小学校での講師体験

高橋一生

 平成12年8月31日に塩竃第一小学校からの依頼で、一年生生活科「塩竃の海探検」の事前指導として「身近な海〜波打ち際の生き物たち」と題する講演を行ってきたので本紙面をお借りしてご報告したい。
 うちの小学校で講演してくれませんか。こんな話が舞い込んだのは7月末の所一般公開で「身近な海〜波打ち際の生き物たち」と題したミニ講演会を終えた直後のこと。講演を聴いていただいていた塩竃第一小学校一年生担任の先生からの依頼で、2学期早々に実施される野外実習のための事前指導をしてくれないかということだった。普段から基礎研究に携わっていると自らの研究の重要性を認識しつつも、自分が社会に対してどれほど貢献しているのかを直接目に出来ないもどかしさを多かれ少なかれ抱いてしまうものだ。「社会貢献」という錦の御旗には私も弱い。話す内容も同じでいいということで喜んで引き受けた。
 さて、当日。担当の先生に迎えられ理科室に通された。まもなく子供たちが入ってきた。76人の一年生。とにかく最初が肝心。大きな声で「みなさん、おはようございます」と挨拶をしたら、元気な「おはようございまーす」という声が帰ってきた。期待と好奇心に満ちた視線がこちらに向けられている。普段の学会やシンポジウムとはひと味違った緊張感のなかで話しを始めた。
 聴き手は一年生なので、一般を対象としていた所一般公開での内容をそのまま話すわけにもいかない。とにかく飽きさせないようになるべく多くの資料を次々に見せることにつとめた。資料の多くはホームページ等から集めた静止画像を使用したが、浜辺で撮影したビデオなども適宜使用した。とくにハマトビムシ(ヨコエビの仲間)のビデオ映像は、ゴマ粒大にしか映っていないにも拘わらずかなりの注目を集めた。やはりテレビ世代なんだなと思っていたらそうではなかった。続いて前日に菖蒲田海岸で採集してきたアミやヨコエビをシャーレに入れて、泳いでいる姿をOHPで投影したところ、子供たちはさらに大きな歓声を上げ、一部の子供たちは席をはなれ教壇に押し寄せてきたのだ。当たり前と言ってしまえばそれまでだが、どうやら子供たちはより実物に近いものに反応するらしい。実物が何者にも勝ることを改めて感じた。幸い子供たちは、この事前指導の2週間後、実際に桂島へ「探検」に行くという。大いに実物に接する機会があるだろうと考え、個別の事象には深く言及せず浜辺での観察の方法や注意点などを、できるだけ平易な言葉でゆっくりと話すことを心がけた。あっという間の45分間だった。
 後日、子供たちから桂島での体験を綴った絵入りの手紙が届けられた。手紙には船やカモメの話しに混じってハマトビムシやアミ、打ちあげられた海藻の話など、知らなければ目にも留まらなかっただろう生物の文字も見受けられ、つたない私の話のいくつかは子供たちの心の片隅に残っていたことを知って安堵した。
 「自分の研究内容を分かりやすく他者に伝える」ためには、自分の研究の大切さ、面白さを本当に理解しておかなければならない。わかりきっていることだが今回小学校一年生を相手に講演をして改めてそう思った。そういう意味では、研究者は常に小学生相手の講演がこなせるぐらいに自分の研究テーマと深くつき合っていなければと思う。自然の美しさや不思議さに素直に感動する子供たちの反応は、私が気付かなかった、あるいは忘れていた、研究の面白さや大切さに改めて気付かせてくれた。
(混合域海洋環境部 生物環境研究室)

Kazutaka Takahashi