黒潮続流の蛇行によるcross frontal flowとクロロフィルa分布
(若鷹丸1997年5月観測航海結果)
伊藤進一*1・松尾 豊*2・横内克巳*3・稲掛伝三*4

 クロロフィルa(Chl-a)分布と黒潮続流の蛇行との関係を調べるために,東北区水産研究所漁業調査船若鷹丸にて,1997年5月に,続流域で蛇行の峯,谷などを横切る4本の子午面断面観測を行った.4観測線すべてにおいて,続流の北側(混合水域)での比較的浅いChl-a亜表層極大と,続流の南側(亜熱帯域)での深いChl-a亜表層極大という典型的な共通の特徴が観測された.しかしながら,続流の強流帯においては,蛇行の峯では表層付近にChl-a極大が形成されるのに対し,谷では亜表層にChl-a極大が形成されており,蛇行に対する位置によって異った特徴を示した.この違いは,続流の蛇行の東向きへの伝播に伴って生じる流れ,すなわち谷(峯)から峯(谷)にかけての北(南)向きに続流を横切る流れ(cross frontal flow)によって説明できる.続流域では当密度面が傾いているため,このcross frontal flowによって,谷(峯)から峯(谷)にかけて上昇(下降)流が生じる.この鉛直流が続流域での峯と谷におけるChl-a分布の違いを引き起こしていると推測される.
 一方,蛇行の谷から峯にかけての北向きのcross frontal flowは,サンマ・マイワシ等の仔稚魚を混合水域側に運ぶ一つの要因と考えられる.この場合,蛇行の谷から峯にかけての領域は,表層Chl-a極大が形成され,生産性の高い領域になっており,仔稚魚の生残にとって好適な条件を形成している.つまり,サンマ・マイワシ等が,本州南岸の黒潮域に産卵することは,貧栄養な続流の中を仔稚魚が移流されるということ以上に,続流という強流帯から外れた後,好餌料条件下に置かれるという面で,生残戦略として意味があると考えられる.
(*1:混合域海洋環境部海洋動態研究室)
*2:中央水産研究所
*3:西海区水産研究所
*4:遠洋水産研究所

Shin-ichi Ito, Yutaka Matsuo, Katsumi Yokouchi, Denzou Inagake