独立行政法人の発足に際して
伊藤克彦

 水産庁東北区水産研究所は、21世紀最初の年の平成13(2001)年4月1日より水産庁研究所のすべてを統合した独立行政法人水産総合研究センターの内部組織のひとつ「独立行政法人水産総合研究センター東北区水産研究所」として新たな出発を迎えることになりました。
 顧みますと、水産庁東北区水産研究所は黒潮と親潮とが出合う極めて生産性の高い優れた漁場を研究の場として昭和24(1949)年6月に設立されて以来、50余年にわたって調査・試験研究を担ってきました。ほぼ半世紀にわたる時の流れのなかで、我が国の水産業をとりまく状況は著しく変化してきました。食糧難の時期の貴重な動物性たんぱく質食料の確保・増産にむけて、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと日本漁船の姿を見えない海はないほどに生産活動を拡大させた時期に始まり、海洋の陸棚資源に対する諸外国の関心と権利意識の高まりと国連海洋法条約の制定・発効による200海里体制の導入と進行にともなって、遠洋から沖合に、そして200海里水域内へとおもな生産の場が縮小過程に入った時期、そして今日、国連海洋法条約の定着によって、排他的経済水域内の水産資源の利用・管理に関わる国の権利と義務の履行が求められる時期に至っています。とくに最近の漁獲量の継続的な減少から推察される水産資源水準の憂慮すべき低下と生産の場としての陸・河川・海域の環境の地球的および局地的な規模で変化する現象が顕在化しています。また、産業を支える漁業就業者数は、平成11(1999)年には約27万人となり、この46年間で最高就業者数の約3分の1にまで落ち込んでいます。
 このような時代と産業社会の動きの中で、東北区水産研究所は、まず海洋資源と増殖及び利用加工などの研究を柱にして出発しました。その後,利用加工研究を東京に集中する一方,海洋研究を充実させるなど時代と産業社会の変化に適切に対応した研究組織の整備を繰り返しつつ、研究推進の柱となる研究基本計画を策定し,適宜の見直し・改訂を行い、それに則って研究を推進してきました。平成10(1998)年10月には水産庁研究所として最後の組織再編をおこない、混合域の漁業資源、海洋環境及び沿岸域のつくり育てる漁業の基盤研究を充実強化する体制を整えました。そしてこれまでに、さんま・いか・かつお・さば類をはじめとする浮魚類とひらめ・かれい類・たら類等を中心にした底魚類の生態と資源量把握および漁況海況予測ならびに資源変動と密接に関係する混合域の海洋構造とその動態と生物生産過程の解明、さらには沿岸域におけるのり・わかめなどの大型海藻類、かき・ほたてがい・あわび類などの貝類の増養殖技術の発展と貝類の毒化予知・防止に向けた基礎固めなどに多くの研究の成果を積み上げることができました。これらの成果は、ブロック各県の試験研究機関の皆様から頂戴した暖かいご支援と諸先輩並びに職員各位のご努力とご尽力の賜であり、まことに有り難く、感謝申し上げる次第です。
 法人化によって私どもに求められる調査および試験研究の役割は大きく変化するものではないと推察されます。しかしながら、国が策定した水産研究・技術開発戦略(平成12(2000)年6月)とそれを基礎にして定められた中期目標の課題を東北区水産研究所として確実に実行するためには、これまで推進してきた研究を詳細に再点検し、獲得目標を明確に定めて深化させる形で、とくに水産資源の動向予測と的確な評価、漁況海況予測の精度の向上、資源の持続的な生産を保障できる海洋の生物生産機構の解明と資源管理技術の高度化、沿岸資源回復のための科学的な技術理論の確立をはじめ、これまでの人間活動によってもたらされた海洋環境に対する地球規模および地域規模の影響の監視と機構解明などに力を注ぐことが必要です。
 法人による運営は、従来の水産庁研究所の場合とは異なるものとなっています。法人においては、国からの直接の関与が排除され、法人の長の裁量権限が拡大されることで組織・業務運営について弾力的かつ効果的で効率的な執行が期待されるとともに、運営に創意工夫の行える余地が増えるといえます。私どもの法人は、研究成果を売りとする「研究法人」であり、国が定めた中期目標を受けて「研究成果」という形での目標達成が最も重要なポイントになります。また、法人の業務運営の効率化と高度化の工夫、専門研究分野を活かした社会貢献及び成果の公表・普及・利活用の促進、並びに費用対効果・自立経営を視野に入れた財務内容の改善等などへの努力と、結果責任を基本とした「事後評価」に対する普段の心構えと真摯な取り組みに心掛ける必要があります。ただ、成果に基づく評価は、時として目の前の成果の獲得への過度のこだわりを生むこともありましょうが、私どもは、つねに将来を見据えて研究すべき問題の本質を見極め、しっかりとした理念をもって研究に取り組むことを忘れないように肝に銘じておかねばなりません。そのため、研究者の発想を大切にし着実に成果を積み上げられる安心で安定した研究環境の醸成につとめるよう、とくに留意することが必要であると考えます。
 この度の独立行政法人化は、今までに全く経験のない大変革です。これから発足する法人の組織運営をはじめとするすべての課題について、手探りでまた試行錯誤の繰り返しになるかもしれませんが、よりよい改革の結果を導きだすと共に、水産の科学技術の飛躍的な発展をとおして社会に貢献できるよう職員一同とともに精一杯努力し、邁進努めていきたいと思います。
 最後に、法人としての東北区水産研究所の担うべき役割は、水産研究・技術開発戦略を達成する中で、東北ブロックの水産上の諸課題を解決するための基礎を固めることにあると考えます。そのため、混合域の「水産資源・水産生物」とそれらの生産と生活の場である「海洋環境」における専門分野の研究をさらに深化させると共に、分野別研究を密接に関係づけた総合的研究を積極的に推進することにより、その役割が達せられるものと確信しています。また、ブロック県試験研究機関の皆様との日常的な情報のやりとりや具体的な課題に基づいた研究の協力と連携の取り組みがますます重要で不可欠であると考えております。法人化後においても従前に増したご協力とご支援を賜りますよう、あらためてお願い申し上げます。
(所長)

Katsuhiko Ito