の調査において改善を検討することとした。

マダラ太平洋北系群
 さまざまな漁法で漁獲されるマダラでは,漁法別に漁場や漁獲物の年齢組成が異なる。ABCを求めるシミュレーションの際に,これらの違いについて考慮する必要性に関する質問が寄せられた。それに対し,現在は行っていないが検討の必要性はある。ただ一つの漁法に対し,漁獲圧を下げるのは現状では難しい。そのため,調査結果に基づいた東北全体の現存量に,現在の年齢別の選択率で漁獲された場合のシミュレーション結果をABCとして用いていると回答した。

イトヒキダラ太平洋北+北海道南
 体長組成から見ると,10年に一度とかに卓越年級が発生するのではないか,との質問が寄せられた。それに対し,体長組成だけではそうともいいきれない。現在行っている年齢査定を急ぎ,年ごとの加入量水準を推定する必要があることを指摘した。また,大規模な季節移動をする個体群に対して2カ所で異なる時期に調査を行っているが,これによって資源量の過大もしくは過小評価は起きていないのか,という質問があった。これに対し,多少は影響があるが,イトヒキダラの分布域は非常に広く,調査で資源量の絶対値を推定するのは困難であると考えている。資源量の指標値としてであれば,毎年同じ時期に調査を行うことによって,その傾向を把握することは可能である,と回答した。

ヒラメ太平洋北系群
 過去数年間の全データを用いて作成したAge-lengthキーによる年齢別漁獲尾数の推定を考えていたが,年級群の豊度や成長の年変動が考えられるため,毎年Age-lengthキーを作成する方針に変えたことを報告した。また,貧血症の影響について質問があった。これに対し,東北海区では2,3年前から発見されたが,岩手県宮古湾の例では資源量に影響を与えるほどの状況ではないと回答。種苗放流の効果について,マダイではかなり取り組まれているが,ヒラメについては調査例は少ない。中央水研の評価報告書で実施されているので,参考にして欲しいとのコメントがあり,東北水研でも調査を充実させていく予定であると述べた。

キチジ太平洋北系群
 漁獲割合が1桁となっており,低すぎるのではないかとの指摘があった。それに対し,今年度から曳航式深海用ビデオカメラと着底トロールの同時調査により得られた採集効率を使っているので,資源量が過大評価になっている可能性は低いことを説明した。漁獲割合が低い要因として,資源水準が低く,キチジがまばらに分布していること,近年は狙い操業が少ないこと,寿命が30歳程度であり,あまり高い漁獲割合は想定しにくいことを説明した。

サメガレイ太平洋北系群
 産卵親魚を増やす目標に対し,産卵期前後の漁獲を減らすとあるが,関連がわかりにくいとの指摘があったが,漁獲の中心である宮城県では漁獲が産卵期前後に集中しており,漁獲対象は主に産卵親魚であることを説明した。
 サメガレイは調査船調査であまり漁獲されないようであるが,漁具の改良や漁船の用船による調査等は考えられないかとの指摘があった。トロール網の改良については,マダラやキチジ等の資源量推定の継続性のために考えていないことを説明した。たとえグラウンドロープを改良したとしても,資源量が少ないサメガレイのような魚種では十分な標本が得られるかは疑問であり,サメガレイの資源量推定が調査船調査になじむか疑問であることを指摘した。サメガレイについては,水揚げ物調査によりデータを収集する計画であることを説明した。

ヤナギムシガレイ太平洋北系群
 ABC算定法に関する記述がわかりにくいという指摘と,大きく安全を見込んでいる理由に関する質問を受けた。算定法に関しては訂正し,近年の漁獲量とCPUEが大きく減少していること,寿命が長いことにより,資源が一度減少すると回復が困難であることを,安全を見越す理由として回答した。

キアンコウ太平洋北系群
 管理上の提言で成長乱獲を避けた場合の計算結果を付けるべきとの指摘については,今後検討することとした。また,αの値の根拠ついて質問があったが,現時点では具体的な根拠を示すことは困難であると回答した。

