若鷹丸船内LANの現状と将来構想


佐々木 洋治

 
 3代目若鷹丸は,平成6年12月6日に三井造船株式会社玉野艦船工場において進水を迎えてから,早いもので8年近くの歳月が経過した。
 当時に於ける最新の造船技術及び調査観測技術の粋を結集し,海に浮かんだ研究室として,世界標準の観測機器を採用するとともに,21世紀においても通用する調査船としての機能を発揮できるよう,振動・騒音の低減化による音響機器の精度向上,コンピューターを用いた船内情報処理の高度化,調査・観測機器の能力向上,作業環境,居住環境の向上を図った。また,様々な新システムを採用して大幅な省力化,自動化を図っている。
 竣工してから今日までその性能を十分に発揮して,膨大な調査データを収集し,東北海区沿岸・沖合及び北太平洋の水産生物資源及び海洋環境に関する調査・研究に貢献してきた。しかし,一方で,今日に至っては,若鷹丸に搭載されている調査・観測機器/航海計器の殆どが,ソフト・ハード面どちらか,或いは,両面で更新,換装時期を迎えている。特に船内LANシステムにおいては,システムの老朽化に伴うトラブルの頻発化と,急速な進歩を続けるコンピューター環境との隔たりの拡大の問題から,更新・再構築が最も急がれる。若鷹丸の船内LANは,船内情報処理,膨大な調査データの収集・蓄積を自動化し,大幅な省人化を実現するためには必要不可欠なものであり,船内LANシステムの安定性と高度処理能力が機能しなくなった時点で,若鷹丸の調査船としての能力は停止するといっても過言ではない。

LANシステム現状と将来構想の比較表


現状 将来構想 備考
LAN通信方式 光トークンリンク&イーサネット(10Base-5) 100BaseTXイーサネット&無線LAN イーサネットは100Mbpsが主流だが船内は10Mbpsネットワーク過負荷によるHUBの焼き付け発生
端末(クライアント)PC NEC PC98 DOS/V
端末OS
Windows3.1
MS-DOS
Windows2000
WindowsXP

サーバー CPU:Pen 60MHz
メモリ:64MB
HDD:1.05GB*3
CPU:Pen4 2GHz
メモリ:2GB
HDD:36.4GB*3
新規機種は具体化してから再度検討
現行HDDのレイドシステムは故障が頻発し,もう予備品がない状況
サーバー OS Netware Windows2000 Netwareは製造中止となりアフターサービスも'01/6打ち切り
ネットワーク構成 拡張性がなく複雑で,故障発生時の原因特定がしにくい 保守管理が容易な拡張性のあるシンプルなもの (TCP/IP) データシーケンサーのハングアップが頻発し,データが記録されない状態が起きる
アプリケーションソフト 航海情報表示システムはVisual Basic言語
一太郎Ver.5 Lotus3.1 等
航海情報システムはJavaスクリプトで開発
MS Office XP 等
現行航海情報表示システムはVisual Basicで開発したため,OS依存し,WindowsXPやMac等では使用できない。
アプリケーションソフトは導入段階で最新バージョン
船陸間通信 専用端末による船舶電話モデム(実質1Kbps程度) インマルサットHSDとデータパケット通信を併用し,船内LANと結ぶ(64Kbps) 現状ではテキスト情報等の小容量の情報しか送受信できない

 上記の表でもわかるように,建造時から一度もバージョンアップ等がされていないサーバー&クライアントのOS及びアプリケーションソフト(ソフト面),NEC製 98シリーズのクライアントPC(ハード面)など,現在主流となっている規格から大きく外れたシステムとなっている。そのため,陸上で使用しているデータ・情報・文書ファイル等を船内LANに接続している端末では使用できず,作業能率が低下している。
 また,老朽化に伴う故障等の頻度が増加し,その時メーカーから部品等のサポートが受けられない状況にもなってきている。このように,明日にでも故障が発生し,部品等がメーカーから供給されず,LANシステムが復旧不能な状態になってもおかしくない状況にあり,場合によっては運航や調査業務に重大な障害をきたす恐れがある。船内LANシステムが機能しないことは,若鷹丸の調査船としての能力を失うことと同じことであり,現在非常に不安定な状態にあることは言うまでもない。
 このよう状況を解消するために下記のコンセプトを基に新LANシステムの更新,再構築を検討している。
基本方針
1)データ安全性を向上させたシステム
 専用のデータベースを新たに構築し,データの安全性を高め,蓄積したデータを容易に有効利用ができ,人為的操作ミス等でデータファイルを破壊する心配のないシステムにする。
2)ネットワークシステムの安定性
 シンプルで将来の拡張性に優れ,メンテナンスが容易で付帯工事の軽減が期待できる無線LANシステムを採用する。無線化することにより,船内での可搬性を高め,作業効率をアップさせる。
3)研究所とデータ共有ができるシステム
 インマルサット通信(64kbps)を利用し,研究所と若鷹丸の間でデータを共有することができるシステムを導入し,データ解析処理能力を向上させるとともに,効率的な運航管理を可能とする。また,若鷹丸のすべてのクライアントから陸上とのE-Mail送受信ができるようにする。
4)クライアントPCの機種及びOSの依存性の排除/可搬性
 OS依存性のないJavaスクリプトによるシステム構築を行い,研究者サイドは個々の環境設定がしてある通常使用しているPCを持ち込み,若鷹丸のネットワークへ接続して使用できるシステムにする。また,若鷹丸でPCを新規に購入した場合にも,ネットワーク接続の環境設定が容易にできるようにする。
5)定繋港に近い業者を選定
 このことは,システムの再構築を考える上で殆ど考慮されないことだが,将来のメンテナンスや故障等で業者の来船も多々ある。その時の出張費用が将来のシステム維持費に大きな負担となるので,出来るだけ定繋港の近くの業者が望ましい。また,新システムにおいて発生する問題点の早期解決のためにも,航海に乗船し実際の作業状態を確認することができる業者,短い定繋港停泊期間に即座に修理対応等ができる業者を選定する必要がある。
 
 以上,5点の基本方針は,予算と今後の拡張性を考え必要最低限に絞ったものである。
 若鷹丸と同時期に同様な船内LANシステムを搭載した水産庁の漁業調査船開洋丸,漁業取締船白嶺丸,白萩丸,中央水研の漁業調査船蒼鷹丸は,既に全システムまたは一部システムの換装や更新を終え,新システムで運航している。未だに本船だけが新造船当時からの旧システムのままで運航している。
 予算関連の問題でなかなか進まないが,最悪の状態に陥いる前に更新できるよう努力をしている。
(若鷹丸船長)