サンマの資源量推定のための中層トロール漁具の開発
上野康弘・巣山 哲・栗田 豊

1.背景と目的
 日本におけるサンマの資源・生態調査には,従来から多種目合の流し網が使用されてきたが,(1) 測定を目合毎に行わなければならないので手間がかかること,(2) 掃海面積がはっきりしないので,分布尾数を直接推定する事が難しいこと,(3) 荒天に弱いこと,など資源調査用の採集漁具としては致命的な弱点がある。今後,サンマ資源評価精度の向上を図るためには,これらの弱点を克服することが必要不可欠である。
 中層トロールは浮魚類を効率よく漁獲できることが知られており,前述した流し網特有の弱点を克服できると期待される。日本では中層トロールは,サケマス調査に盛んに用いられ,それらの調査においてはサンマの混獲もしばしば見られている。そこで,我々は中層トロールによるサンマの定量採集方法の確立を目的として,さけます調査で実績のある2種類の中層トロールと現在サンマ資源調査で用いられている流し網の比較試験操業を行い,中層トロールの資源調査への応用に必要な基礎的な知見を得ることができた。
2.方法
 2種類の中層トロール(俊鷹丸型 ニチモウ(株)NST-99-K1;網口高さ・幅30m×30m,図1上,開洋丸型 ニチモウ(株)NST-60-K1;網口高さ・幅50m×50m,図1下)とサンマ調査用流し網(21,26,30,34,37,40,43mm,各2反計14反構成,1反37m)の比較試験が行われ,それぞれ対照的な結果が得られた。
3.結果
(1) 俊鷹丸型中層トロールと流し網の比較試験:トロールは,ワープ長300mの時には流し網と比較してサンマの漁獲が少なくカタクチイワシ,マイワシ,サバ類などの中層魚の漁獲が多かった。ワープ長を200mに短縮するとサンマの漁獲が非常に多くなり,中層魚類の漁獲は少なくなった。ワープを短縮すると漁獲効率が上がる原因については,網の両端が海面に浮上して表層の魚群を捕捉できるようになったためであると考えられた。このタイプのトロールはサンマの資源調査に使用可能であると推測された。
(2) 開洋丸型中層トロールと流し網の比較試験: 開洋丸型の中層トロールの曳網試験では,俊鷹丸型の曳網試験の教訓を生かして,初めから網の上部パネルの両端を海面まで浮上させるように配慮したが,サンマはほとんど漁獲出来なかった。サンマが漁獲できなかった原因としては,下記の2点が考えられた。
I. 網の目合が大きすぎたこと(俊鷹丸型最大13m,開洋丸型最大27m)
II. 網の上部パネルの広さに対して,船の規模が大きすぎたこと(俊鷹丸では船の最大幅9mに対し,網の上部パネルの最大幅30m,開洋丸では船の最大幅15mに対し,網の上部パネルの最大幅30m)
サンマの遊泳水深は極めて浅いと考えられており,漁船の船底部が通過する層がサンマの遊泳層と重なるか接するために,漁船の規模と網の規模の相対的な関係がサンマの漁獲効率に大きく影響すると考えられた。
成果の活用面・留意点
 中層トロールはサンマの資源調査用に使用可能であることが確認されたが,その設計,運用方法により漁獲効率が大きく異なることが分かった。サンマ資源調査用のトロール漁具を設計する上では,特に下記の3点に留意すべきことが分かった。
(1)最大目合は俊鷹丸型にならって,最大13m以下に抑える。
(2)曳網する船が漁獲に大きな影響を与える可能性があるので,網は船の規模に対してなるべく幅広くなるようにした方がよい。俊鷹丸型を基準とすれば網の上面の横幅は船の幅に対して3倍以上は必要であろう。
(3)網の上部パネルはなるべく海面に浮上させた方が良いので,パネル構成は4枚とし,パネルの両端まで浮上するよう漁具設計を工夫するべきであろう。
 また,資源量推定に中層トロールを使用する場合には,曳網する船が漁獲に大きな影響を与える可能性があるので,漁獲効率の推定に当たっては,サンマの場合は他の中層性浮魚などと比較して低めに設定する必要があろう。特に船の規模と網の規模の比によって漁獲率が大きく変わることを予め認識しておく必要があろう。
 付随的な成果として,運用方法によってサンマを効率良く漁獲することができたことから,中層トロールによりサンマを商業的に漁獲できる可能性があることを示した。
写真図版:俊鷹丸上で中層トロールによって漁獲され甲板上にあふれるサンマ
(八戸支所 資源生態研究室)

Yasuhiro Ueno, Satoshi Suyama and Yutaka Kurita