サンマ北西太平洋系群
 サンマについては中層トロールによる資源量推定,非平衡プロダクションモデルによるABCの算定など,新しい手法を導入したため多くの議論が出された。主な質疑応答は下記のとおり。
 日本200海里内とロシア200海里内の資源量の出し方についての質問があった。これに対し,プロダクションモデルから直接求まるABCは日ロ200海里内のものであり,2002年については,過去のロシアEEZと日本EEZの資源量の平均比率から,機械的に計算した。サンマは北方から加入して,南へ抜けてしまうので本来,日本EEZとかロシアEEZに固有の資源量などというものは存在しないと回答した。また,中層トロールにより資源量推定を行う手法は画期的であるが,調査中にサンマの分布水温も表面水温も変化するので,水温で漁場範囲を層化する場合に誤差が大きくなるのではないかという疑問が出された。これに対しては,もう少しデータを貯めないと検討できないが,この時期が最も分布範囲が狭い時期なので,調査時期としては適当であると考えている。
 非平衡プロダクションでKが変化した場合の影響の検討や,本手法による資源評価の妥当性について質問が出されたが,Kを多少変化させてもパラメータ推定値に大きな変化はないが,Kを大きく取ると水温の効果が小さく見積もられるようであること,非平衡プロダクションモデルの条件を満たしているかどうか不安な面もあるが,この方法は高度回遊性魚類を含む多くの魚種で適用例があり,当面はこの方法で評価をすることを考えていると述べた。数年後には中層トロール調査のデータが溜まり,年級間の関係も検討できるので,他の手法(コホート解析,
年級間の対比)を取り入れていく計画である。

 上記の討議内容をふまえ,ブロック資源評価報告書を修正して水研センター本部に提出した。今年度の評価会議では昨年度と同じ時間設定で開催したが,海況の説明および3魚種の報告が増えたため時間が足りなく,一部の魚種では十分な議論の時間をとれなかった。他機関の出席者のことを考えると,サンマ漁況海況予報会議と連続で開催する必要があるため,次年度は余裕を持った会議日程にする必要がある。

平成14年度北西太平洋サンマ長期漁況海況予報会議
開催月日・場所:平成14年8月5−6日,東北区水産研究所会議室
参加機関:関係道県水試等(青森水試等8機関),宮城県漁業振興課,漁業情報サービスセンター,全さんま,関係団体等,第二管区海上保安本部,気象庁海洋気象情報室,東北農政局,水産庁(資源管理部,増殖推進部),仙台漁業調整事務所,水研センター(本部,遠洋水研,東北水研),52名

(1)東北海区および北方水域の海況
 各道県水試・センター,漁業情報サービスセンター,東北水研から海況の経過と現況および今後の見通しについて報告があった,海況の現況は次のように報告された。@近海の黒潮の北限位置は,やや北偏。A黒潮系暖水の北への張り出しは,近海で平年並み,沖合で北寄り,B暖水塊が鮫角の東約200km沖にある。暖水塊が,歌津崎の東約100km沖,および請戸の東約400km沖にある。C親潮第1分枝の張り出しは,やや北寄り。親潮第2分枝の張り出しは平年並み。冷水域が,金華山沖と常磐南部沿岸にある。D津軽暖流の下北半島東方への張り出しはやや強勢。これに基づいて,今後の見通し(案)が提案された。

(2)調査結果
 各機関から,サンマに関する,稚仔魚の分布,未成魚および成魚の北上期・索餌期の魚群分布および定置網への入網状況について報告があった。その結果,来遊量については尾数では昨年並みであるが,重量では昨年を上回ると考えられた。また,沿岸を北上した群れは少なかったと推定された。また,漁期・漁場については,道東沖の親潮域の水温は昨年より低く,沖合の親潮前線も平年並みからやや北寄りであるため,漁期当初の漁場は色丹島から落石沖に形成されると考えられ,魚群の南下を阻む暖水塊や津軽暖流の強い張り出しがないことから,三陸沖への魚群の南下は平年より早いと考えられた。さらに,調査海域全域にわたり大型魚の群れに中型魚と小型魚が混在しており,漁期当初から大型魚が主体となるが,中型魚と小型魚の割合が高いと予想された。これらに基づいて今後の見通し(案)が提案され,討議の結果下記の予報文が採択された。

平成14年北西太平洋サンマ長期漁況海況予報
海況
(1)沿岸の親潮は,平年より北寄りで推移するが,三陸南部から常磐近海では,一時的に冷水域の影響がある。
(2)三陸沖にある暖水塊は,北東へ移動する。
(3)東北近海の黒潮は,平年並み〜北寄りで推移する。
漁況
(1)来遊量:来遊資源量は昨年並。
(2)漁場・漁期:初期漁場は,道東から色丹島沖に形成される。漁期当初の漁況は低調であるものの,沖合からの魚群の加入に伴い漁況は好転する。魚群の南下は例年よりも早く,9月中旬には三陸沖に漁場が形成される。
(3)魚体:漁期当初は中小型魚主体であるが,沖合から加入する魚群は大型魚主体である。また,昨年に比較して大型魚の体長モードは1cmほど小さく,肥満度は低い。